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EP22:「レプリカント」

次の話で2章終了となります。


 「さて、ここからは慎重に言葉を選べ。貴様らは既に俺の間合いだ」


 その言葉を聞いた武装部隊の一人が、慌てた様子で白渡に銃口を向け発砲する。

 同時にその銃弾を居合で斬り捨てる。銃弾の速度よりも早く反応した白渡に武装部隊は驚きを隠せない。


「ふざけるな、AEGIS……、ただの一企業が、管理局に楯突くとどうなるか……!」

「勝手にするといい。管理局などこの偽りの地下世界にだけ踏ん反り返っている独裁組織だ、俺はそんな組織に屈する気はない」

「貴様ァ!!」


 武装部隊の一人が激昂して白渡に銃口を向けると発砲した。

 同時に白渡の刀が煌めいたかと思えば、その一瞬で武装部隊の銃が全て真っ二つに切断され、地面に軽快な金属音を放ちながら落下していった。

 その光景を見た他の武装部隊は動揺し後ずさる。


「化け物め……!」

「言われ慣れている。……管理局とAEGISは確かに協力関係を結んでいた。だが、それも無意味な話となった。元々利害関係があっただけの事、互いの利益のために協力していたが、互いに意見が異なった時点で、関係は破綻する」


 淡々と語る白渡の言葉はとても冷ややかなもので、そこに感情は一切感じられなかった。

 その様子を見た武装部隊は恐怖を覚えたのか更に後退りする。

 それでも動じない紫織の表情はまさに機械の様であり、人間離れしているようにも見えた。


「……これ以上は時間の無駄だ」


 白渡は深呼吸をする。

 納刀している刀の柄に手を伸ばし、居合の構えを取った。

 その瞬間、周囲の空気が張り詰めていく感覚に襲われる。

 それを感じた紫織は、危険だと判断し、武装部隊に対して即座に撤退の命令を出した。


「……総員、直ちに撤退を——」

「遅い、猶予は充分に与えた」


 紫織の言葉を遮る様に白渡の声が響く。その瞬間、目にも見えない巨大な一閃が放たれ、一瞬のうちに紫織とその後ろにいた武装部隊を一掃した。

 あまりの速さに誰もが反応することができず、その一撃を受けた者は例外なく、断ち斬り飛ばされた。その一閃は衝撃も強く、内部の壁すらもヒビが入りこみ、何もかも崩壊寸前まで陥る。

 悲鳴さえ上げられず、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。それはあまりにも圧倒的な力の差を感じざるを得ない。


「……硬いな」


 最後に残ったのは紫織一人だけだった。しかし白渡の一閃を直撃したのにも関わらず、紫織の身体は切断される事はなかった。

 一撃は重かったのだろう、彼女の腕からはバチバチ、と火花が散っていた。

 血の代わりに、赤いオイルが漏れ出しており、腕は人間の腕としてカモフラージュをしていたが今や機械の部品が露出していた。


「……この一撃を耐えるのは予測していた」


 白渡は刀を鞘へ収める。白渡の一閃により、真っ二つに切断された武装部隊。武装部隊こそ全滅はしているが、建物全体は切断されず、その斬撃痕がくっきりと残っていた。彼の一撃であるならば建物自体が切断されてもおかしくないが、力の制御でもしたのだろう。エントランス全体に赤い水溜りが広がっていく様子は、まさに地獄絵図。

 そんな惨状を目の当たりにしてもなお紫織の表情は変わることがない。

 紫織は、それらをまるでゴミを見るかのような目で見てから舌打ちをする。


「……この世界の人類は、人類ではないのは理解している」


 ため息を吐く白渡、その吐息は冷たく、視線すらも氷のように冷たい。

 

「世界の再構築、人類の再構築など貴様には出来ない。貴様は神ではない、“彼女”に作られた存在だからと言って、自分が特別な存在だと思い込んでいるだけの機械人形だ。この世界に生きる俺たちは人類の形をした人類擬き(レプリカント)、人間に戻りたいなど俺は一切思わん」

「彼女は私に言った。私を作る時に、……セラフィムをよろしくお願いする、と。その役目を果たしているだけだ。それに……」


 紫織の口調から敬語が解けていた。

 それは淡々とした機械的な口調で、まさに人形と言えるような抑揚のない一定の音を放っている。


「人類を絶やさないように、セラフィムに全てを注ぎ込んだ、あの忌々しいフェイタルに侵されながらも、彼女は必死に戦った。彼女が望んだ未来を私は叶えようとしているだけだ」

