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それから何があったのか俺はよく知らない。
ミカエル氏への事情聴取があったらしいというのは伝え聞いた。
第一王子のかつての教師であり現在は相談役をやっているテレジオ氏とルカ氏が立ち合い、今後の方針について話し合おうと言うことで呼び出し詰問したらしい。
ちなみにミカエル氏の立ち位置なのだが、第一王子のアルベルト王子が教師だったテレジオ氏を大変信頼していてアカデミー合格後も相談役として身近に置いているため、なんとなくそれに倣いミカエル氏もベネディクト王子の相談役としてそのまま置いているというのが現状らしい。
しかしベネディクト王子はその決定を下した父親の顔を立てるためにミカエル氏をお祓い箱にしないだけで特に何の助言も求めず、定例会議の同席だけを許している状態なのだそうな。
特に何かよからぬ事を企んでいる訳でも無さそうだが、なにかとポリオリ運営に口出しをしてくるので煙たくはある。
そんな存在らしい。
第一王子に何かあれば後々、自分が次期領主の相談役になれるかもってことでその権力の座を狙っているのかもしれないな。
権力が好きな人って好きだよね。
なにかと学歴とか年齢とかでマウント取ってくる輩とかさ。
三十越してどの大学出身だとか何年生まれだとか、どうだっていいのにね。
おお、恥ずかし!
話は戻る。
ルカ氏の解説によるとミカエル氏は第二王子への授業も余り熱心ではなかったらしくベネディクト王子はほぼ自力で勉強し、アカデミーに合格したらしい。
ちなみに補足なのだが、何故一国の王子たる立場ある人間がアカデミーを受けるのかというとアーメリア国軍と連携する時にアカデミー合格者でないとアーメリア軍の同地位の者よりも格下に見らるからとのこと。
なので第一・第二王子クラスの地位のある者はその箔だけ得るためにアカデミーの合格証をもらい、実際には入学しないのだそうだ。
第四王子とか第五王子みたいな継承権から遠い下位の王子の場合だとちゃんと入学して卒業し、アーメリア軍にも入隊し、ひと任期務めてから帰国するパターンもあるそうな。
そこまですると有事の際にアーメリア軍からもらえる情報の早さと内容の濃さが違うのだそうだ。
詳しくは分からんが軍の予備役みたいな扱いになるって事なんだと思う。
それはそうと、クラウディオ王子の学力テストは今後テレジオ氏が行うことになった。
婚約者との手紙の添削もテレジオ氏に移譲された。
これでミカエル氏にはこれといった仕事がなくなったので、このまま泳がせて様子を見るという作戦らしい。
仕事がなくなるって結構キツイと思うんだけど、みんなはどう思う?
何もしなくて給料だけ貰えるって、まあ誰でも一度は夢見る状況だけど実際は窓際族ってことじゃん。
戦力外通告って事だもんな。
キツイよ。
特にこの世界では労働法とかも整備されてないだろうから明日にはクビになるかもって思ったら気が気じゃなくなるよね。
ミカエル氏はどうするつもりなんだろ?
そんな訳で俺はテレジオ氏と顔合わせがあった。
テレジオ氏はルカ氏と同じくらいの初老の男でミカエル氏と違って優しそうな人だった。
文書館での歴史の授業の噂を聞いていたらしく大いに褒めてくれた。
テレジオ氏によると、手っ取り早く役立つ近代史ばかりを重視せず、前史をしっかりやったのは今後の世界を見る時に役立つらしい。
政治というのは損得だけでなく、なんだかんだと感情が絡んでくる。
かつて争った国同士はどんな強固な同盟を組んでも、親族同士が混ざり合っても真の意味での同盟にはなれないものらしい。
その感情の根源が前史に詰まっているからこそおざなりにしてはいけないのだそうな。
なるほど、含蓄がある。
そして恋文だが、そんなに重要なら誰か才能ある奴が代筆すればいいじゃんとちょっと思ってたんだが、絶対ダメなんだそうだ。
「手紙のやり取りでお互いを知り合い、その後の一生を預けるのだ。別人が書いていたと気付かれたら、、、そうなったら女は残酷だぞ?」
そう聞いてゾッとした。
それに、気付かれないということも絶対なさそうだ。
オンナ怖い。
そんな会談があり、俺は王子に今までの婚約者からの手紙を全部見せて欲しいとお願いした。
そんなプライベートなもの絶対断られるだろうなと思っていたのだが、あっさり見せてくれた。
やっぱ偉い人ってなんかちょっと我々庶民と感覚が違うよね。
俺だったら恥ずかしいし、相手の気持ちとか考えて躊躇してしまう。
手紙は専用の豪華な手紙箱に収められ、下から順に古いものから新しいものへとなっているとのこと。
じゃあ、ちょっと拝見させてもらいますか。