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EP16:「第四層へ」

大変遅くなってしまい、誠に申し訳ありませんでした

 《エリア:ビナー》、奏に何故か気に入られた晃輝。

 何故気に入られたのか不思議だったが今はどうでもいい。ビナーの裏層の中に存在するとある場所へと向かっていた。


「奏さん共々クリフォトは、本当に信用していいのでしょうか? マスターは信用するしかないと言っていますけど……やはり私は信用出来ません」


 エルが晃輝の端末の中で話す、アンドロイドとして端末から出てきていいと言ったもののエルは頑なに拒否をする。

 表に出ることが怖く、周りの人達を信頼出来ないからだろう。


「AEGISの人達の方が余程信頼できます」


 それを聞いている晃輝は何も表情は変わらない。

「それでいい、それでいいんだ。この世界の人間を完全に信用するのは難しい、なんせ口からならば何とでも言えるからな。このクリフォトだって、セラフィムに反逆する者達が集まった組織とは言うが、……管理局の手先が混ざっている可能性だってある。警戒はしておくべきだ」

「……マスターは、人を心から信頼した事は無いのですか?」


 晃輝はエルのその言葉を聞いて、足を止める。


「俺は誰かを心から信じた事は無い」

「……」

「信頼すればその心の奥に付け込まれる。弱点を作られる。だから俺は誰も信じない。……どうせこいつらも、俺を見ているわけじゃない」


 晃輝自身を見ているわけじゃない。晃輝の天才的頭脳が欲しいだけ。そんな奴らの信頼などいらない。

 天才なんて大層な名前も、晃輝にとっては嫌いな言葉だ。

「……利用するだけだ、俺を利用するなら俺もこの組織を利用する」

「それでも、私はマスターを信じています」

「……そうか、勝手にしろ」


 晃輝はそのまま歩みを進めた。


「はい、勝手にします」


 エルは満面の笑顔で答えた。

 そして、とある場所に辿りつく。

 周りにある鉄パイプや鉄骨で作られた建造物はまるで工場のように建てられている。中を覗けば、作業服を着た人達が必死に何かを作り上げていた、

 よく見れば廃材での即席武器を作っているようだった。その武器の数々を見れば、お世辞にも使いやすいとは言えないだろう。


「ここで合ってるな、入り組んで迷うかと思ったが無事に着いたようで何よりだ」

「武器はどうにか作ると言ってしまいましたしね、マスター」

「そうだな、急ピッチで作れる武器なんざたかが知れてる。殺傷能力があるかないか、となれば無いに等しい」


 出来上がった武器を眺めている晃輝に対してエルは疑問に思った。

 彼は、自分で手を汚してしまうのだろうか、と。


「マスター」

「……何だ」

「マスターはいざとなった時、人を、その……」


 言い淀むエルの言葉の続きを予測して、晃輝はため息を吐いた後、静かに答えた。


「殺す必要があれば殺す。必要がなければ、面倒だから殺さない。殺さなければ殺される。殺される前に殺す。……ここはそんな世界だ、管理されている世界の時点で、俺たちの人権など殺されているだろうに。」

「……マスターは、人が苦手なんですか?」

「苦手ではないが興味がない。人は醜い生き物だ、見栄を張るためだけに努力をする。偽善者で自分を正当化する為に人を蹴落とす事だってある。それが例え、親しい間柄の人間だったとしても、そいつの為になると信じて裏切る事もある」

「……マスターにとって人間は汚いものに見えますか?」

「どうだろうな、人の醜さに嫌気が差しても、その醜さが人間の本質だとしたら、それはそれで受け入れるさ。ただ、俺から関わりたいとは思わない」


 手に持っている即席の武器を眺めながら、その仕組みを理解する。

 これを分解して使えるパーツを量産したりして作れば良い。


「とりあえず、設計図を作る所から始めるとするか。銃でもいいが、やっぱり剣のほうが利便性があるよな、どうするべきか」


 悩む素振りをしながら周囲を見渡す。

 作業員が一心不乱に鉄を打つ音だけが響き渡っている中、ふと思いついたことがあった。


「……剣と銃、同時に使えるような変形型武器を試作してみるか。剣の形状から銃へと変形して、銃弾を撃ち込めるようにして、遠距離と近接攻撃を可能にした方が便利だな。あと連射性能も上げておくか、それなら、部品数も少なくて済むし効率化にもなる」