「……それは、彼女の因子を持っている雨宮琉夜の意志を無視しても、か?」

「私は彼に対して興味など一切ない。あの人の遺伝子を引き継いだレプリカントだとしても、あの人ではないのだから。どうでもいいから道具として扱っていただけに過ぎない。」


 紫織は、静かに立ち上がる。腕から火花、オイルが弾け飛ぼうと、淡々と話し続ける。


「セラフィムは人類の希望、全てを乗せたノアの箱舟。それを破壊しようとする蒼井晃輝(イレギュラー)の存在が、危険過ぎる。あれが唯一の人類だとしても、絶対に排除しなければならない」

「下らんな」


 白渡は紫織の言葉を聞くと一蹴した。

 くだらない、とはっきり言い放つ白渡に紫織の表情が初めて変わった。

 眉を寄せ、苛立ったような表情を見せたのだ。


「ただただ機械として与えられた命令に従っているだけの存在が何を言っているのやら。それに気づけないから、いつまでも失敗を繰り返す。彼女の為と言いながら、本当は貴様自身の欲望を満たす為だけに動いているだけだ」

「私は代行者。たとえ私がただの機械でも、使命を全うする事だけが私の存在意義だ」

「……エルを人形と呼んでいたようだが、それは貴様の方だったな。人形に未来は存在しない」


 白渡は刀の柄を握りしめたまま立ち止まると紫織を見つめた。


「エルは貴様と違い、自由に選択し未来を創る事ができる。そして…」


 刀を鞘から抜き放つ。その刀身が姿を現すと同時に紫織へ向けて剣先を向けた。


「危険因子は貴様の方だ」


 紫織の返答は待たない、白渡は刀を構え突き進む。

 紫織は咄嵯に飛び退くがそれよりも速く刀が彼女の喉元に到達した。

 紫織は咄嗟に腕を動かし白渡の刀を掴もうとするが彼はそれを許さない。

 素早く刀を振り上げれば彼女の手首ごと切り落とした。


「ぐぅっ!!」


 紫織の腕が切断される。鮮血が吹き出し痛みに悶える。

 しかし白渡は止まらない。

 間髪入れずに彼女の腹部に蹴りを叩き込み吹き飛ばす。壁に叩きつけられ衝撃で呼吸が止まる。彼女は咳き込みながら白渡を睨みつけた。

 そしてその時になって初めて彼女は己の身体に異変が起きていることに気付く。

 一瞬の出来事であった故に、何が起きたか理解できない。自分の身に一体何が起こったというのか。

 ただわかるのは目の前に立つ男が自分よりも遥かに強いということだけだった。


「貴様は俺の間合いに入った時点で敗北している。言ったはずだ、言葉は慎重に選べ、と」


 白渡は紫織の首を掴む。そのまま彼女の首を持ち上げた。

 紫織は抵抗しようとするが力が入らない。腕が動かない。足も動かない。まるで金縛りにあったかのように全身が痺れて動けなかった。


「貴様こそ空虚な存在に過ぎないという事だ」

「……まだ、終わって……」


 だがそれでも紫織はまだ諦めていない様子だった。

 しかしもう限界なのか動きが鈍っていた。恐らく先程の攻撃で演算回路に異常をきたしているだろう。


「もう終わっている」


 その言葉と同時に白渡は彼女の首を刎ね飛ばした。

 血を模したオイル飛沫が舞い上がる。紫織の頭部は宙を舞い白渡の足元へと転がり落ちた。


「……ああ、成程。あなた方はその道を選んだのですね。良いでしょう、私は、貴方達の危険因子として、対峙してあげましょう。……今は、貴方達のターンです、精々生き抜いてみせろ」


 白渡はよく喋る頭部をじっと見つめた後、勢いよく上から踏みつけた。

 ぐしゃりと鈍い音を立てて潰れた頭部からはオイルと部品が飛び散る。

 紫織の身体はすぐに止まり動かなくなった。


「……此方、無護白渡。現時点で蒼井晃輝救出作戦及び管理局殲滅作戦、共に完了。これより帰還する。各自、撤収準備を始めろ」

『了解しました、お疲れ様です、白渡さん。あとはお任せください』


 繋いでいるデバイスから湊音の声が聞こえる。

 白渡は、誰もいなくなったエントランスを見渡して、ソファに座って前へと項垂れた。


「……ああ、あとは任せる。……少々疲れた」


ここまで読んで下さってありがとうございます。

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