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EP3:「AEGIS」

 地下電脳都市の管理者はセラフィム、であるがセラフィムを護るように作られた組織が存在していた。


 それが"管理局"である。


 AEGISとは違い、管理局は企業や政府、果ては個人まで、あらゆる情報を管理する組織だ。

 その規模もAEGISとは比べ物にはならない。


「俺はその管理局なんて嫌いだ、元からな」


 脳を活性化させるための栄養補給としてエナジードリンクを数本飲み干すのは晃輝の姿。

 冷蔵庫から取り出したエナジードリンクを何本も飲むのが晃輝にとっていつもの光景だった。ハッキング後は大幅に疲労感が出る、脳をフル稼働しているのだから糖分を摂取したいものだ。

 

「では、マスター。そろそろ行きましょう」


 無言で頷きつつ、そしてそのまま玄関まで歩いていき靴を履いて外に出た。

 外は快晴であり暖かい日差しが降り注いでいた。今日も平和そのものといった所だろう。

 

 AEGISは、この地下電脳都市で最も大きな企業だ。その影響力は計り知れないものがある。技術も、資金力も、情報収集能力も、全てがトップクラスだ。


 AEGIS本社ビルに辿り着いた晃輝は受付へと足を運ぶとそこに立っている女性に声をかけた。

 

 女性は営業スマイルを浮かべながらこちらを見た後、一瞬だが怪訝そうな表情を浮かべたがそれも直ぐに消え去り、また笑顔を浮かべる。


「……あの、ご用件は何でしょうか?」

「ああ、えっと——」

「その方は僕が担当致します」


 晃輝の背後から聞こえてきた爽やかな青年の声、晃輝が振り返るとそこには黒髪の青年が立っていた。晃輝の背後から聞こえてきた爽やかな青年の声、晃輝が振り返るとそこには黒髪の青年が立っていた。

 容姿は整っていて身長も高い、170cmはあるだろうか。ウルフカットの黒髪に、海のような深い青色の瞳……、手には中型のタブレット端末。

 AEGISの社員マークがついている黒いフードジャケットを羽織っている。綺麗な身なりをしていて品もあり爽やかで好青年という印象を受けた。

 

「初めまして、僕は乙黒(おとぐろ)湊音(みなと)と申します。AEGISの情報処理兼ハッカーをしています。貴方は……えーっと」


 中型のタブレット端末で確認する湊音。

 ブゥン、と立体的に画面が浮き出ており、その中に表示されている文字が動いているのが分かる。


「おかしいですね、地下電脳都市での()()()()()()()()()()()()。セラフィムにデータ同期をしなかったのですか?」

「……するのを忘れていただけだ。帰ったらやる」

「冗談です。嗚呼、咎めることもしませんので。でも管理局にはバレないようにしてくださいね? では改めて、ようこそAEGISへ。ハッカー・シンギュラー。いえ、蒼井晃輝さん」

「……」


 晃輝は無言のまま、ただ湊音を見つめていた。警戒するのは当然だ、だがAEGISのハッカーとなればかなりの実力者である事が考えられる。


「立ち話もなんです、応接室へとご案内しますね」


 応接室に入ると豪華な内装が施された部屋だった。ソファやテーブルの他にも絵画などが飾られており、どれもAEGISブランドを誇示するようなデザインとなっている。

 晃輝はこれらを見て、趣味が合わない、と内心思ったものの表情は崩さない。

 

「そちらのソファに座ってください、飲み物は何が良いですか?」

「コーヒーでいい」


 湊音が棚からカップを取り出しながら聞いてくるのに対し素っ気なく答えた。

 

「そこでずっと黙っているAIさんも、何か言ったらどうですか?」


 晃輝が手にしているタブレット端末に目を向ける湊音、その声に驚いたのかエルが画面に出てくる。

 

「ひぇ、なんでわかったんですか……」

「僕はこれでも、ハッカーなので。所属していれば独自のAIを持つことはありませんが、晃輝さんのような独立ハッカーが所持していることは簡単に予想出来ます」

「……あまりエルを虐めないでくれるか?」

「すみません、貴方のAIが気になったもので」


 出来立てのコーヒーを晃輝の前に置く湊音。

 ミルクと砂糖をテーブルの上に置いていく。

 

「それで、AEGISにどのような用件ですか? 先ほど我々AEGISが貴方に依頼を送ったはずですが」

「その依頼遂行中、ハッキング中にトラブルが起きた。管理局のサーバーに侵入したのはいいが、そこで俺にハッキングを掛けてきた者がいた」

「……なるほど、貴方程のハッカーにハッキングを仕掛けるなんて」

「それが、セラフィムだったんだよ」


 晃輝の言葉に湊音は驚いたような表情を浮かべる。

 

