28話 巧の正体
――2日後の放課後
巧はリオの案内で、マジェスタ魔法学園を訪問していた。南門を通り受付の建物の先にある校舎に向かった。校舎の前にある校庭に差し掛かると、校舎の前に学園長とシュミットが居るのが見えた。迎えに来てくれたようだ。
リオは、学園長の元に走っていった。巧のことを説明しようと思っての事だった。そして、巧がリオの後を追って行き、校庭の真ん中に差し掛かった時それは起こった。
「電撃縛」
学園長の声がして、巧の体を電撃が絡めとった。
「ぐぁぁぁああ」
巧は苦悶の声を上げた。
「学園長! 何をしてるんですか?!」
リオが学園長に抗議した。
だが、学園長とシュミットは視線を巧から離さず警戒態勢を取っていた。
「さあ、正体を見せよ」
と学園長が言った。
巧は、力を振り絞って脱出を試みたが、激痛で体を動かすことすらできなかった。巧は必死に抵抗していたが、遂には力尽き気絶してしまった。体に力が入っていない巧にシュミットは、あれ?っと疑念を抱いた。リオは横で泣きじゃくっている。
「学園長! まずい、死に掛けてます!」
「何?!」
直に電撃縛を解除する学園長。
3人は巧に近寄ると、その体はもうズタボロだった。呼吸も弱弱しく今にも死にそうだ。
「学園長、早くヒールを」
「分かった」
学園長は、素早くハイヒールと唱えた。急速に回復していく巧の体。そして、体が完全に回復すると巧の呼吸も安定してきた。
「良かった。助かりそうだ」
「何でこんな事を?」
キッと睨むリオ。
申し訳なさそうに頭をかく2人。
「これは、勇者たる人物かを試したと言うか……」
と学園長は言った。
「そうなんだ。勇者なら簡単に回避できると思ってだな……」
シュミットも申し訳なさそうに言った。
2人の説明はこうだ。
リオ達3人から話しを聞いた2人は、巧が勇者だと推測した。今まで勇者とバレなかったのは、その力を巧妙に隠しているからだと2人は考えた。そこで、力を開放しないといけない状態にすれば、勇者の正体を暴けると思ったとのことだった。2人は、校庭に魔術結界を施し、万が一勇者が暴走しても校舎に被害が及ばないようにして、今日に臨んだのだった。
「だが、こやつは全く力を出さなかった。勇者ではないのか?」
と学園長とシュミットは不思議がっていた。
「そんなことより、早くタクミをベッドへ!」
リオが2人をせかした。
「わ、分かった」
2人は巧をレビテイトの魔法で宙に浮かせ学園長室の隣にある貴賓室に運んだ。リオは巧に付き添い、貴賓室に一緒に行った。
巧が目を覚ましたのは、次の日の早朝だった。
「あれ? ここは?」
と巧は目を覚ました。リオは、椅子に座り巧のベッドに顔を伏せながら眠っていた。
巧は、リオを起こさないよう静かにベッドを抜け出した。そういえば、学園に来て何かに捕まって気絶したことを思い出した。だが、体にその影響は見られない。ふと、服に違和感を感じて見てみると、服がボロボロだった。
「げっ! あれは本当の事だったのか。だけど、体は何もない」
不思議な現象に巧はハテナマークを浮かべた。
そして巧は、ボロボロの服の代わりになるものが無いかテラを起動させた。すると、突然部屋の扉をノックする音がした。
ビクッとした巧は、すぐさまテラを仕舞い、扉を開けた。扉の向こうから出てきたのが巧であったことを見た学園長は
「むっ。回復ようだな。良かった」
と言い安堵したようだ。
それから、学園長は巧が気絶した後の事を説明し、自分達がやった事を謝罪した。そして、その理由を説明し始めた。
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その頃、リオは夢を見ていた。
昨日シュミットに呼び出された時の夢だ。
相談室に入り、シュミットがサイレントの魔法を掛けた。
そして、
「さて、君らを呼び出した理由だが。その服をどこで手に入れたかを教えてもらいたいのだ」
とシュミットは言った。
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
とミルトが警戒しながら聞いていた。
