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休憩を終え、キャラバンに続いて出発する。
相変わらず後詰めはロレンツォとアウグストの二人体制だ。
黒狼二頭を斥けたが、他の魔物が居ないとは限らない。
警戒を怠らずに歩みを続ける。
俺たちの前を行く馬車の商人は完全に安心し切って鼻歌を歌っている。
またもや妙に悲しい陰鬱なメロディだ。
ポリオリの喉自慢で聞いた歌も暗かったよな。
この世界では暗い歌の方が受けが良いのだろうか。
のびやかだがもの悲しいメロディを聴きながら頭上高く昇った月を見る。
薄い雲がたなびき月に掛かるが、完全に隠しはしない。
ああいう半分の月を見て、誰かがギョウザのようだと言っていたっけ。
今夜の月はなんだか黄色っぽいので確かにそんな感じだ。
月を見てギョウザとか言ってるとモテなさそうだからカットされたレモンみたいとか言った方が良いかも知れない。
山盛りの唐揚げに添えられたレモン。
、、、腹が減って来た。
ポケットに入れておいた干し肉とナッツを食べようと手で探ると、着ていた筈のローブのポケットは無かった。
そうだ、また忘れてた。
ローブは燃しちゃったんだ。
あの中に干し肉とナッツが入ってたんだ。
もー、俺の馬鹿馬鹿馬鹿!
今思えばあんなに焦って光源を作る必要はなかったんだ。
みんなルチェ・ソラレの光だけで対処出来てたんだ。
落ち着いて魔力を抑えて次の攻撃を待てば良かったんだ。
もしくは腕を振ったりして光源を動かせば影を伝って来れはしなかっただろう。
もっとやりようがあった筈だ。
、、、いやあ、でもあの時は二頭だけとは知らなかったしなあ。
後悔先に立たずというやつである。
項垂れていると後ろからロレンツォが近づいて来ていた。
ローテーションだろうか。
いや、トイレかも知れない。
慌てて背筋を伸ばす。
「どうされました?」
「いや何、私が一緒だとアウグストが気を抜いてしまうようでちょっと独りにして刺激を与えようかと」
ありゃマズい。
俺も完全に緊張感の糸が切れてたわ。
気合いが足りてないな。
両の手で頬を叩く。
しゃっきりしなければ。
「オミ殿、先程は本当にありがとうございました」
「え」
「ふた回りも歳下の若者に命を救われてしまいました」
「いえいえいえ。そんなそんな」
「今夜のあれは完全に私のミスです」
「いや、そんなことは、、、」
「黒狼の襲撃が来るであろうと分かっていたのだから松明や少なくとも薪などは用意すべきでした」
ああ。
オオカミに備えた時は薪を積んでおいてくれたもんな。
「そうすればオミ殿のローブを燃やさねばならないような事態にはならなかったでしょう」
「いやあ、まあそうかも知れませんが、、、」
「オミ殿の機転がなければ我々は全員やられていたでしょう」
「そんな、、、」
「我々は少々オミ殿の魔術を過信し過ぎておりました。少し考えれば一晩中魔術の光を灯し続けられる訳などないと分かる筈なのに、お恥ずかしい限りです」
「いえいえいえ、、、」
隣で聞いていた王子も加わった。
「そうだな。それに、馬の糞を燃やすなどよく思いついたな。それもあんなに長持ちするとは知らなかったぞ」
「それはサナに滞在していた時にサナ人が家畜の糞を暖房や料理に使っていたのを体験してましたから。サナに連れて行ってくれた長官のおかげです」
王子が苦笑した。
振り返ればロレンツォも困ったように笑っている。
あれ、何か変なこと言ったかな。
「もう慣れたがオミは謙虚が過ぎるぞ。お主は我々の命を救ったのだ。誇って良いのだぞ」
誇る?
、、、ってどうやってするの?
誇り方がよく分からない。
胸を張って鼻高々にすればいいのだろうか?
なんか俺がやると嫌な奴になるイメージしか湧かない。
「そうおっしゃいますけど、もう反省ばかりですよ。もっとやりようがあった筈なのに考えが足らずにせっかく頂いたローブを燃やしてしまって、、、」
「ふむ、勝って反省か。そうした姿勢は我々も学ばねばならんのかも知れないな」
ロレンツォも深く頷いていた。
カイゼン。
上手く行ってても常に改善点を探し続けるのはトヨタの創業者の言い出した理念だ。
別に俺の発明じゃない。
でもそういう姿勢が俺たち日本人には染み付いているのかもな。
ふむ。
「お褒めいただきありがとうございます」
「お、その調子だ。褒められた時はその事に感謝しておくと心象がいいぞ」
そうだ、執事氏にも言われていた事だ。
謙虚と反省はやめようと思ってもやめらるものでもなさそうだから感謝をちゃんとするようにしなければ。
俺は割と誰かが何かをやってくれてもポカンとしている事が多いからな。
反省、反省。
改善、改善だ。
誤字報告ありがとうございます!
季節の変わり目、皆さまどうかお身体には気をつけてくださいませ!




