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 翌日、いつも通りの王子の授業を終えると執事室に向かった。


 前にも記述したかも知れないが執事室には扉がない。

 執事長ともなるとそれなりに立場があって偉いのだけど『どんな立場の者でも城の中で起きていることを遠慮せず知らせて欲しい』という考えで扉を外してしまったのだそうだ。


 王族の面々の一日のスケジュールを完璧に把握し、それを支える下働きのシフト管理しているのだから相当に忙しいと思うのだが俺なんかに時間を使って大丈夫なのだろうか?


 迷惑を掛けないようにしなくては。


 俺は執事室の入り口に立つと戸枠をノックした。

 執事氏は机で何か書き物をしている。

 コンコンコン。

 この場はビジネスシーンだから三回で合ってるはずだ。


 執事氏は目を上げた。


「ようこそいらっしゃいました」


 立ち上がりながらそう言うと書類を机の引き出しにしまって鍵を掛け、鍵を胸のポケットに入れた。


 執事氏は痩身で長身。

 白髪の混じった濃い茶の髪をピシリと後ろに縛っている。

 目も濃い茶。

 鼻筋も鋭く通り、こう言うと変かも知れないが風の抵抗が少なさそうな頭部のフォルムをしている。


「第六会議室を押さえてあります。そちらに移動しましょう」


 執事氏は机に置いてあった木箱から一枚のプレートを出すと机に立てた。

 プレートには『第六会議室』と書かれていた。

 全ての部屋や施設のプレートが用意してあるのだろう。

 自分の行き先を常に分かるようにしているのだ。まじで『できる男』だな。


 同じフロアにある会議室に移動すると会議室の窓は全て開けてあり準備がされていた。

 俺なんかのために申し訳ない。


 会議室って言うと折りたたみの長い机が四角く並べられているのを想像するだろうが、残念ながらそれは違う。

 部屋のサイズに合わせて作られた一枚板と思われる立派な机が設えてあるのだ。

 地方の領主とはいえ、ここはさすが元は王様のお城である。


 俺なんかは床の磨かれたフローリングを踏むのすら憚られる。


 手で示された角の席に俺は腰を下ろした。

 ちなみにA4黒板は四枚持ってきている。

 きっと覚えきれないくらいお作法を教えられるに違いない。


 執事氏は同じ角の向かい側に腰を下ろした。

 めっちゃ近い。


「そんなに畏まらないで結構ですよ。メモをとる必要もありません」

「そうですか」


 教えられたのは俺の立ち位置。

 長官から託された客人ではあるが貴族の出身ではないので城内の逗留は許されても部屋は最低ランクの部屋であること。

 王子の教師役を賜っては居るがそれは内々の話であり本物の教師の資格がある者が見つかるまでの繋ぎであって、あくまでも王子の下僕見習いというのが俺の対外的な立ち位置であるということ。


 つまりドワーフに対して教師と名乗ったのは良くなかったということだ。


 しかし、平民よりは扱いは上になる。

 なのでメイドや執事に頭を下げるのは誤ったマナーであり、働きを労うのはアリだけど謝罪するのは態度として違うということだった。


 そういえば執事氏にこうした場を設けることを打診されたのは、執事氏に頭を下げてお礼を言った時だった気がする。


「なるほど、ご教授ありがとうございます。しかし誰も見ていなければ良いのですよね?」

「そこです。来週はバルベリーニ領との街道を掘り出す落ち葉はらいの儀がありますので他国の貴族の前に王子の世話係としてお目見えしますのでその際に気をつけていただきたいのです」


 道路を掘り出すのは聞いていたが俺まで式典に参加するとは思ってなかったな。

 領主同士が並んでテープカットとかするんだろうか?


「落ち葉はらいは、どちらがより多く落ち葉をはらって相手国に近づけるか競い合います。これはどちらがより多く優秀な風魔法使いを有しているかで勝敗が決まりますので、大変盛り上がる行事なのです」

「なるほど」

「オミ殿にはおそらく、最終的に集まった落ち葉を焼き払う役目が与えられると私は予想しています」


 あー、アレか。

 ど派手にぶち上げてしまったフレイムピラーか。


「あれで締めれば、負けても相手に敗北感を与えることができるでしょうから」

「ええと、ポリオリは負けがちなのですか?」

「いえいえ、そんなことはございません。しかし式典の後に毎年持ち回りで祝宴をもつのですが、今年は我がポリオリの番なのです。ホストの領地は多少手を抜くのがこの勝負のマナーなのです」


 なんだか面倒くさいな。

 負けてしまった方が相手をもてなすみたいな意味があるのかもな。

 でも突然だと準備ができないとかそういう都合での立て付けなのだろう。


 やれやれ、これが貴族のお付き合いか。


「祝宴でもオミ殿は王子と挨拶回りをしていただくことになるでしょうから、その際に執事やメイドにペコペコされると平民丸出しになってしまいます」

「え、僕が挨拶回りですか?」

「王子の後ろに付いて回るだけです。城おじのルカが付くよりは自然です」

「逆に変なのでは、、、」

「もちろん好奇の目に曝されますがあのフレイムピラーを打ったのがこの者であると説明すれば皆が納得します」


 ボディガードと勘違いしてくれるってことか。


「実際に危ない目にあったりはするのでしょうか?」

「まず、ありませんな。バルベリーニは古くから交流のある友好国です」

「安心しました」


 俺が今日学んだことは執事、メイド、料理人、庭師、馬子などに対してペコペコしないということ。


 俺はすぐにペコペコするクセがあるから本気で気にしないとやってしまいそうだ。

 よく会うメイドさんと馬子のみんなには予め言っておこう。

 これからは偉そうにするけど、これは偉そうにする練習なのだと。


 だって急に態度が変わったら嫌な気持ちになるもんね。


 俺は厩舎に足を向けた。

 俺の部屋に掃除に来るメイドさんには書き置きでいいかな。

 彼女らはそんなしょっちゅう顔を合わせる訳じゃないからな。


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