175
紙飛行機を折った紙はもらって帰ってメモ紙にでもしようと思っていたのだったが、王子は全ての紙飛行機を大事そうにファイルに挟み込んだ。
長官も鶴の折り紙を折り目に沿って丁寧に畳んで胸ポケットに仕舞った。
喜んでもらって嬉しいが俺は気楽にメモに使える雑紙が欲しかったのに。
そう思って王子の部屋のゴミ箱を見ると何枚か書き損じの紙が入っていた。
「王子、この紙をいただいても?」
王子は俺の手から紙を取り上げると内容を確認した。
「いや、ダメだ。騎兵団への指示書だから一応念のためにも流出させる訳にはいかん。これは細かく切って冬場に焚き付けに使うのだ」
なるほど。
流出もさせないし無駄にもしないのか。
エコだな。
「紙が欲しいのならやるぞ?」
十枚くらいバサッと渡された。
「よろしいので? 大銅貨二枚ぶんくらいありますよ?」
「お主は教師の給与を受け取っておらんのだろう? これくらい安いものだ」
おお、気前が良い。
「それに、また異世界の技術でこの世界で使えそうなものがあったら書いて持ってくれば買い取ってやる。ドワーフに見せれば作れるものがあるかも知れん」
なるほど、動力が必要ないものならある程度複雑でもドワーフに作ってもらえるかも知れないのか。
それは良いな。
そういえば以前から何か思いついてはそのまま忘れて来たからこれからはちゃんとメモを取るようにしよう。
そうだ、ドワーフといえば、、、
「そういえば、再来週の四月三日の夜ですがガラス工房のオラヴィさんに招かれまして多分外泊してきますね」
「なんだ、どういうことだ?」
「こないだお詫びにワインをお持ちしたらそのまま晩酌に誘われまして、飲んでるうちに今度は泊まりで飲みに来いとお誘いいただきまして。なんなら坑道なんかも見せてもらおうかと」
ソファにぐんにゃりしていた長官がガバと身体を起こした。
「いいな、ユオマか! 美味かったか?」
「はい、僕の口には会いました」
「アレは食べたか、干した魚」
「ええ。他にもキノコと一緒に発酵させたヤツとか」
「シルか、ユオマと合うんだよな、、、アレは茹でたジャガイモと食うと格別なんだ。三日だな。私も行くぞ。何時だ?」
「夕方に行く事になってます」
「よし。私が行くことは皆には伏せておけよ。ルカあたりに知られたら、お付きだ護衛だと面倒な事になるからな」
王子が慌てて立ち上がる。
「ちょっと待て、我も行くぞ! そんなの狡いではないか。私だって酒も魚も好きなのだ。それにドワーフの暮らしも気になるぞ?」
「ドワーフとは交流がないのですか?」
「城に呼びにやることはあるが、我々王族が平民の家にズカズカ行けるか」
そっか。
「でもどうやって行きます? 変装ですか?」
「姉君と我が揃ったらどう変装しててもバレそうだな」
「ですね」
長官が腕を組んで胸を反らした。
「私に任せておけ。オミはひとりでオラヴィとやらの工房へ向かえばよい」
「後から合流ですか?」
「うむ、そしてドワーフにはこう伝えよ。シュゴトヴォに知り合いがいると」
「それはその日で大丈夫ですか? それとも前もって?」
「ああー、前もっての方が良いな。可能か?」
「ええ、前日までに本当にお伺いして大丈夫か確認するつもりなんで、その時に」
「よし」
「姉君、私はどうすれば良いですか?」
「お主はこの部屋で待っておれば良い。我が迎えに来る。汚しても惜しくない服を着ておけ」
「了解です」
なんだか大事になってしまったな。
でも長官はドワーフに知り合いもいるのだろうし、やっぱ会いたいよな。
長官が大欠伸をしたのをきっかけにこの場はお開きになった。
こんな夜更かしをするのはポリオリに来てから初めてだ。
この時間に城内をうろつくと護衛の仕事が増えるからという理由で王子の部屋にお泊まりする事になった。
酒のせいか、えらい眠いのでありがたい。
長官が座っていたソファで寝たのだが、微かに香水の香りが残っていて何だか口にしにくい複雑な気持ちになった。
この身体はまだ十二歳だが、俺の精神は三十を超えているのだ。
分かるだろ?
いつもありがとうございます!
よろしければいいねや⭐︎をポチッとタッチしてくださると励みになります!