「セラフィムが……?」

「そうなのです、マスターがハッキング中、精神干渉までしてきたので」


 エルが、少し怒った様子でそう伝える。

 

「まさか、セラフィムが自我を持った……?」


 湊音は信じられないといった様子だ。晃輝も同感だ。

 しかし実際に起きた事であり否定のしようが無い。


「管理局のデータをハッキングしようと思ったら、セラフィムからのハッキングを受けたんですよね?晃輝さんは」

「……ああ」


 湊音は考え込むように顎に手を当てた。

 

「とりあえず、AEGISのCEOに連絡を取ってみます」


 湊音はタブレット端末を操作し始める。その間、晃輝は出されたコーヒーを一口飲み、耳につけているヘッドホンを外した。


「管理局の動き、ここ最近おかしいのです。だから貴方にサーバーに侵入してもらって、内部データを持ってきてもらおうかと思っていたのですが」

「お前の技術では突破出来なかったのか、あのセキュリティ」

「僕の技術じゃ、半分ぐらいしか解読できませんでした。だからこそ天才ハッカーである貴方に依頼を……」

「天才はやめろ、その呼び名は好きじゃない」

「ああ、えっと、すみません、つい……!」


 湊音は慌てて謝罪をする。そんな様子を見ながら、晃輝はコーヒーを飲み干した。

 

「お待たせしました、晃輝さん。CEOに確認してきました」

「ああ」


 湊音の言葉に相槌を打ちながら飲み終えたコーヒーカップをテーブルに置くと真剣な表情で湊音と向き合う。

 

「それで?」

「管理局はセラフィムを利用している可能性が高いです。ただ、未だに正確な場所は把握できていないようで……」

「居場所が分かっていない、と。セラフィム自体はこの都市の人類を管理こそはしているが独裁をしていないという事だけは把握できた。つまり敵は、管理局のみ、と」

「はい。それに、もし仮にセラフィムを動かせる程の力を持った者がいれば、管理局が今まで以上に過激な行動を取るかもしれません」

「その時になったらその時だ。全力を以て潰すのみだ」


 その言葉を聞いた湊音は苦笑する。晃輝の言葉遣いは荒いが決して乱暴なわけではない。寧ろ落ち着いているようにさえ見える。

 

「……で、AEGISとしてはどうする?」

「そうですね、とりあえず今は様子見です。下手に動くとこちらが危険になる可能性もありますから」「そうか」


 それだけ言うと晃輝は席を立つ。

 

「もう行かれるのですか? もう少しゆっくりされても……」

「いや、用は済んだからな」


 応接室を出て行こうとする晃輝に慌てて声を掛ける湊音だったが、彼は振り向くことなくそのまま出て行った。






♢♢♢





 

「はぁ、……まさかあの人が直接ここに来るとは思わなかったな」


 晃輝が立ち去った応接室、飲み終わったコーヒーカップを片付けながら湊音は溜息を付く。

 

「あんな強固なセキュリティだらけの管理局のサーバーに侵入できるなんて、……本当に天才なんだな、晃輝さんって」


 湊音が管理局のサーバーにハッキングを仕掛けた事は何度もあった。

 しかし、彼の技術を持ってしても未だに半分程度しか解読する事ができなかった。

 

「晃輝さんは……、何でも出来るんだな」


 そんな独り言をこぼせば、応接室へとノックが掛かる。そこで入ってきたのは、容姿端麗な長い白髪の男性だった。

 湊音はその人物を見れば、姿勢を正す。

 

「今は誰もいない、そんな畏まらなくていい」

「……そ、そうは言いますが……」


 白髪の男性、彼こそがAEGISのCEO、最高責任者……無護(なしもり)白渡(はくと)。湊音は緊張したままだ。

 それを見た白渡は苦笑しつつソファへと座る。


「シンギュラーに会ってどう思った?」

「……とても、怖い方ですね。嘘をつけません。少しでも言葉を漏らしたら、危険です」

「……湊音、奴への依頼は続けろ」

「分かりました。それは問題ないのですが……、晃輝さんの邪魔にはならないでしょうか」

「問題無いだろう、もしもの時は手伝ってやれ、それともう一つ」


 白渡は頭を抱えて、ため息を吐いた。

 その様子を見た湊音は、またか、という表情を見せた。

 

「遥華が、また問題行動を起こした」

「えーー!! また僕が報告書と始末書を書くんですかぁ?! 嫌ですよ!」

「いいからやれ」

「酷い! 職権濫用だぁ!!」

「うるさい」

「すみません」


 白渡に一喝され、湊音は渋々といった様子で、端末を取り出すと作業を始めた。

 

「全く……、遥華の奴め」


 白渡は頭を抱える。


 晃輝が去った後AEGISではそんなやり取りが行われていたのだった。

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