すると、シュミットは
「君らはその服装をどう思った?」
と突然意味不明な事を言った。
意味が分からず首を傾げる3人。
それを見たシュミットは
「分からないなら言い方を変えよう。その服、この国で似通っている物を見たことはあるか?」
と聞いたのだ。
その言葉に驚く3人。
「た、確かに、見たことがありません」
とミルトが言った。
そういえば、巧の出す品物はどれも見たことが無いとリオは思った。それは、単に自分が知らないだけかと思っていたが、どうやら違うようだ。
そして、シュミットは衝撃的な事を言った。
「その服装は、540年ほど前に勇者と共に戦った聖女の服装と同じ物なのだ」
それを聞いた3人は目を丸くした。
「それじゃあ、まさか……」
とリオが驚きに目を丸くしたまま言った。
「決まったわけではないが、この世界とは別に存在する聖女と同じ世界から来た可能性が高いだろう」
それからリオ達3人は、この服をリオと同居している巧と言う人物に出してもらったと説明した。そして、巧の人物像を大まかに話したのだった。それを聞いたシュミットから、巧に学園に来てもらうよう説得してもらえないかと頼まれた。それは、この国の為、ひいてはこの世界の為だとシュミットは強調した。そして、聖女と巧が同じ所から来たということはバラさないようにと言われた。
そこでリオは目が覚めた。
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巧は、学園長から勇者だと思われていたことに驚いた。
「でも、どうして俺を勇者だと思ったのですか?」
と巧は学園長に聞いた。
「リオ君の着ている服を提供したのが君だからだ。あの服は540年前に勇者と共に戦った聖女の物と似通っている。その上、この世界の技術では作れない服なのだよ。であれば君が異世界人だと考えるしかないだろう?」
と学園長が言った。
「まさか、勇者や聖女は異世界人だったのですか?」
「そういうことだ」
「……」
巧は学園長の話を聞いて思った。
前の世界で見た夢は、この世界の救援信号だったのではなかろうか。
それは、魔王が復活しこの世界に脅威が迫ろうとしているからだ。
その救援に呼応した人が、この世界に転移させられたのではと巧は考えた。
だが、何故自分は540年後に転移したのだろうか。
「だが、君を勇者だと判断したのは些か性急過ぎたようだ。リオ君の服を見たが魔力が感じられなかった。聖女の服はそれはもう途轍もなく強力な魔力が備わっていたよ。それはまるで神衣のようだった。それに、聖女の服には魔法防御、物理防御、異常抵抗などあらゆる防御付与術が掛けられていた。もう少しちゃんと確認すればすぐに分かっただろうにな」
と学園長は、申し訳なさそうに言った。
「学園長、服に魔力が備わることなんてあるんですか? それに魔法物質しか付与術は掛けられないのでは?」
と起きて来ていたリオが学園長に質問した。
「リオ君、起きていたのか。君の質問だが、魔法銀、魔法鉄などの魔法物質しか付与術は掛けられないというのは正しい。しかし、例外があるのだ。例えば、100年以上強力な魔力に曝されて生きてきた木だ。これは魔法物質に含まれていないが付与術が掛けられる。だから、私はこう考えている。魔法物質は魔力を内包しやすい性質を持つ物質なだけではないのかと。そして、内包しにくい物質も何らかの方法で魔力を内包させることができれば、付与術が掛けられるのではとな」
学園長の説を聞いたリオは、なるほどと考え込んでいた。
巧は、学園長の説明があまり良く分からなかったが、
「つまり、付与術は魔力を内包している物質なら可能ということですか?」
と聞いた。
すると学園長はその通りと頷いた。
その後、学園長が巧の体を調べ、問題なしと診断した。そして、何かあればここに来るが良いと言ってくれた。勇者ではなさそうだが、異世界人ということで重大な責務を持っているのではないかと思ったのだろう。また、巧の正体は他言無用と念を押された。リオに友達2人にも巧の正体と勇者達が異世界人だということをバラさないよう話しておいてくれと念を押していた。




