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25話 店

巧は、ここ数日間の狩りで程々の魔石がゲットできたため、今日は店番をすることにした。


――昼前頃


巧が店番をしていると、外で中を伺う人影が居ることに気付いた。

巧は、その怪しい人影を見てやろうと店の外に出た。

すると、その人影はランドだった。


「あれ? ランド?」

巧が言うと


「あっ、やっぱりここがタクミさんの店だったんですね!」

とランドが言った。


ランドに話しを聞くと、数日前この店に来たとのことだ。

だが、外からはオシャレな店である上に、女の子しか居ないことから間違ったのかと思って帰ったそうだ。

今日改めて訪問したが店に入る勇気が出ず、ウロウロしている所に巧が出てきたとのことだった。


巧は、ランドの言葉から、この店の問題点に気付かされた。

もしかしたら、この店の前店舗が潰れたのはそのせいかもしれないと考えたのだ。

ひとまず、この店のことは後で考えるとして、ランドを店の中に招待した。


「うわっ! こんなの初めて見ました!」

ランドがワクワクを隠し切れず言葉を発した。


店の棚には、所狭しと並べられたキャンピンググッズの数々があった。


「これは何ですか?」

とランドが指差した。


「それは、着火剤だね」


「着火剤?」


巧は、簡単に着火剤の説明をした。


「こんな物があるんですね~。これは?」

巧は、ランドの質問を1つ1つ丁寧に答えていく。


ランドが幾つか質問を終えると

「巧さんの店は、不思議ですね。僕も半年パオリに居ますが、こんな品は見たことがありませんよ」

と言った。


「ありがとう。これらは故郷の品なんだ。所で背負い袋を見てみるかい?」

巧はそう言うとリュックコーナーへランドを案内した。


「これが、背負い袋だ」


「色々ありますね。安い物から高い物まで」


「高い物は肩とか背中の部分に負担が掛からないように出来ていたり、背中の通気など色々考えられている。

それに長く使えるように耐久性も高められているんだ」


「ふむ、でも流石に銀貨9枚は厳しいです」


「なら、稼げるようになるまではこちらの安いやつかな。耐久性や機能性は劣るが、それなりに良い物だよ」

と巧は、安めの品を勧めた。


「銀貨3枚ですか……。これなら何とか買えそうです。因みにこの背負い袋の横に付いている袋はなんでしょう?」

ランドは、背負い袋本体の横に付いている網目のポケットを指さした。


「ああ、これは雨具とか水筒とかを入れる袋だよ」


「雨具ってなんでしょう? それにこんな袋では水筒なんて入りませんよ?」

とランドが言う。


巧は、店の奥に入り、奥から取ってきたと見せかけ”テラ”で購入したビニールレインコートとステンレス製の水筒をランドに見せた。


「これは?」

と不思議な顔をするランドに巧は1つ1つの製品の説明をした。


「これが雨具? このスベスベした物がですか?」

そう、レインコートの発明は、巧の世界でも19世紀である。

この世界でも、まだこんなのは存在しないだろう。

リオにも以前聞いたが、一般人は雨に濡れたまま移動するのが普通とのことだった。

巧は、レインコートを広げて自分で着て見せた。


「こうやって着て、雨を防ぐんだ。雨に濡れなければ体が冷えないし、風邪もひかない」


「雨に濡れると風邪を引くって本当ですか?」


「本当だ。風邪を引きやすくなるんだ。それに濡れると気持ち悪いし、防具の劣化も早くなる」


「このレインコートのお値段は幾らです?」


「銅貨30枚だ」


「う~ん」

ランドはどうやら巧の言うことに半信半疑のようだ。

雨に濡れるのが普通という世界である、それも仕方がないことかもしれない。


「なら、この水筒はどうだ?」

そう巧は言うと、ステンレス製の魔法瓶型水筒を取り出した。

この水筒は、蓋がネジ式でカップになるタイプの水筒だ。


「それが水筒ですか? 見た所、鉄のような……。でも鉄だと重い上に錆びるので持ち運びに適していないと思いますよ?」

ランドは、金属製の水筒を見て不思議そうな顔をした。


持ってみれば分かると巧に言われて、ランドは水筒を持ってみた。


「軽い!」

ランドは驚いた。

金属製の水筒がこれ程軽いとは思っても居なかったのだ。


「それにこれは保温機能付きだ。それに落としても壊れないし錆びにくいんだ」

と巧が言うとランドは


「えっ?!」

と絶句していた。


「まあ、魔法で水を出せればあまり意味のない道具だが」

