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EP:23「動き出す運命」

ランクインしたことに驚きました……。


 AEGISの社内病室にて、晃輝の身体をベッドに寝かせたまま、湊音は彼の容態を確認していた。現在、晃輝は数日寝たきりで目を覚まさない状態であり、危険な状態である事は明確だった。


「身体に、解析不能なエネルギーがあります。これがフェイタルだとすれば……」


湊音の他に心配そうに晃輝を見ているのは、琥白と晃輝の端末の中にいるエルだった。琥白は不安な表情を浮かべながら、晃輝を撫でている。


「……晃輝は、イェソドで気化したフェイタルに侵食された。そこから自分でハッキングして、……取り除いたかと思った、けれど……」

「管理局がやってきて、完全寛解にはならなかった」

「……」


琥白は湊音の言葉を聞き、少し俯く。


「……晃輝……」


悲しげに彼の名前を口にする琥白、そんな暗い空気の中、病室の電子扉が開き、足音が聞こえてきた。


「随分と、暗いな。まだ死んでもいないだろうに」


そう言いながら入って来たのは、琉夜だった。


「……フェイタルについて説明しておくべきだと思ってな」

「それは彼が目を覚ましてからで良いでしょう、今は治療に専念——」

「悪いが、そいつの治療は不可能だ」


湊音が言いかけた言葉に、琉夜は表情を変えずに割って入る。その言葉を聞いた皆が一様に驚愕し目を見開いた。そして数秒後に最初に声を発したのは琥白だ。


「……どうして、そんな事を言うの……?」

「血中の細胞一つ一つにフェイタルが感染している。それは癌細胞のようなものだ。つまり、一度取り除いたとしても、再び増殖する可能性がある。一度感染したら致死率は100%ってわけだ」


 琉夜は冷たく言い放った。その発言に対して怒りを覚えた琥白だったが、それを必死に堪えた。ここで声を荒げても何も変わらないからだ。


「だがな、ここまでフェイタルに耐えた人類は初めて見る。流石は特異点と言ったところか。」


琉夜は、ベッドの横にある空いている椅子に座って腕を組んだ後に足も組み始めた。


「……フェイタルは、確かに地上で発生した大規模なパンデミックの感染源ではあるが同時に万能エネルギーでもある。だから過去の人類はそれらを使い文明を発達させてきた。だが故に体内に入り込めば、致死率100%。だがそれは“耐性が無い人間”のみだ」


 彼の言葉に、全員が目を見開く。耐性がない者のみ、という言葉に僅かに希望が見えたのかもしれない。


「耐性がある人間は、フェイタルに感染してもすぐには死なない、むしろ万能エネルギーだからこそ肉体に適応し、適合。フェイタルを克服することが出来るし、……フェイタルを支配する事が出来るようになる」

「……つまり」

「そう。彼奴はその体質を持っている。恐らく今眠っているのは身体がフェイタルに適合しようとしているんだろうよ。まぁ時間は掛かると思うがな」

「耐性のない人間、と言いましたね。……前例はあるんですか」


湊音が問うと、琉夜は少し考える仕草を見せた後ため息を吐いた。


「前例も何も、俺は……随分前にイェソドに潜入したことがあってな、そこで目の前で高濃度のフェイタルを浴びた」


 琉夜が思い出すかのように話すその出来事に、驚愕を隠せない一同。しかし当の本人は至って平然とした態度でいるためそれが冗談か何かなのか分からなかった。


「……大丈夫だったの……?!」


琥白は焦ったように問いかけるが琉夜は何食わぬ顔で答えた。


「……死にかけたさ、マジで死にかけた。微量ながらフェイタルに耐えられるレプリカントの身体でもすげぇきつい。下手したら死んでいたレベルだ、まぁそこからか。俺が天才的なハッカーの技術を身につけたのは」


 過ぎた話だからか琉夜は流すように語る。だが琥白や他の者たちは未だに信じ難いといった様子だった。


「まぁ俺みたいな奴は珍しいだろうがな。あとは彼奴は俺よりも天才。耐性も強いだろうし適合するのも早い。それだけの話だ」

「……晃輝」


 琥白は心配そうに晃輝の手を握る。それを見た琉夜は、不意に言葉が出てしまう。


「……なぁ、お前。もしかして、晃輝のことが好きなのか?」


 その言葉に琥白は顔を真っ赤にし慌てて手を離す。


「っな……!? 何を言ってるの……!?」

「琉夜さん!?!?」


 エルも端末の中で驚きの声を上げる。そんな二人の反応を他所に琉夜は淡々と続ける。


「どう見ても、友人に向ける表情じゃねぇだろ」

「〜〜ッ!! 違うから!!」


 顔を真っ赤にした琥白は慌てて否定するがその態度がまた琉夜のツボに入ったらしく腹を抱えて笑い出した。

 その様子を見てさらに怒りが増す琥白、琉夜へと近づいてはその背中をポカポカ、と叩く。


「うるさいうるさい! もうほんと最悪……!」

「はいはい落ち着けって。わかったから」


 そう言いながらも琉夜は一向に笑うことをやめようとしない。そんな彼を見て呆れた様子で肩を落とす琥白。


「……マスターが目を覚ましたら聞いてみればいいじゃないですか」


 どこか淡々として、無暮れたエルの言葉に琥白はぴくりと反応し顔を上げると同時に頬を赤く染め上げる。

 そして何か言おうとしたようだが言葉が出ないようで口をぱくぱくとさせるだけだった。


「ふっはは……っ! それもそうだよなぁ! ……お前彼奴の事大好きだもんな」

「好きじゃ無いもん……!!」


 琥白の言葉に琉夜は再び大爆笑を始めた。


「おーおー照れてやがんの」

「違うもん!! 別に晃輝のことは好きじゃないし! 全然好きじゃないから!」

「はいはい」


 琉夜の言葉に琥白はむきになって反論するが琉夜は全く取り合わず適当に流す。

 その様子を見てさらに怒りが増したのか今度は腕を振り上げるがそれもまた琉夜に軽くあしらわれる。


「重い空気、無くなったろ?ん?」


 琉夜はにこやかに琥白に言うが琥白は黙ったまま。

 どうやら拗ねてしまったようだ。

 それらを黙って見ていた湊音は咳払いをして会話を遮る。


「……さて、冗談はそれくらいにしておきましょうか。晃輝さんは目覚める可能性が高い、と見ていいんですね?」

「ああ。あとは目覚めるのを待つだけだな。ま。俺にできる事はもう無い。エル、まず俺のところに一度来い」

「……? わかりました」


 琉夜の言葉を聞いたエルは端末から移動して琉夜の持つデバイスに移動すると、同時に琉夜は病室から退室していった。


「……さて、これから、どうなることやら。あいつの運命は、これで定まるだろうが……」


 琉夜は小さく呟く、目の色が紫色へと変化するが、目を閉じ、すぐに目を開ければ目の色は元に戻っていた。

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