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EP6:「契約」

 セントラルエリア・ケセドの大規模停電事件。その真相はまだ公表されていない。

 だが、管理局の全体がハッキングされた事だけは事実である。


「一体、誰が……」


 管理局員達は原因を探ろうとするも手掛かり一つ掴めない。

 そんな中、カツンとヒールの音が鳴り響いた。


「……大規模ハッキング……テロ行為ですか。一体誰が行ったか特定できていないのですか?」


 そこにいたのは紫髪の女性。

 彼女は管理局の上層部に名を連ねる人物の一人だ。その彼女が何故ここにいるのか、疑問は尽きず、局員達はざわついていた。


「……それは……」


 局員達は言葉を濁す、当然だ。

 誰がハッキングしたのか、その情報すら無いのだから答えられるはずもない。

 だが紫髪の女性は眉一つ動かさずに続ける。


「セラフィムの誤作動もあり得ますが、原因を調べ続けなさい。私は別件がありますので、これで」

「かしこまりました」


 局員達は一斉に頭を下げ、上司である彼女を見送った。


「まさか……私の不在を狙うとは、偶然にしても大した徹底ぶりです。」


 女性は小さく息を吐くと、とある部屋へ向かった。

 ノックをすればその部屋に入っていく。

 部屋の中は薄暗く、青白いモニターの光が部屋を照らしていた。

 そのモニターの前に座っている人物、それが目的の人物だ。

 彼女はその人物に声を掛けると、ゆっくりと近づいて行く。


「……(たちなば)紫織(しおり)か、俺に何の用?」

「白々しい、管理局がハッキングされたのは知っているでしょう。それを知りながら、何もしなかった。貴方程のハッカーならば、管理局へのハッキングはすぐに止められたはずです。何故やらなかったのですが?」

「興味本位。管理局にハッキングなんて、大胆過ぎて笑っちゃったな。でもハッキングでパニックになる程度のセキュリティだったんだなぁ、って」


 薄氷色の髪を一つに結んだ彼は下を向きながら肩を震わせる、大方嘲笑っているのだろう、人を見下したように笑っている。

 それが気に食わなくて苛立つ紫織。


「……それで、心当たりがあるのでしょう? 此方が雇っているのですから、それぐらいは答えなさい、"ミオソティス"」

「心当たりか……。……ない、知らね」

「……私を舐めるな」


 間髪入れずに言い放つと彼、ミオソティスを睨んだ。

 そんな紫織に対して彼は飄々とした態度で笑みを崩さずに答える。


「……へぇ、怖いなぁ。」


 彼は瞳を細めると、不敵な笑みを浮かべる。

 それは心底楽しいと言いたげであった。


「……なるべく早く手掛かりを見つけ出してください、また同じ者が何をしてくるかわかりませんからね」


 それだけ言い残して部屋から出ていった。ミオソティスは、紫織が去ったあとも笑い続けていた。


「く、はは……ッ」


 ミオソティスは笑う、それは狂気を孕んだ笑みだ。

 彼はモニターに映し出されている映像を見ながら楽しそうにしている。


「俺はお前が気に入ったよ、なぁ、シンギュラー」


 ニヤリと口の端を持ち上げると、映像に映りこんでいる晃輝のハッカーネームを口に出す。

 映り込んでいる映像はしっかりと削除しながら。


 彼の声を聞いてくれる人間は誰もおらず静寂に満ちていた部屋でただ愉しげに笑うだけだ。


「じゃ、俺からのプレゼントってことで、受け取れよ。シンギュラー」


 かち、とキーボードを押す音が響いた。



《送信を完了しました》





♢♢♢







 セントラルエリア・ケセドの混乱が収まりつつある中、晃輝はAEGIS本社へと辿り着いていた。

 琥白のバイクから降りると、大きな溜息をつきながら晃輝はヘルメットを外した。


「ん、着いた。ここでしょ」


 琥白は頭からヘルメットを外しながら言う、その表情には運転した疲労の色が見える。


「ああ、ここだ。悪かったな」

「……別に、構わない。私はこれで」

「ああ、助かったよ。それじゃあな、琥白」

「……ん」


 琥白は小さく手を振ると、バイクに跨った。

 そうしてエンジン音を響かせて去っていく彼女を見送ると晃輝は再び口を開く。


「湊音がいればいいんだが」

 

 AEGIS本社を前に見据える晃輝の瞳に迷いはない、その瞳にはある決意が見て取れた。


「……エル、湊音に連絡は?」

「マスターがケセドの停電を落とした時点で連絡済みです」

「……準備が早いな」

「はい、私はマスターのサポートAIですから」


 二人が話していると、着信が入る。

 タイミングがいいのか湊音からだ。モニターが浮き上がり、そこに映像が浮かび上がる。


『何をしているんですか?! 貴方は!! 管理局のデータを持ってこいと言いましたが、そこまでする必要ありましたか?!』


 急に大声を上げる湊音、晃輝はその声に耳を塞いだ。

 晃輝の傍で端末から顔を出しているエルも巻き込まれている、湊音の声に目をぐるぐるさせ、混乱しているようだ。


「うるさい」

『あ、すみません……じゃなくてですね……はぁ、CEO室へとご案内しますので、中へどうぞ。話はそれからです』


 湊音の溜息が聞こえる、晃輝の行動にかなり呆れている様子が見える。


「分かった、すぐ向かう」


 晃輝はそれだけ答えると通信を切り、CEO室へと向かった。

 AEGIS本社のCEO室へと通された晃輝は、湊音と共にいる人物に目を向けた。その者は晃輝に気づき、読んでいた書類を机の上に置くと椅子から立ち上がり、晃輝の前に立つ。