と巧は、現代の技術が詰まった道具の数々も、この世界では覇権を取れないだろうと思っていた。


「それでも、この水筒は凄いですよ!」

とランドは興奮気味だった。

そして、ランドに値段を聞かれたので、銅貨30枚と言った。


「この機能で銅貨30枚!?」

ランドは驚愕していた。

ランドが持っている水筒は動物の胃袋を洗って縫っただけの簡易的な水筒である。

そのお値段銅貨10枚。

保温機能も殆どない、安いだけが取り柄の水筒である。


巧は、保温機能を実験するため沸かしたお湯を水筒に入れ30分ほど待つことにした。

その時間を利用して、リュックサックの説明を行う。


ランドが最終的に選んだのは、アウトドア用リュックサックだ。

本体の左右に脱着可能な拡張パックがあるタイプである。

お値段銀貨3枚。

巧は、左右の拡張パックを脱着させた。


「こうやって、用途に応じて脱着が可能だ。それに下部にあるパックは防水となっていて濡れた物をいれても外に影響を及ぼさない」


ふむふむと覗き込みながら説明を受けるランド。


「それに、何と言ってもこの背負い袋の最大の利点は、両腕がフリーになることと、

背負い袋が体にしっかり固定されて動いても邪魔にならないことだ。

だから、魔物が現れても荷物を背負ったまま戦える」


その宣伝文句が効いたのか、ランドは目が輝いていた。


「買います!」


「毎度あり!」


そして、リュックサックの商談が終わった所で、水筒の効果を見ることにした。

水筒の中のお湯をカップに注ぐ、するとまだ熱いことを証明するように湯気がモワモワと沸き上がった。


「本当だ! まだ熱い!」


「冷たいのも同じく保温される。だが、本当に冷たいのを望むなら氷を入れた方が良いけどな」


しかし、ランドは水筒も購入したいが、リュックを購入するお金で手一杯とのことだった。

それならと、巧はリュックと水筒を知り合いの冒険者達に宣伝してくれるという条件を付けて、タダでサービスしてあげた。


「タクミさん、ありがとうございます」


「こちらこそ」


巧は手を振ってランドを見送った。

パオリに来て初めて売れた商品はリュックサックであった。


その後、ランドに言われたことを参考に店をアップデートすることにした。

店の前にキャッチコピーを書いた看板、それにリュックや水筒などを木製の人形に取り付けて展示することにしたのだ。

何を売っている店かを分からせるためである。


「でも、こうして実際にやってみるとオシャレだった外観が途端にむさ苦しくなるな」

と巧。


「そうだね……。なんか残念な感じになるね」

とリオ。


展示を行う前は、ブティックのようなオシャレ感満載な雰囲気の店だったが、展示した後はむさ苦しい感じになったのだ。


「だが、何の店か分からないと入ってくれても買ってくれない。だからこれで良いはずだ」

と巧は不安を感じながらもそう断言した。


それから数日が経過した。


すると、冒険者と思わしき人がちらほら来店するようになった。


「これだ。欲しいが銀貨3枚かぁ」

どうやら冒険者達の目当てはリュックのようだ。

だが、銀貨3枚という袋としては高額な品に躊躇している。


巧は、一計を案じた。

「お客さん、それが欲しいのかい?」

と巧は、リュックを欲しがっている冒険者に声を掛けた。


「ああ、そうだ」

その冒険者は、そのことを素直に認めた。


「お金はどれくらい出せるんだ?」

と巧は、冒険者の懐事情を聴いてみた。


「今は銀貨1枚が限度だな」


「なら残りの銀貨2枚分は、魔石でも良い。魔石(小)1つを銅貨20枚として換算しよう」


「なんだって? 魔石換金所の2倍じゃね~か。それなら銀貨1枚と魔石(小)10個渡せばこれを売ってくれるのか?」


巧が黙って頷くと、その冒険者は懐から魔石を10個取り出した。

そして、銀貨1枚と魔石10個を巧に手渡した。

巧はそれを受け取ると、ランドにしたようにリュックの機能やカスタマイズのしかたを教えて、リュックを手渡した。


「おお~、スゲーカッコイイ。ありがとよ」

と冒険者は満面の笑みで店を出て行った。


「毎度あり~」

巧は、ホクホク顔でその冒険者を見送った。


巧は、冒険者が魔石を売らずに持っていることがあることに気付いた。

そのため、巧は店の商品を魔石でも購入可能にすることに決めた。


すると、魔石換金所よりもレートが良いこともあり商品が売れるようになってきた。



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