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EP:17「気づいてしまった」


 二人が行くとそこに広がっていたのは、エネルギー貯蔵エリアだ。


 その空間には大量の円柱状の機械と、それに繋がれた巨大な電力装置が鎮座している。その周りは正四面体のようなディスプレイ画面がずっと上の天井まで取り付けてあり、見てみると数え切れない程映し出されている。

 

 その圧倒感に晃輝は言葉を失った、この光景を見ただけで分かる。このエネルギーがどれだけのものなのか。


「……そういえば言いかけたな、俺の仮説だったか」

「うん」

「俺はこの電脳都市のエネルギーは、全て感染性の高いウイルスであると考えている。ウイルスエネルギー……核物質と同等なもの、致死性が高いなら、……核物質よりも恐ろしいものになる」


 その事に早く気づいていたなら防護服を着ていただろう、だが今のまま防御出来ない。 

 身体が不自然にじわと弱まっており、冷や汗が滴り落ちる。人体に支障が出ているが、琥白は何も影響がない。


「……俺と、琥白の、人体構造が、全く……違うということは」

「……晃輝、大丈——」


 琥白がそう言いかけた時には目の前で、晃輝は倒れていた。


「……え?」


 だらんと四肢を伸ばした晃輝。

 何が起こったのか理解していない琥白は思わず身体を揺する。


「マスター!!」


 エルが端末から飛び出してくる、アンドロイド姿となりエルはこの状況を理解できない。

 しかし晃輝の身体には青白く輝く血管のような線が迸っていることに気が付く。


「……やられたな、まさか、エネルギーが自我を持っているとは、思わなかった」

「マスター、大丈夫ですか!?」

「……『無闇にハッキングする事は極力控えなければならない事がわかった』という意味がわかった、だろ。ハッキングをしたら最後、ウイルスエネルギーが感知した。コンピュータウイルスと同等なもの、つまりハッキングは感染行為、あれに現実で触れるのもダメだったということだ」


