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26話 マジェスタ魔法学園

――ガラル歴533年9月


今日は、リオが学園に通い始める日だ。


「行ってきます」

とリオが軽い足取りで学園に向かっていった。

巧は、行ってらっしゃいと手を振って見送った。


リオは、学園に到着すると早速付与術の教室に向かった。

付与術の教室では既に席が埋まっており、ざわざわとお喋りの声があちらこちらから聞こえる。

辺りを見回すと、受験の時と結果発表の時に話しをしたミルトが教室の一番後ろに居るのが見えた。

リオは、ミルトの所に行き隣に座った。


「おはよう」

とリオはミルトに声を掛けた。


「リオちゃん、おはよう」

ミルトはリオに挨拶を返した。


「おはよう」

とミルトの向こう隣にいる見覚えのある女の子が言った。

その子の名前はリリーと言った。


ミルトは、リオと同じくらいの背丈だが胸が大きく、顔は狸系の可愛らしい容姿をしており、ちょっとおっとりした性格の持ち主だ。

リリーは、外見はロリであるが、冷静沈着で毒舌気味の性格をしている。


「リリーね、覚えたわ」

とリオがにこやかな笑顔を浮かべた。


「それにしても、あの男の子は居ないのね。試験に落ちたのかな?」

リオが周りを見渡して言った。


リオ達3人が簡単な自己紹介を終わらせた所で男の先生が教室に入ってきた。

そして、教壇に立ちこちらを向いて言った。


「私は、このクラスを担当するシュミットと言う者だ、よろしく頼む」

と背が高くシルバーブロンドの長髪に黒いズボン、白いシャツ、黒いマントを着た男が自己紹介をした。


「諸君、入学おめでとう。

このマジェスタ魔法学園の一員になれたことを誇りに思うがいい。

君らは、この国で一番優秀な付与術師の卵と認められたのだからね」


その言葉に感化されのか、前方に居る貴族の子女達がハイと答えていた。


「それでは、自己紹介をしてもらおう」

とシュミットが言った。


「お待ち下さい」

と一番前に居る真っ赤なドレスを着たきつめの顔をした女の子が言った。


「君は、ロリス侯爵家の……」


「ミネルバですわ」


「ミネルバ嬢、何かな?」


「はい。この教室の後ろに居る者達のことですわ。

あんな汚らしい恰好で教室に来るなんて、あり得ませんわ。

一緒にいたらこのドレスが汚れてしまいます。

シュミット先生、この者達を何とかして下さいません事?」

と突然言い出した。


シュミットはリオ達の方を一瞥すると

「ふむ。確かに汚らしいな……。

君たち、その汚らしさを何とかするまで、この授業の出席を禁止する。

授業を受けたければ、綺麗にしてくるように」


とリオ達は突然無理難題を言い渡されてしまった。

困惑する3人。

そこへ、ミネルバが

「早く出て行きなさい!」

と鋭い声を出した。


それに怒りを覚えたリオが席を立って抗議しようとした所、ミルトがその肩を抑えて行こうと言って教室を出て行った。

リオは怒りを抑え、黙ってミルトを追いかけた。

3人が教室から出ていくと、教室からはギャハハという笑い声が発せられた。


3人は教室から出て行き、南門までやってきた。


「どうしよう?」

とミルトが言った。


「だから、あそこで抗議するべきだったのよ!」

とリオがイキリながら言った。


「ダメだよ。貴族に逆らったら碌なことにならないよ」

ミルトは、侯爵令嬢なんかと対立したら碌な事にならない事を知っていた。

そのため、リオを抑えて教室を出てきたのだ。


「だからって授業が受けれなくなったら、ここに来た意味がないよ」

とリオが言った。


「綺麗になれば良い」

とボソッとリリーが言った。

リオとミルトがリリーを見た。


「でもどうやって?」

とリオが言った。


するとリリーが冷静に

「リオのその服、受験の時と同じ。そして、その服だけど汚い」


リオはリリーの指摘にドキリとした。

そして、この服以外には服を持っていないことを白状した。

ただし、下着は替えがあることを聞かれてもいないのに話していた。


そこで3人はお互いの服を観察してみた。


「う~ん、良く分からないな」

とリオ。


「リオの服もリリーの服も汚いのかなぁ。それに新しいのなんて買える? 私は無理だよ」

とミルト。


「リオもミルトも私も平民のレベルなら普通。でも貴族レベルなら汚らしいと思う。

でも、貴族にも認められるほどの服を買うとなると調達に時間が掛かるしお金も掛かる」

とリリーが言った。


リリーは、両親が開拓村の村長であった。

だがその村は裕福ではなく、ここの滞在費用も村で集めたお金で賄っていた。

そのため、お金は最低限しか持ち合わせていなかったのだ。


「「リオは?」」

とリリーとミルトは期待を込めて言った。


「私だってムリだよ」

リオは言った。


「「「どうしよう」」」


3人は悩みながら歩いていく。

3人が無言で歩いていくと、いつの間にか巧の店の前に来ていた。


「ここ、私の家なんだ」

とリオが言った。


「リオちゃんの家って商家だったんだ」

とミルトが言った。


「ちょっと違って知り合いがやっている店なの」

とリオが言った。


リオが店の扉を開けて中に入ると巧が驚いた顔をした。


「リオ、もう学校が終ったのか? まだ行って間もないぞ?」


「ちょっとあってね、友達を入れても良い?」

リオが浮かない顔をしながら言った。


「ああ、どうぞ」

と巧はどうしたんだろうと思いながら答えた。


リリーとミルトが巧の店の中に入る。

巧は、3人を店の奥の工房兼居間に案内した。

何かあるなと思った巧は、一旦店をCloseにして3人の話を聞くことにした。