 端末を立て掛け、その中にいるエルを指で撫でた。

 そしてその後、ブツブツ独り言を続けながら紙に図を書いて行く晃輝、その様子をエルは見守っていた。


「第四層にあるエネルギーを抽出すれば、……ああ、大型兵器も作れそうだな。エネルギー量が問題だが、まぁいけるか」


 晃輝が集中している中、足音が聞こえる。歩いてきたのは琥白だった。

 それに気づいたエルは端末の中で手を振って挨拶をする。


「ん、ここにいたんだね」

「マスターは今、集中しているので声を掛けても届かないと思います」

「そうだろうと思った」


 琥白は、設計図を描き続けている晃輝を横目に見て、机に長方形の高カロリー固形栄養食を置いた。

 それを見たエルは首を傾げる。


「それは何ですか?」

「短時間で栄養が取れる食べ物」

「それは、便利ですね。でもどうして?」

「…………晃輝はちゃんとご飯食べてないと思う」

「あー……、確かにマスターはエナジードリンクしか飲んでいない気がします」

「でしょ? 充分な栄養が入ってないと思うから、一口だけでも食べてほしい」

「それは……、そうですね。確かに栄養は大切です」


 晃輝が常に甘い物を食べたり飲んだりしているのは、常に情報処理する脳の活性を促進させるためだ。

 エルは、晃輝の健康を心配しているようで琥白の言葉に頷きを見せる。

 エルは、晃輝に少しでも健康でいてほしいと願っていた。


「……、この地下都市の人達の食事はどうしているのでしょうか? マスターがあまり食事をしないので私は学習出来ていません」


 エルが琥白に対して、疑問を投げかける。すると琥白は表情を変えずに口を開いた。


「栄養補給用のゼリーとか、缶詰のレーションとかいうやつかな。チューブタイプの飲み物もあるよ。後は肉や魚なんかは贅沢品。あとは合成食品が多い」

「……そうですか」


 地下電脳都市、セフィロトの食事環境はそれが常識なのだろう。

 しかしそれで生きられるのだから人間の適応能力とは恐ろしいものだ。


「……何を話しているかと思えば……」


 設計図を描き終えた晃輝はペンを置いた。


「……完成だ。時間はかかったがな」

 

 設計図を琥白に手渡すと、彼女はそれを受け取り確認した。


「私でも此処まで複雑なのは書けない。……でも作りやすくなってる。……エネルギー、EN武器?」

「第四層に眠っているエネルギーを引き上げて、それを抽出する事で永久機関が完成する。ただ問題がある、このエネルギー資源を第四層から持ってこなければならない事だ」

「……それは」

「この地下都市のエネルギーは資源になる、第四層の管理企業は……」

「管理局とユニゾン・インダストリーです。マスター、ですがユニゾンの方が管理権を持っているようです」

「……流石だな、エル」


 ユニゾン・インダストリーとは、主にエネルギー関連の事業を展開している中小企業だ。管理局と協力しているのが気にかかるが。

 晃輝も少し依頼を受けたことがあるぐらいだが、記憶は朧げだった。


「なら奴らのエネルギー資源を奪うか」

「じゃあ私も行く、ついていく」


 琥白は晃輝に同行することを申し出た、その目は真剣そのもので、本気である事が伺える。

 その意思を受け止めながら、晃輝は頷いた。その同時に思考を巡らせる。


「(管理局、AEGIS、……企業同士がぶつかり合うように火を撒くには、まだ弱い火種だ。……それに)」


 まだ全ての管理者たるセラフィムの居場所を突き止められていない。

 セラフィムの情報も少ないので仕方がないが。管理局が勢力を上げる前に早く行動を起こさなければならないが、焦りは禁物だ。

 確実に物事を進めていこうと自分に言い聞かせる。


「第四層に向かう際に注意が必要だ。監視カメラや防犯システムが存在する可能性もある、一般人ならば侵入すら出来ないだろう」

「……だから晃輝とエルが行くんだね」

「そういうことだ、俺とエルならハッキングで切り抜けられる」

「あ、晃輝。そこにある固形栄養食食べて、持ってきたから」


 琥白が指差した固形栄養食を見る晃輝、指で触れてみるが実に固い。


「…………ありがたく頂く」


 晃輝はそれを受け取り包装を破り捨てるように開けて中身を取り出した。

 形は細長いバーのようなもの。中から溢れ出す人工物の匂い、何とも言えない人工的な味付けはあまり好みでは無いが、栄養価が高いのは事実ではある。

 ゆっくりと咀嚼をするが、思った通り凄く固い。食べ応えはあるが、味も素っ気なく美味しいものではなかった。


「……不味い」


 感想を述べても何も変わらない。飲み込んでからも口の中に残る嫌な食感を感じて顔を顰めてしまう。


「これを食べたら、すぐに行動するぞ。管理局がいつここを見つけてもおかしくはないからな」

「ん……必ずやり遂げよう」

「……」


 固形栄養食を食べ終えた晃輝はゆっくりと立ち上がり、端末携帯を拾い上げる。

 エルもふんす、と鼻息荒く意気込んでいた。







♦︎








 《第四層:イェソド》。

 