 倒れてしまった晃輝は首だけを起こし辺りを見回していた。

 自分の体内状態を確認するものの麻痺状態なのだろうか、体の関節だけは動くが腕を上にあげるだけでも一苦労だ。


「ハッキングを感知、それに空気感染、人体に支障を及ぼす……数百年前に、起きた地上でのパンデミックは、……これが、原因か」


 晃輝は麻痺しながらも自分の手の平を見つめる。

 青白く光る血管が浮き出ており、それは晃輝の身体中に張り巡らされている。


「……、っは、ウイルス、か。……はは」

「晃輝!」

「マスター!!」


 エルが心配そうに声を掛けて、手を伸ばすが晃輝はその手を払い除ける。

 その払い除ける音は強く、まるで鋭利な刃のようなものだった。

 痛みか震えあがるのを感じながらもエルは晃輝に声を掛けるが、彼はそれを拒否した。

 麻痺している身体を無理やり動かして、立ち上がるとふらつきながら、目を抑える。


「……狼狽えるな。……経験してない事を……食らったら、俺でも、こうなる」


 抑えている目元から、手をだらんと外す。

 目を開ければ、晃輝が持つ翡翠色の目は、エラーを示す警告色である赤に侵食されていた。


「……、なる、ほどな。……理解、した」


 このままだとウイルスに自我を乗っ取られるだろう、そうなった場合エルと琥白に何をするか分からない。

 だから、そうなる前に晃輝はある行動を起こした。


「俺が……俺自身に、ハッキングする。」


 自分の身体の状態に驚く事なく、立ち振る舞う彼を心配して何度も声を掛けた。

 だが彼の耳に入ることは一度も無い。意識が支配されそうになるのを拒絶することで精一杯だ。


「でも、それは……」


 琥白が止めようとするが、自身の頭に指を乗せ、晃輝は精神統一させる。

 自分自身をハッキングするなんて初めての事だ、失敗するかもしれないがやむを得ない。

 こうしなければ自我を奪われ、自分はただの傀儡となり果てるだろう。

 だが失敗はできない。万が一があったのなら、ここにいるエルと琥白の命を守ることができないからだ。

 息を止めて集中、頭を回し思考を研ぎ澄ます。


「ハッキング、開始」


 そう言葉にした時、指先に感覚が消えていくのが分かった。

 視界も黒く塗りつぶされていって視界が完全に閉ざされた瞬間に頭の中でプツンと切れたかのような感覚が襲ってきた。

 それと同時に晃輝の身体は膝から崩れ落ちたかのように床へと倒れ込んだ。

 倒れる間際に見たのはエルが倒れた晃輝へと駆け寄る姿だった。






♢♢♢






 自分自身をハッキングするなんて、どのハッカーでもやったことがないだろう。

 成功する確証などどこにもないがやるしかない、それに失敗して自分が死んだのであればそこまでで終われるだけのこと。


 数秒間経ったところで触覚を感じる。これでやっと自分に対してハッキングを成功させたことになる。


 だがしかし未だ問題は完全に解決できていないのも事実だ。自分自身に感染してきたウイルスを完全に削除しなければならない。

 晃輝の脳内空間は、ただただ、真っ白な空間だった。時折電子状の黒いノイズが漂っているのを見ながら。


「……さっさとハッキングを終わらせて戻らないとな」


 まず電子回路を開く。そこには複雑な情報が並んでいることがわかる。

 これは自分のデータそのもの。コードを書き上げるように入力を行うのを繰り返す中でふと気付く。


「(第四層にあるウイルスエネルギー、あれがこのセフィロトの動力源だとすれば……自律型の生命物質。あのエネルギー自体が自己増殖、感染を繰り返して……)」


 数百年前の地上で起きた未知のウイルスでのパンデミック、このエネルギーが原因だとすれば辻褄が合う。

 感染した対象の精神へ影響を与え、最終的には死亡。脳の電気信号を侵して人格さえも支配するのだと仮定する。


「だったら……」


 コードを書き上げる指が止まる。

 

 人体に支障を来たすウイルスエネルギー?

 であれば琥白は?


 人体であればエネルギーとは相性が良くないはず。

 だがウイルスの効果を受けている様子もない。


「……まさか」


 晃輝は気付いた。

 気付いてしまった。


 そんなわけが無いと思っていた。セフィロトに住む人類は皆エネルギーの恩恵を受けている。




 人類だと思っていた存在は“人類”ではなかったという事実に。




 頭が痛い程の吐き気を感じ胃液が逆流してくるような感覚になる。涙さえ流れるような状況。


「馬鹿かよ……ふざけないでくれ……」


 感情任せに吐き捨てた、だが信じたくもない真実を認めざる負えない。

 今まで普通に接してきた者達が人外であったという事実に憤りさえ感じていた。


「……はは、じゃあ人類は、“俺だけ”ということじゃねぇか」


 自暴自棄になって悪態を吐く、だが時間を掛けられないと判断して作業を続行する事にした。

 コード書き上げる事を止めずに行う、ただ早く。


「……見つけた。ここの部分を切り離したら終わるはずだ」


 その瞬間、何かが潰れたような不快な感覚が襲いかかり、咄嗟に口元を押さえるが吐き出しても尚収まらない不快感に苦しみ悶え続ける事になる。


「ッ……外部からの妨害……?!」


 急に喉の奥から競り上がる熱いもの。口を手で塞いだ瞬間に広がる真っ赤な血の匂い。

 それは紛れも無く自分の血によるものであった。


「……ハッキング、中止……、くそ、こんな、時に……」


 自身の精神から現実へ。

 意識が浮上して現実世界へと戻る、地面に横たわっている感覚に気付いた晃輝はその感覚を受け入れようとして瞼をゆっくり開いた。


「ゲームオーバーですよ、蒼井晃輝」


 晃輝の目の前にいたのは、管理局の橘紫織だった。

 管理局の武装部隊がそれぞれ銃口を晃輝に向け、紫織が彼の眉間に銃口を向けていた。

ここまで読んで下さってありがとうございます。

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