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ダークウェブ・シンギュラー -True//hacker-  作者: でざいにゃー
第三章『セフィラ』-ティファレト編-
30/30

EP:30「特異点」

 脳内に直接電気信号のような衝撃が走り意識は一気に加速していった。現実世界の景色が揺らぐ。

 晃輝の網膜に投影される世界が急激に抽象化され色彩が薄れていき二次元的な線と光の集合体と化した。

 そしてその光景が一気に分解され無数の粒子となり彼の脳内で再構築されていく。


 本来であればフルダイブをすれば現実世界での身体は耐えきれず倒れる、電脳世界に精神を持っていってしまっているから。

 

「フェイタル、……俺に力を貸せよ。俺に順応したんなら、俺の言うことぐらい聞け」


 その声が響いた瞬間世界が閃光のように変貌した。

 晃輝の身体、表面を走る青い光の脈動。フェイタルが晃輝の脳を支え、フルダイブと同時に脳が並列処理を開始していた。

 

「まさか……」


 エルは晃輝の状態を見て驚愕する。

 現実での彼の身体が倒れなかったのだ、意識は電脳空間にあるはずなのに。

 現実と電脳空間の並列処理を完璧に熟している証拠だった。

 

「一か八かだったが、……フルダイブの状態で現実にいれるようになったのは上々だ。これでいくらでも動き回れるな」

「マスターがどんどん人間から離れていってしまいます……」

「元より機械みたいな脳をしてるんだから良いだろ」

「良くないです!!」


 エルが大声を上げる中晃輝は微笑を溢した。目の前に飛んでくるドローンたち、それに対して彼はドローン達に手を伸ばして横に払う、ただそれだけ。

 その刹那、彼の掌から青い光が放たれ、ノイズが走る。目の前のドローンがその光を受けた途端、ドローンが自滅を始めた。

 ドローンに内蔵されていたプログラムが全て破壊されたのだ。

 そしてドローンは音を立てて崩壊し、爆発を引き起こす。

 

「マスター、一体何を……」

「ハッキングと同時にフェイタルを忍び込ませた。そして爆発するように設定して放った。要は、ドローン達が自滅してくれるのを待っただけだ」


 そう言いながら、ヘッドフォンの出力を戻す。

 静寂が訪れ、フルダイブを解いた瞬間。

 

「…………ゔ……ッ!!」


 晃輝は咄嗟の嘔吐に襲われる。口を押さえ、喉の奥で苦痛の声を漏らしながら必死に堪えた。

 喉奥を焼くような刺激があり胃がねじれるように痛み呼吸が浅くなる。

 目の前がチカチカと明滅し頭の奥底で鈍痛が広がった。額に汗が滲み頬を伝って滴り落ちる。

 胸のあたりが締め付けられ息がうまくできなくなった。

 

「……ッ……!」


 膝をつき床に崩れそうになるが寸前でこらえる。歯を食いしばりそれでもゆっくりと立ち上がった。体内で何かが暴れ回っているような感覚。

 脳が警鐘を鳴らしている。

 

「(これが……フルダイブと現実の並列処理……)」


 身体中に痛みが走っている。

 特に腹部や喉の奥から込み上げてくる吐き気が尋常ではない。

 それでも晃輝は自分に言い聞かせる。


 「止まるな」「考えるな」「前に進むしかない」「続けろ」と。


 「マスター!!」


 エルの声が耳に届いた瞬間意識が現実へ引き戻された。

 息遣いは荒く顔には脂汗が滲んでいる。

 だが彼はそれでも目を閉じることなくただ一点を見つめる。

 

「平気だ、行くぞ」


 ティファレトの中枢部へと、ただ見据えていた。

 微かに漂う歪んだ演算の匂い。

 ノイズとも違う微細な変質の波紋。

 それを察知しながらも晃輝はゆっくりと足を踏み出した。

 負担がかかった身体を強引に引きずって。







 


『ティファレト中枢部』



 晃輝は息を整えながらも足を止めず、ティファレトの中枢へと辿り着いた。

 以前、エルがティファレトの中央サーバーの中で暴れた場所。そして共に晃輝がティファレトの中央サーバーでエルを救い出した場所。

 だが現在は紫織が再び起動しておりその場に待ち構えていることもあり晃輝の警戒心は一段と高まった。

 

「ついたか」


 彼は低く呟きながら慎重に足を踏み入れた。空間に広がる光は青白く歪んだグラデーション。

 ドーム状、広さはバスケットコート半分ほど。中心部には巨大な円柱状のサーバーが鎮座している。高さは15メートル直径8メートル。

 表面に刻まれた幾何学模様が無数に浮かんでいる。冷却パイプからは薄い蒸気が漏れ出している。まるで生体のように蠢く機構。

 その前に立っているのは白衣を着た何かだった。

 

