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国境まで来た。
山間の緑のトンネルを延々と来て、いきなり門が現れるのだ。
ここには門兵が居て入国管理をしている。
馬を降りて領主氏に用意してもらった出国許可証を見せて通行料を払って通してもらう。
門を抜けても今までと同じく山間に石畳の街道が続いていたのだが、門兵の詰め所があったり馬を繋げておける四阿があったりと、なんだか賑やかに思える。
気付けば、街道に近い場所の木が切ってあって明るいのだ。
緑のトンネルはここで終わり。
「このまま入ってしまいたくなりますが、一旦馬を休ませましょう。ここから市内までが意外と距離があるんですよ」
そうなのか。
俺たちはそのまま馬を引いて、広くとってある側道に降りた。
馬たちは思い思いにそこらの草を喰み始める。
みんなここで馬を休ませるから側道が広くなってるのかもな。
「あの見えているのがバルベリーニの冬城ですよ」
割と低い建物なんだな。
ポリオリ城は規格外に大きいが、カイエンの教会と比べても冬城は小さかった。
ここからじゃ見えないけど、横に大きいのかもな。
バルベリーニはエルフのドームのない新興国であったと習った。
増え過ぎた元リンゼンデンの民が移住して、のちに新たに王を迎え入れてリンゼンデンから独立したのだとか。
貴族の間ではバルベリーニ家は辺境伯などと呼ばれ、その地位は公爵家と並ぶほどであるらしい。
要はとてつもなく大きな農地を有して税収が多いということだ。
田舎だけどお金持ち、みたいな扱いなのだと思う。
加賀百万石、みたいなね。
ちょっと待った、勘違いしないでほしい。
石川県を田舎って言ってる訳じゃないんだ。
いや、田舎かな?
美味しいものが沢山あるイメージしかないわ。
ごめん。
バルベリーニの発展にもポリオリは大いに貢献している。
それまでは樽で流通していたワインをドワーフの作る瓶に詰めたお陰で保存が効き、良い年のワインには高値がつくようになったのだ。
そしてコルクの木がバルベリーニの特産である事はいつだか書き残した通りである。
様々な要因が重なり豊かになったバルベリーニ王家は、寒い冬には南にあって雪の降らない冬城で過ごし、夏には北の高地にある涼しい夏城に居を移す。
半年ごとに引っ越しをするほど財政にゆとりがあるのだ。
そう考えるとヴィート氏の誘いを断ったりアレッシア姫と先に踊ってしまったりしたのはやっぱりマズかったのではと心配になる。
長官もアレッシアちゃんもヴィート氏を嫌っているようだったから仕方なかったけどな。
確かにお金持ちらしい嫌なヤツ、、、訂正する、、、王族らしい磊落なお人柄だったので、女性にはその魅力が伝わり難い側面があるのは否めない、と言わざるを得ないのが現状といった所か。
俺は好きだよ?
フレンドリーで良い人だと思う。
でもまた会いたいかって言われると、、、ねぇ?
え、ちょっと待った。
夏城に寄ったりしなきゃいけないとかあるんだろうか?
ああ、ありそう!
第三王子とはいえ素通りは無さそう。
「あの、王子。バルベリーニでは王族の方々にご挨拶とかってする感じですか?」
「いや、夏城はリンゼンデンに向かうルートからは離れるから寄る予定はないぞ」
ふう。
良かった。
ひと安心だぜ。
「夏城、見たかったか? 時間に余裕ならあるが」
「いやいや、良いです! こんな旅の早いうちに寄り道なんかして後に皺寄せがあると良くないですから!」
王子はニヤリと笑った。
「遠慮なら要らんぞ。何しろ二週間も余裕を見ているのだ」
「大丈夫です! 早めに王都に着いて可能ならマシュトマ港とか見たいなあ! 沢山船が停泊してるんですよね?」
「残念な事に船はあまり泊まってない。しかも海は濁っているし臭うからあまりお勧めはしないぞ。それに引き換え、バルベリーニの夏城は風光明媚でよく知られていてな。一見の価値ありだ。我々が滞在したいと申し入れれば歓迎してくれるだろうし」
ロレンツォ氏もアウグスト氏も苦笑している。
二人も俺がヴィート氏の誘いを断った事は知っているのだろう。
王子は続けた。
「夏城の辺りは牧畜が盛んでな、チーズやバターといった乳製品が美味いんだ。これがまたワインと合う」
「ぐぬ、、、それなら夏城に寄らなくとも旅の途中で食べるタイミングもあるでしょうし」
「何を言っている。王室御献上品がそこらで手に入る訳がなかろう。それに我々は旅費を節約せねばならんのだぞ? うむ、俄然行きたくなって来たな」
王子も意地悪が過ぎる。
俺は降参した。
「王子すみませんでした。ヴィート様が怖いんで城に寄るのはやめましょう?」
「ふむ、確かにな。バルベリーニ国内では姉君の援護も得られぬからオミが取り込まれる危険があるか。よし、やめにしよう」
話にオチが付いたところで俺たちは立ち上がった。
馬たちもひと心地ついただろう。
陽が落ちる前に市内の宿まで到達せねば。
いつもありがとうございます!