 その鋭い眼光が晃輝を射貫いており、まるで値踏みするかのようだった。


「初めましてか、シンギュラー。俺がAEGISのCEO、無護白渡だ」

 

 見た目は二十代、透き通るような白髪に鋭い目つき。高身長で、何よりモデル体型。

 だが、何よりも異様な雰囲気を醸し出していた。まるで周囲の人間達を威圧するかのようなオーラを纏っている。


「湊音から聞いている、随分と管理局で暴れた様だな?」

「暴れた、か。……ああ、そうだな。だがあれはただの遊びだ、管理局のセキュリティがどの程度のものか試したに過ぎない」


 晃輝は面倒くさそうにポケットからUSBメモリを取り出し、執務机に放り投げる。

 それは先程、管理局に潜入し手に入れたデータだ。


「依頼されたデータだ、管理局の機密情報が入っている」

「……成程な、感謝する」

「ただ俺としても管理局は邪魔だ。AEGISのお前らにとっても、この情報は喉から手が出るほどに欲しいだろう?」


 晃輝は、ソファに座りながら白渡を見た。

 白渡は、ため息を吐きながら湊音に目配せをする。

 それを見た湊音は一礼をして、CEO室から退室していった。

 その後ろ姿を見送った晃輝。

 白渡は懐から煙草を取り出すとライターで火をつけ、煙を吸い込んだ。


「随分と落ち着いているな。未成年でそこまでの頭脳、どうやって手に入れた?」

「生まれつき、と言ったら?」


 晃輝の言葉に白渡は苦笑いを浮かべると煙を吐き出し、静寂が二人を包む。

 先に口を開いたのは意外にも白渡の方だ。


「悪いな、大人ってのは子供を手駒にして弄ぶのが好きなのさ」

「手駒にされる奴が悪いってか」

「そうとも言える」


 白渡は煙草を灰皿に押し当てて火を消した。笑みを浮かべていた白渡だが、笑みが消え、晃輝を見据える。


「……貴様は、何を企んでいる」


 一瞬にして白渡の雰囲気が変わった。殺意と敵意が入り交じった視線が向けられる。

 ピリ、と肌を切り裂かれるような空気。

 流石の晃輝も背筋が凍る。


「お前のその行動はなんだ?」

「俺の目的を果たす為だ、その為なら、……この世界を敵に回しても構わない」

「この世界を敵に回す、か……。成程、ますます貴様の事が気に入った」


 白渡は口角を上げて笑う、まるで面白い玩具を見つけた子供のようだ。

 その表情には狂気すら感じる。


「その目的とやらを聞かせてもらおうか」


 そう呟くも白渡の表情は変わらない。

 寧ろより一層冷徹さを増していた。

 これ以上は何も言えない、晃輝がセラフィムを壊す、など知られれば命すらも危ういだろう。

 そんな事は晃輝も理解しており、だからこそ何も言えなくなった。

 沈黙が続いたが、しばらく経って白渡は小さく息を吐いて。


「……この都市の上には()()()()()

「……!」

「ようやく表情に出したな、シンギュラー」


 晃輝の驚いた表情に笑みを浮かべると白渡は続ける。


「貴様はセラフィムを敵に回してでも、地上に出たい、と。そういうことだな?」

「なんで、そのことを……」

「俺が質問している。質問を質問で返すなよ、若造が」


 白渡の鋭い視線が晃輝を射貫いた。その瞳には有無を言わせぬ圧力があり、思わず息を呑む。


「……ああ、そうだ」


 晃輝の答えに満足したのか白渡はゆっくりと立ち上がる。


「なら話は早い、貴様がセラフィムを敵に回してまで地上に上がると言うならば、俺が手を貸そう。いくら貴様の頭脳が優れていても、一人で地上に出るのは困難だろう」

「……何が目的だ」


 晃輝の警戒した様子に白渡は肩を竦める。


「そう警戒しなくてもいい、俺はただこの支配される世界が嫌いなだけだ。自由の翼を広げ、本物の空に羽ばたく……そうしたいのだよ」

「意外と夢を見るんだな?」

「……互いにメリットしかない、手を組むなら今のうちだ」


 晃輝は白渡を見据える、その瞳には決意と覚悟が宿っていた。


「ああ、分かった。お前の提案に乗るよ」


 晃輝の言葉を聞いた白渡の目には好奇心と愉悦が見え隠れしていた。

 晃輝はその目を見て確信する。



 ()()()()()()()、と。



 だが同時に利用価値があることも理解していた。



「では契約成立だ」



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