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 ところで、何で朝早く起きれるか説明しておきたい。


 ひとつは単純に寝るのが早いからだ。

 前にも書いたが電気もなく松明どころか行灯やランプも極限まで節約して生活しているのだ。

 明かりを灯す“ルチェ・ソラレ”はアホみたいに魔力を消費するので実用的ではない。

 “キャンドル”は風に弱く城内なら使えるが外では光量も足りないし、本を読むあいだずっと灯すのは片手が塞がるし魔力もなかなかに消費する。

 全くもって不便なのだ。

 だから寝る。

 夜八時には寝る。

 だから八時間睡眠を取ったとしても朝四時には覚醒してくる。


 ふたつに、窓には窓もなければカーテンもない。

 寒い時には木戸を嵌めて塞げるがここは南部ということもあって耐えられない寒さではない。

 もちろん木戸を閉めれば真っ暗である。

 これはこれで不便なのだ。

 目を覚ました時に外の明るさが分からなくて不安になる。

 外が明るくなってくれば目を閉じていても朝がくればなんとなく気づくのだ。


 みっつめは鶏の時の声である。

 あいつらは少しでも明るくなれば我こそはと競って鳴き声をあげる。

 声がデカい。

 窓は開いている。

 絶壁に挟まれた地形ということもあって音は良く響く。

 城下町の方から始まり城の裏手まであらゆる場所でコケコッコが始まるので喧しいのである。


 そんな訳で俺だけでなくみんな早起きだ。

 今はまだ初春なので夜が明けるのが五時くらいだが夏になったらもっと早まるのでないか。

 恐ろしい。

 でもアレか。

 サマータイム制度があるかもしれん。

 農業国はサマータイム制が多いと聞く。

 でもここは炭鉱国か。

 誰かに聞いて確認しておこう。


 そんな訳で今日も空が白んで来たらベッドから降りる。

 トイレ脇に設置してある洗面器の水を魔術で少し温めて顔を洗う。

 真冬でも氷こそ張らなかったが冷たいのはキツイ。


 そして急いで着替えて部屋を出る。

 便意はあるが、やはり自室で便をするのは気が引ける。

 片付けるメイドさんに悪い。

 そんな訳で厩舎に行く途中の果樹園にあるトイレに寄る。

 ここは深い穴が開いていてそこに便を落とす公衆便所である。

 ちなみにポリオリには井戸がない。

 川が隣接しているし、山からくる雪解け水を水路として引き込んでいる関係上、必要がない。

 標高が高いせいもあって井戸を掘っても水が出ないのかも知れない。

 そんなこともあって深穴をトイレにしても地下水の汚染には繋がらないのだ。

 多少匂うが若いメイドさんにうんこを見られるよりは幾分マシである。


 用を足したら馬の世話である。

 馬房を掃除し、餌を与え、軽く運動させてブラッシングする。

 馬どもは随分懐いた気がする。

 俺が慣れただけかも知れないけど。


 何頭かは俺のところにわざわざ来て髪を噛んだり服を引っ張ったりする。

 その度に俺は頭や首を撫でてやるのだが、そうすると何故か奴らは逃げていく。

 からかわれているのだろうか。


 馬の世話を終えて部屋に戻る時にはちょうど朝日が顔を見せる頃合いだ。

 市街地の煙突からたなびく煙越しに日の出を拝む。

 風車はまだ稼働してないが人々が羽根に取り付いて準備をしているのが見える。


 これで鳩が集団で飛んでいたらラピュ◯のスラッグ渓谷ぽいのだが、この辺りは鳩は居ない。

 遥か高所に鳶か何かの猛禽がホバリングしているだけである。

 隼かも知れない。

 ポリオリを目指して歩いている時に何度か間近で見たがもちろん見分けは付かない。

 誰か教えて欲しい。



 ある日、授業を終えて文書館で近代史の授業のレジュメを作っていたらトンマーゾが覗き込んできた。

 書いていたのは王子の部屋から持ち出して来た黒板数枚にだ。


 ひとつの国ずつ絞って進めようと、手始めにキアラ王女のシュトレニアについてまとめていた。

 来歴元となったドーム、当時の統治体制、現在の統治体制、同盟国、国民規模、地形、特産物、領主一族の家系図、そして一番書き出すのが面倒なのが有力貴族名鑑。

 どうせ派閥のトップは数家に絞られるのだろうからここは詳しいひとに聞いて余計な家は省きたいけどどうすれば良いんだろう?


 悩んでいるとトンマーゾが黒板のひとつを手に取った。


「お主またこのような分かりやすい教材を残さずにいるつもりなのか?」

「だって紙は高価なんですから仕方ないじゃないですか」

「ところで何故シュトレニアなのだ?」

「王子の婚約者の国ですから。今後、面倒事を持ち込まれる可能性がありますし知っておいて損はない国でしょう?」

「面倒事が持ち込まれると?」

「いや、逆でこちらが何かシュトレニアに援助を求める可能性もありますが。まあ同じ事です」

「ふむ」


 トンマーゾは黒板を置いて書棚に行き紙束を持って戻ってきた。


「今後、お主には紙を自由に使わせる事にする。それも紙に書いて残せ」

「マジすか、良いんですか?」

「残さん方が損失になるわ。こうした資料が国ごとにあれば有事の際の判断材料にもなろう」

「でも全部の国をやる必要はないとも思ってるんですよね」

「何故だ?」


 俺は椅子の背中に身体を預けた。


「何々領としてちゃんと名前がある地域が四十個ちかくあるみたいなんですけど、大まかな地域ごとに発言権の強いところだけで良いかと」

「ふむ」

「その辺の国際情勢に詳しいひとって居ます?」

「それは、もちろん宰相だろうが、、、」

「偉いひとです?」

「そりゃあ、王の右腕で相談役でもある。王の全ての判断の補佐をしてらっしゃる」


 ああ、謁見した時にアダルベルト領主の斜め後ろに居たひとか。


「ご助言いただけないですかね? この地域ではこの領地が番長とか、実はここの領主は国家転覆を企んでそうとか」

「そんなの機密に決まっとろうが、、、」

「ですよね。でもほら、ここだけはやっとけみたいな優先順位くらい教えてくれないですかね?」

「どうだろうな、、、ウベルティなら少しくらい時間を取ってくれるかも知れんが」

「誰です?」

「宰相付きの文官じゃよ」


 おお、それは賢そうだ。


「ワシの国史の執筆のアドバイスをもらう名目で声を掛けてみるから、お前も一緒に来い」

「今からですか?」


 もう夜も更けそうなんだが。

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