 エネルギー生成層、それが第四層の名を由来とする名前だ。

 特殊な金属物質と電波飛び交う強力電磁波によって管理されていて一般の人間は足を踏み入れない領域だ。

 それを管理しているのが中小企業ユニゾン・インダストリー。だが晃輝とエルの前では、その管理権すら意味を持たない。


 この地下都市出入りができるのは第一層『ケセド』と第三層『ビナー』のみだ。

 他は全て立ち入り禁止となっており、誰も通る事は無い。

 第二層はAEGISの管理だが、それだけだった。


 第四層のハッキングが終わり、侵入した晃輝と琥白。

 エルは晃輝の端末の中に存在しており、常に警戒網を張っている状態だ。

 第四層は他の層とは違った構造になっていた。まるでクリスタルに反射するような煌めき、何人も足を踏み入る事が無い空間の為か濁りようもない空気が漂う。

 その回廊も広すぎてもはや気味が悪く見えていた。


「……でも」


 琥白が第四層の回廊を歩きながら言い出す。


「こんな厳重にエネルギーを管理するなんて、よっぽど誰かに見られたくないみたいだね。他の層とも規模が違う気がする」

「…。……そう、だな……」


 第四層をハッキングするのは容易だった、だが問題はその後だ。

 第四層に入った刹那、晃輝はくらりと目眩と頭痛に苛まれる。

 苦しそうによろける身体に琥白が支えようと手を伸ばすが、晃輝はその手を払い除けた。


「……、手を出さなくていい」

「でも……」

「ただの貧血だ。……今ので無闇にハッキングする事は極力控えなければならない事が分かった」

それはどういう意味か、琥白には理解が出来ない。

「晃輝は……」

「…………黙ってろ」


 自分の体の問題を知られたくないからか口数が圧倒的に少ない。


「……晃輝、ここから入り口、みたい」


 琥白が指差したのは回廊の終わりに見えた白い電子扉。

 すでに晃輝がハッキングし終わっている為、琥白が近づくだけで電子扉が反応して、自動に開く。


「先に行け、……落ち着いたら行く」

「分かった」


 琥白は先に電子扉の中に入っていった。

 その後ろ姿を見届けた晃輝はゆっくりと深呼吸をする。


「……っ」


 一瞬、目の前が真っ白になる。だがそれは一瞬ですぐに治る。


「マスター、大丈夫ですか」


 エルが話しかけてくる、どうやら心配しているようだ。

 だがそんなエルに返事する事もままならない。それほどの激痛が頭を襲った。


「……マスター」

「言うな、わかっている」


 第四層が管理しているエネルギー、生成と言ってもどうやって生成しているのか謎だった。

 人一人すら見当たらないこの層でどうやって生成しているのだろうか、と疑問に思っていた。


 それに琥白はエネルギーの余波を受けても平気だった、だが晃輝はこうして支障が出てしまっている、その違いとは?

 その事を考えた瞬間に悪寒が走った。


「エル」

「はい」

「生まれてからずっとこの電脳都市に住んできた。だがこの電脳都市はどうやら、知らない事だらけだったようだ」

「どういう事ですか、マスター?」

「……理屈じゃあ説明しきれない事象だ」


 晃輝は眉間に指を置いて次の言葉を言おうとする。


「……意識を構成する為に必要な脳波を操るエネルギー……」

「マスター?」


 エルが心配そうな目で見つめる中、晃輝は少し考え込んだ後に口を開く。

 その思考に迷いはなく確信を持った言葉だった。


「……この電脳都市のエネルギーは簡単なものなどではない、もっと別の何かで構成されている可能性がある。俺の推測ではある仮説を思いついた」

「その仮説とやらを聞いても?」

「……それは——」


 晃輝が言おうとした時、電子扉が開く音がした。戻ってきた琥白は晃輝の姿を確認するなり声を掛ける。


「来て。……多分このエネルギー、まずいかも」

「……」


 エルは晃輝に判断を委ねるように、静かに見つめていた。


「……わかった、……行こう」


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