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 漁の方は順調だが副業の方も順調である。

 真っ黒い吸魔石に魔力を注ぎ込んで透明な魔石にするバイトだ。


 こないだ青くなった石が予想以上の高値が付いたとかで銅貨10枚つまり大銅貨1枚のギャラになった。

 俺とトレスはお互いの稼ぎを次の吸魔石の購入に全額注ぎ込むことにした。

 トレスが幾ら稼いだのかはっきり言わないところを見るとかなりのパーセンテージがボられてる気はする。

 まあしかし、トレスも軍艦の乗組員に仲介してもらってる筈なのでヤツもまた仲介人に抜かれているのだろう。

 石屋と直で取り引きできるようになるまでは仕方がないのかもしれない。


 とりあえずトレスは新たな吸魔石を10個仕入れてきた。

 10個ともなると今までのようにズタ袋の麻布でくるむだけでは心配なのでトレスに縫い針と糸を手配してもらって初めての裁縫を頑張り10個の小さな隠しポケットの付いたフンドシを作った。


 よってフンドシの洗濯は自分でしなければならない。

 始終海に入っているのでほとんど洗濯はしないのだが、魚の血が付いたまま放っておくとかあさんに毟り取られて洗われてしまう。

 そしたら吸魔石が縫い付けられていることは確実にバレるだろう。

 

 そうなる前に「これからは洗濯は自分でする」と宣言したのだが、かあさんは訝しげにしていた。

 すると、とうさんが何かを察したようでかあさんを説得してくれた。


 とうさんは何か「男子の事情」と勘違いしているようだがナイス勘違いだ。


 ちなみにそっちはまだなのだが、確かにそういう年頃なのだから待ち遠しいようなそうでもないような。


 何の話って、俺の口からは説明しにくいアレだよ。

 本当にそうなったら面倒だから予め自分で処理しておいた方がいいかもしれない。   

 紳士のたしなみってヤツである。

 俺はジェントルメンだからな。



 イータ、イオタ姉妹の魔術はしばらく停滞して毎日ウォーターボールを打ち合う日々が続いていたが、イオタがある日突然基準を満たすウォーターボールを完成させた。


「『精霊よ』のところでウウッとして『清らかな』のところでギュンてするとできる」


 という謎の解説でイータもその日のうちに習得した。

 俺には何がウウッでギュンなのかさっぱりわからないが取り敢えずうんうんうなずいてふたりを褒めておいた。


 数日後にはふたりはフローズンボールも習得し、数週間後にはファイアボールに取りかかっていた。


 俺は完全に置いてけぼりである。


 姉妹がギュウとしてウンだとか、ウーンとしてヒュだとか訳の分からない擬音で魔力のコントロールについて切磋琢磨しているあいだ、俺は悲しく不完全なウォーターボールで自らの手を濡らしていた。


 千本ノックどころかもう六億本くらい打っているのではないだろうか。

 毎日毎日毎日毎日同じことの繰り返しで全く進歩がない。悲しくもなるし嫌にもなる。

 いっそ魔術の練習を辞めたほうが魔石製造が早くなるのではないか。


 そう思ってひとりで不貞腐れていると、見かねたバルドムが声をかけてきた。


「オミよ」

「なんですか?」

「来月、冬至の日にこの村が正式に王国に組み込まれる式典が行われることになった」

「あ、そうなんですか」

「その時には軍の東方統括部のバルゲリス長官がいらっしゃる」

「はあ」

「その時、お前を紹介しようかと思うんだがどうだ?」

「はあ」

「ほら、お前は読み書き計算を4日で習得した天才児だろ? もう生徒もふたりもいるし」

「まあ、もう追い抜かれましたけどね。ハハハ」

「乾いた笑いはやめろよ。言ってなかったか? 長官は魔眼持ちだ」

「ほう魔眼」

「魔力を目で見ることができる。お前が魔術が使えない理由も長官には見えるかもしれん」

「マジすか?」

「ああ、長官は魔眼を買われて軍の魔術教練の指導主任をされていた魔術のプロ中のプロだ」

「是非!お願いします! もうあのふたりに蔑まれるのはイヤなんです!」

「イータもイオタもお前を蔑んだりしてない。お前が卑屈になってるだけだ」

「そうですね、僕が卑屈でした」

「うむ、じゃあ式典の後に呼ぶからそのつもりでな」

「服装はフンドシで大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。あの方は人を見た目や身なりで判断しない」

「おお、、、」

「そもそもお前、よそ行きの服なんかないだろうが」

「おっしゃる通りで」


 そんな訳でようやく俺にも魔術の可能性が芽生えてきたのだった。


 東方統括部長官か、せいぜい嫌われないようにしなくては。


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