3人を4人掛けのテーブルに座らせて、巧はお茶の準備をする。

巧は、”テラ”でティーバックの紅茶と茶請け菓子を出した。

そして、カップ4つに紅茶を淹れてお菓子と共に出す。


3人は出てきた紅茶の香りにウットリすると一口飲んだ。

「「「美味しい~」」」


それで緊張が取れたのか、3人はどうしようかという話をし始めた。

ふと、リリーが思いついたかのように巧に顔を向けて質問した。

「この店の商品は布製が多い、もしかして服もある?」


巧は、何のことか分からなかったが、

「服が欲しいのか?」

と聞いてみた。


3人は大きく頷いて巧の質問を肯定した。

そして、3人は今日の出来事をポツポツと話し始めた。


「服なら、用意できるぞ」

と巧が言った。


「本当?!」

リオが椅子から立ち上がった。


「ああ、だが、どんなのが良いんだ?」

と巧は聞いてみた。


「う~ん。どんなのが良いんだろう?」

とリオは分かっていないようだった。


するとミルトが

「フォーマルでも使えて、でもドレスほど堅苦しくないのが良いんですけど……」

と言った。


巧は、ふと閃いた。

「それなら、丁度良いのがある」

と言って、テラからブレザーの制服一式と靴下を購入し出した。


突然何もない空間から服が出てきたことに驚くリリーとミルト。


「これが?」

とミルトが言った。


「ああ、俺の故郷では、こういうのが学生用の服なんだ。そして、フォーマルな場所でも使える」

と巧が言った。


リオが制服を広げてみると、全員が全員可愛いと絶賛した。


「着てみて良い?」

とリオが言った。


「ああ、どうぞ。サイズが違っていたら言ってくれ。ああ、因みにズボンとチュニックは脱いで着るんだぞ」

と巧は一言添え、後ろを向いた。


初めて着るブレザー制服に四苦八苦しながらも友人2人の協力を得てリオは着衣を終わらせた。

そして、

「どう?」

と3人に意見を求めた。


「「かわいい」」

とリリーとミルトは目を輝かせて言った。


巧は逸らしていた顔をリオに向けた。

そこには、ひざ上ミニスカート、白いシャツにリボン、ブレザーと前の世界で良く見かける格好に身を包んだリオが居た。

スラっとした細い足、健康的な肌に整った顔立ち、それを引き立てる制服、それを見て巧は思わず

「可愛い……」

と言ってしまった。


それを聞いたリオは、顔を綻ばせた。

「これ可愛いね」

リオは体を勢い良く回転させ1周回ってみせた。


その時、スカートがめくり上がり、チラリと下着が見えた。

その下着に巧はカッと目を見開いた。

だが、それは断じてエロかったからではない。


初めてこの世界の女の子の下着を見た巧は、思った。

フンドシみたいだなと。

この世界ではまだゴムが開発されていない、そのため下着は、布を腰と股間に巻いて固定する類の物であった。

それがあたかもフンドシのように見えたのだ。

カオン時代、リオと同じ部屋で暮らしてはいたが、巧は一度たりともリオの下着姿を見たことは無かった。

体を拭く時など、それ専用の部屋があったので下着を見る機会はなかったのだ。


何はともあれ、その下着姿に大層落胆した巧は、リオに下着もあるけど見る? と思わず提案してしまった。

決してエロが目的なのではない! 令和のJKをこの世界に再現するという崇高なる目的のためなのだ!

そう自分に言い聞かせた巧は、ドキドキしながらリオの返事を待った。

その答えは、見たいだった。


心の中でガッツポーズをする巧。

その横でジト目をしているリリーとミルトに気が付いたが、そこを敢えて気が付かない振りをした。

リオが見たいと言ったのは、あまり下着を持っていないからという単純な理由だった。


さあ、下着姿を見せてくれと期待に心をときめかせていた巧だが、残念ながらリオを含め女の子達の下着姿を見ることは叶わなかった。

幾つかの下着セットとミルト、リリー用の制服を出した巧は、もう用済みとばかりに部屋から放りだされてしまったのだ。

キャッキャッと楽しそうに下着を吟味する3人の女の子達。

楽しそうにしている女の子達の声を部屋の外で聞くだけの巧。

それは、天国への門を目の前にしながら門前払いを食らったような気分だった。


しかし、直ぐに楽園の扉が開いた。

巧は顔を上げた。

天国からの使者が迎えに来たのだと巧は思った。


「「「もっと色んなのあるんでしょ? 出して!」」」

だが、その使者の言葉は残酷だった。

要望通り色んな下着を出した巧だが、その貢献度とは裏腹に天国へは招待されなかったのだ。


それからというもの、天国の住人達は、サイズ違いやら色違いやらの要望を出しては天国に舞い戻って行く。

その選定は長時間に及び、要望に応える巧はただの倉庫代わりであった。


「か、悲しい」


漸く下着の選定を終えた3人は、制服姿で部屋から出てきた。


それぞれが、自分に合った制服の着こなし方をしている。

天国には招待されなかったが、3人の制服姿に満足する巧であった。


「3人とも可愛い」

巧は本心からそう言って3人を褒めた。

それから、巧は費用の件を持ち出した。

すっかり服と下着に夢中だった3人は、その値段を聞いて青ざめた。


3人ともお金が無いとのことだったので、巧は、

「出世払いで良いさ」

と言った。

巧の懐も潤沢とは言えなかったが、冒険者達が買っていったリュックの売り上げで少し潤っていた。

だから、3人の支払いを待つことができたのだ。


安堵する3人。

こうして、3人は新しい服をゲットすることができたのだった。


そして、次の日を迎える。




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