「……紫織ではないな」


 一瞬の沈黙。

 その人物はゆっくりとこちらを振り返った。

 長い白衣の裾が僅かに揺れ人工的な照明がその姿を浮かび上がらせる。


 細身で端正な顔立ちの女性。白衣の袖口から覗く白磁のような腕。

 手には古びたファイルを抱えている。髪の色は橙、ショートボブが肩に軽く触れそうに揺れている。眼鏡をかけた黄色の瞳は穏やかでありながら鋭い光を宿していた。

 

「……貴方が雨宮聖歌が認めた特異点」

「……お前は誰だ」

「マスター、この人生命反応がありません……!!恐らくは、AIです!」

「ああ、まず自己紹介を。……こんな形で目覚めさせられるとは思っていなかったけれど、私の名前は、ホド。第八のセフィラ」


 その言葉に晃輝は眉を顰める。思考を加速させながらも目は逸らさない。

 

「ホド、ねぇ。……ティファレト、ケセド、ビナー、イェソドはこういったサーバーだが、他のセフィラはそうやって人型で形成されると」

「ええそうね。ティファレトが起動されたのであればいずれ私も目覚める運命だった。それに随分と変わったね、特異点」


 ホドの言葉に晃輝は眉を顰める。

 それに、妙にホドは彼に対して馴れ馴れしい態度だ。まるで昔から彼を知っていたかのような錯覚を覚えた。

 

「……誰だお前は。それに俺の事を知っているような口ぶりだが」

「覚えていないのも無理はない。……聖歌も酷い人ね。自分だけ死んで、逃げて、……彼に全てを託そうだなんてね」

「貴方は一体何者なんですか、セフィラって何なんですか、マスターの何を知っているんですか?!」


 エルが晃輝の肩の上で叫び続ける。

 しかしホドはそれを意にも介していない様子で淡々と続ける。

 

「……セフィラとは、雨宮聖歌と共に数百年前に研究していた人間たち、つまり研究者たち」

「……あ?」

「そんなのって、……では今のセフィロト全層のサーバーは最初からサーバーではなく、サーバー自体も元人間だと言うんですか?!」


 エルは、ホドの言葉から導き出される答えに狼狽えていた。

 

「正解。全サーバーの起源は研究者達の頭脳。人間。……この私も、元人間」


 ホドの声はどこまでも穏やかだ、まるで友人と話すように微笑みすら浮かべている。それがかえって異質だった。


 ホドはゆっくりと指先で空中に文字を描く。すると周囲の壁面が突然変形し立体的な光が出現した。

 そこに映し出されたのは地上に広がる古代文明の光景。

 巨大な建造物高層ビル群、地下都市とは違う、明るい光景。

 空も本物で雲が流れ人々が歩いていた時代。ホドはその映像を一瞥し再び晃輝へ視線を戻した。

 

「特異点。……貴方は、昔を思い出せる?」


「……」


 気にしたこともなかった。

 地下に生まれ育った晃輝に“昔”などわからない。ホドは微笑したまま指を動かす。立体映像が更に切り替わる。

 昔の映像なのか、時々乱れる。

 

「……本来なら絶対に生きているはずがないよね。数百年前の人類なんて、生き残っている筈がないって思ってるはず。でも私達セフィラは覚えているよ、貴方の事を。だって」


 また映像が変わる。そこに映ったものを見れば、晃輝は目を見開いた。

 

「は……?」


 心臓が大きく高鳴る。思考が止まる。

 鼓動の音が大きくなり息が詰まった。

 

「貴方は雨宮聖歌と共に、セラフィムを完成させた人物だ」


 ホドの声が静かに響く。

 彼女が見せた映像にあるのは、確かに自分の姿だった。

 だが記憶にはない。知らない光景だ。


 なぜだ。なぜ自分の記憶の中にない。

 

「マスターが、セラフィムの、創造者……?」


 エルの声が震えている。晃輝は返事すらできず立ち尽くしたまま固まっている。

 断片的な映像だけが脳裏を掠めていて。


 「そう。貴方は数百年前に雨宮聖歌と共にこの都市を生み出した人間。レプリカント、セラフィム、……そして、私達をセフィラに変えたのも、その計画を発案したのは」


 ホドが晃輝を指差す。

 その言葉に晃輝の胸の奥で何かが割れるような音がした。

 

「雨宮聖歌と特異点(あなた)だ」

 

 

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