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みなさま誤字報告ありがとうございます!

前章は4件の誤字報告をいただきました

皆さんが僕の担当編集者です

忌憚のないご意見ご感想もよろしくお願いします!

 その日は、テレジオ教師がアルベルト王子に付く必要があるとかで久しぶりに俺がクラウディオ王子の授業を持っていた。

 内容は相変わらず数学ではあるが、図形とベクトルについてだった。


 何でかと言えば軍隊の陣形の話をする時に便利そうだと思ったからだ。

 鋭角とか鈍角とかの用語を知っているだけでも会話の速度が変わるだろうし、なんなら面積の求め方とかも知っていれば必要な兵の算出なんかも早くなりそうかなと思ったのだ。


 時間に余裕があれば、滑車を使った時の重量計算とか歯車の比率の計算なんかも扱いたい。


 だって、王子とは付き合いが長くなりそうじゃないか。

 あらゆる知識とモノの考え方は共有しておけば俺が何かに悩んだ時に一緒に考えてくれる頭脳になってくれるはずだ。


 そう思うと時間が足りない。

 出来れば科学や天気に関する常識なんかも教えておきたい。

 水と温度の関係、水蒸気の特性なんかは知っていれば魔術を使う時に様々な効果を狙える。

 つまり応用が効くと思うのだ。


 王子には俺が異世界人という事がバレたので遠慮なく知識をブチ込める。


 あとは何を教えておけば役に立つだろうか。

 天動説?

 進化論?


 学校で教わったことで役に立った知識って何があったっけ?


 うーん、あんまり思いつかない。

 知識ってさ、何かを知りたいと思った時にその足がかりになるけどそれ自体にはあまり意味がないことが結構あるよな。


 例えば内角の和。

 三角形の内角の和が百八十度であることは、知るとへーとは思うが具体的に何かの役に立つかっていうと、、、ね?


 勉強ってその辺が難しいよな。



 午後には俺が王子から貴族について教わった。

 アカデミーに入った時に存在するであろう派閥や、王都を支配する七名家とかだ。


 七名家とはつまり、王様の父方の血筋、母方の血筋、王妃の血筋、宰相の血筋、幕僚長の血筋、イリス教皇の血筋、そこに商業ギルドの会長の血筋がプラスされて七名家という事になる。


 もちろんその上にも下にも細かな分岐があるのでこの七家だけ知っていれば良いというわけではないが、権力をたどると大体この七名家に行き着くという事らしい。


 うーん、全然興味が沸かない。

 だってこれを覚えても誰かが死ねばまた変わるんでしょ?

 宰相が死んだからってその息子が次期宰相になるとは限らないじゃんね?

 王様と王妃も代替わりするのだろうし。


 変化する事物に脳のリソースを割きたくない。

 過去の歴史とか数学の公式とか何が起きても変化しないものなら覚えてやらんでもない。


 要するに俺はあまり頭が良くないのだ。


 頭が良い人なら「これは役に立つよ」って言われたら直ぐに覚える脳のキャパと記憶力があるのだろう。

 俺は繰り返し繰り返し頭に叩き込まないと覚えられないのだ。


 だから人の顔や名前も覚えられない。

 それは会社員時代に嫌というほど知らしめられた。

 取引先の相手が覚えられないのだ。

 なのに先輩には相手の誕生日と好きな球団とペットの名前と家族構成まで覚えろと言われた。

 無理むり無理。


 つまり俺には社会生活を送る才能がないのだ。

 会社で出世する能力が欠如しているのだ。


 コンビニは良かった。

 バイトを含めた従業員は二十人くらいだったからな。

 しかも全員名札を付けてたし。

 シフト表を見てから会うので間違いようがない。

 繰り返し会っているうちに覚えられる。



 俺はアカデミーでやっていける自信がすっかりなくなってしまった。


 俺はきっとヤバい相手の足を踏んづけたりするようなヘマをしてしまうに違いない。

 で、相手が誰だか分からないままペコペコするしかなくて舐められたりするのだ。


 別に俺はそれでも良い。

 王子まで舐められると後々ポリオリまで舐められる事になりかねない。

 流石にそれはマズイだろう?


「ねえ、王子。やっぱ僕は一緒に行かない方が良くないですか?」

「なんだ、アカデミーのことか?」

「ええ。僕みたいな変なのが一緒だと王子の評価が下がってしまうのではないかと思うんですが、、、」

「お主、さては貴族の名前を覚えるのが面倒なだけであろう?」

「面倒だから嫌がっている訳ではないのです。前世でも人の顔や名前を覚えるのが苦手で酷く苦労したんです」

「キアラ王女の手紙からは花の好みとか色々読み取っていたではないか」

「そういうのは出来ます。あ、でもこれが会話となると全然駄目で、相手の真意とか思惑なんかが全然推察できないんですよ。人間失格です」


 そうなのだ。

 耳で聞く言葉は額面通りにしか理解できないので、嫌味とか言われても数日経ってからその嫌味に気付くなんて事はザラなのだ。

 京都には絶対住めない。


「ふーん、、、お主にも苦手な事があるのだな」

「もう苦手だらけですよ。ちなみに魔術兵の皆さんの名前とか未だに分かってません」

「あんなに仲良く一緒に水浴びとかしとるじゃないか」

「いや、お恥ずかしい、、、」

「ふーむ、そういう奴も居るのだな。我は城で働く者の名前は大体把握しておるな」

「え、メイドさんも?」

「うむ。だって毎日会うではないか」

「名前ってどうやって聞き出すんです?」

「大体初めて会う時に名乗るであろう」

「その一回で覚えるんですか」

「そうだ。だって、纏めて十人とかは紹介されないであろう?」

「それは王子の記憶力が優れているんですよ。上に立つ人の素質があります」

「その割にお主は色々な立場の人間と積極的に交流して皆から好かれておるではないか」

「僕は能力が低いんで、みんなに助けてもらわないと何もできないんです。ペコペコしてお情けをもらってるだけですよ」

「なるほどな。確かにお主ほど自己評価が低くて卑屈な人物を他に知らんな」


 卑屈かな。

 そう言われると何だか傷つく。

 自己肯定感が低いのは認めるけどね。


「案外、それで良いのかも知れんな」

「と言いますと?」

「家柄や派閥にこだわって人間関係を作るよりも、人柄で人間関係を作るほうが健全であろう。もちろん我は国益を優先させねばならん立場だが、お主までそこに縛られる必要はない」

「僕が下手こいて評価が下がったら王子まで、ひいてはポリオリまで評価が下がったりしませんか?」

「侮るな。お主ひとりの無能で評価が下がるようなポリオリではないわ」

「無能は酷くないですか?」

「お主がそう言ったのだろう?」


 言ったっけ?

 まあ大体そのような感じの事は言ったか。


「じゃあ、僕が派閥や家名を覚えられなくても怒らないでくださいよ?」

「おい、予め逃げ道は作るな。覚える努力はしろ」


 ですよねー。


 俺はため息を吐いて、王子がテレジオ様から教わって書き出した派閥早見表の膨大なリストを書き写す作業を開始した。

お読みいただきありがとうございます!

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