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俺は窓に取り付いて下を見た。
さっき見た通り真下はお堀の水だ。
「王子、この城のお堀は川を水を引き込んでいるのですよね?」
「ああそうだ。町でいくつかに分岐して排水に使っている」
そうなのだ。この町には幾つもの水路があり、それぞれが生活用水や排水用と決まりがある。
つまりこのお堀は流れるお堀なのだ。
そして窓は縦長のスリット状。
横幅は頭一個分くらいしかないが縦は一メートルを軽く超える。
充分だ。
「オミ、何か分かったのか?」
「ええ。僕の推測が正しければ証拠がお堀に残っている筈です」
「何だ? 勿体ぶらずに教えろ」
「すみません。養父に憶測でものを語るなと教えられていまして、、、」
もちろん俺に養父なんて居ない。
でもこういう時は勿体ぶって先延ばしにして謎解きは犯人の居る場で行うのがお作法なのだ。
犯人はもう逃げちゃったから無理か。
でも折角だから引っ張ろう。
「王子、行きますよ。証拠が片付けられてしまう前に!」
「お、おう。何処へ?」
「お堀の水が城外へ流れて出るその場所へ!」
「よし、何処にあるんだ?」
「え、王子知らないので?」
「うむ、流れを追えば分かると思うが」
「じゃあルカさんに聞きましょう」
なんか締まらないなあ。
でもどうせこの部屋の鍵も返さなきゃいけないからちょうどいいよね。
ルカ氏に事情を話すと案内してくれた。
一応ミカエルの部屋を城の外からも確認する。
ポリオリ城は槍のように尖った天然の岩山をくり抜くように作ってある。
形状は歪でところどころが張り出している。
その張り出しの一番低い所がミカエルやその他割と偉めな人たちの使うフロアだった。
なるほど水洗便所なのはこのフロアだけか。
その先は円錐状にすぼまっていくのでお堀に落とせるのそこだけなのだ。
もっと上のフロアから同じ様に外に落とすと壁に張り付いてしまう。
想像するだに汚らしい。
それにきっとお堀も城の住人全員ぶんの落とし物は受け止めきれないだろう。
これくらいが限度とこの城を設計したドワーフも考えていたに違いない。
そう思うとあのフロアは王族の部屋だったのかもな。
塔のような高いお城の最上階近くは罪人を閉じ込めておく場所として使われていたってYouTubeで観たことあるしな。
牢獄は地下じゃないんかいってモニターに向かって激しく突っ込んだからよく覚えてる。
そしてお堀の流れが行き着くところまで来た。
「ここから壁の外に流れ出ますな」
ルカが指差す先を見ると城壁がスリット状に何本か切れて水が流れ出している。
そこに俺が想像していたものが突っかかって浮いていた。
「やはりありましたね」
「あの木の板のことか? あれが何だというのだ」
「あれは僕が思うに鳥を飼っていた巣箱です」
「鳥?」
「鳩ですよ伝書鳩」
ふたりの頭にハテナマークが浮かぶ。
知らないのかな。
「王都で生まれ飼い慣らされた鳩はここからでも王都まで飛んで帰るんです。脚とかに手紙を付ける事ができます」
「なんと!」
「ではやはり、、、」
その鳩の飛んでいった先が王都なのかバルベリーニなのかは分からない。
しかしミカエルは冬の間の通信手段は持っていたのだ。
「、、、しかしアレですね。部屋で気づいた時は大発見な気がしたんですが、こうしてみると大した発見じゃないですね」
「いや、そんなことはない」
「そうですぞ、さっそく兵に拾わせて復元します」
「我は王に報告してくる。これが証拠としてバルベリーニが引き渡しに応じるかどうかは分からんが交渉の材料にはなるだろう」
ふたりはいそいそとこの場を離れてしまったのでひとり残された。
何らかの動きがあるのは明日以降だろう。
じゃあ部屋にでも戻るか。
もうじきお昼が届くしな。
朝はポリッジだったから昼はパンがいいなあ。
久しぶりにたっぷり時間が空くから午後は文書館に行って王子の授業の続きの仕込みをしなきゃな。
トンマーゾ氏のおかげで歴史はかなり進んだ。
地理もポリオリと交流が深い国については大体終わった。
あとは大雑把にアーメリア全土をやらなきゃいけないんだけど分割をどうするかウベルティ氏から返事はあっただろうか。
ミカエル氏に言われていた貴族云々は正直食指が動かない。
今のところ地理に絡めてやってはいるのだが、はっきり言って興味がわかないのだ。
どこどこのドームの血筋で兄弟があそこの姫を迎えて子供はそっちに婿に行って、、、とただの暗記問題なのだ。
ひとつの家ごとに熱く語ってもらえれば大河ドラマになるのだろうが、それはそれこそ家が多すぎて網羅は時間が足りない。
と言うか、それを言うなら貴族についてはミカエルにやってもらうのがスジではないか。
とはいえもうミカエルは居ないので言われたことをちゃんとやる義理はないのだが。
てか、以前ミカエルに呼び出されて説教された場所って今日見た場所と違うよな。
もっと普通の執務室っぽかった。
俺はあそこがミカエル氏の執務室だと思ってたんだ。
あれは何処だ?
ルカや今日行ったミカエルの部屋と同じフロアだった筈だ。
なんだか俺は急に妙な胸騒ぎを感じた。
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