24話 開店
――ガラル歴533年8月某日
巧は、引っ越しや店の準備を終わらせて店をオープンした。
売る物は、キャンピンググッズだ。
この世界は冒険者が多い、それは魔物の脅威が数多く存在するからだ。
冒険者という職業が多いのであれば、そこを商売の主戦場にするのが最も効率が良いと巧は思ったのだ。
実際に、武器屋、防具屋、魔道具屋、薬剤店など冒険に必要な道具の店が、パオリには数多くある。
巧の店も冒険者御用達である工房街の北に位置する。
それならば、冒険者が必要とする道具を売れば良いと考えたのだ。
工房街で武器などを見た後、ついでに店に寄ってもらえればという打算もあった。
巧は、棚にテント、折り畳み椅子、寝袋、リュック、ランタン、クッキングツール、着火剤、着火器、水筒、固形スープの素を並べていた。
店の外には本日Openという看板を設置した。
リオも看板娘として働いてくれるそうだ。
しかし、店をOpenしたは良いが、知られていないため当然客が来ない。
午前中は0人だった。
所が午後2時過ぎに1人やってきた。
巧とリオは期待を込めて
「「いらっしゃいませ」」
と言った。
だが、そのお客はあれ? ここは魔道具店だったはずと閉店した前店舗が目的だったようで、早々にお帰りになった。
結局その日は、その1人だけだった。
それが1週間ほど続いた。
巧は、この店をオープンさせるために、結構な額のポイントを使ったので、もうあまり残っていない。
そのため、今日は店をリオに任せ、パオリの外に行って魔石狩りをしようと思った。
巧は、皮鎧と剣、背負いのリュックに食事と水を準備し出発した。
まずはカオンの時と同じように冒険者ギルドで、お勧めの場所を教えてもらおうと思いギルドへ向かった。
狩りを手伝ってもらえるかもという下心があったことも否定はしない。
巧が親切な人に教えてもらった道を行くと、冒険者ギルドの大きな建物が見えた。
パオリの冒険者ギルドは、流石王都だけのことはあった。
その建物は、石造りの6階建てという大きな物であった。
1階は、ホテルのロビーのように吹き抜けで、受付は高級ホテルのような豪華なカウンターとなっていた。
巧は、少し気おくれしながらも空いているカウンターの前に行き、冒険者証を出して要件を言った。
「この街の外で1人で狩れるお勧めの狩場を教えてもらえませんか?」
と巧は聞いた。
すると受付の女性は、1人で行くのですか?と驚いていた。
そして、冒険者ランクFの方ですと、1人では危ないので複数人と行くのが普通ですと注意されてしまった。
ゴブリン1匹なら沢山狩っていると言っても、信用してくれない。
その受付の女性は、巧がまだFランクで討伐証明の部位すら出した履歴がないことを冒険者証で知ったようだ。
そのため、巧が嘘を言っていると考えたのだ。
「丁度、あちらにFランクのPTがあります。あそこに入れてもらって下さい」
と受付の女性に連れられFランクPTに入れられてしまった。
まあ、しょうがないかと巧は諦め、このPTと一緒に行くことにした。
自己紹介をする巧。
そのPTは、ライトニングアローという3人PTだった。
リーダーは戦士のランド、狩人のシンディ、剣士のガリーという構成だ。
3人共まだ15歳、覚醒の儀でスキルを得て半年のニュービーだった。
巧は、一通り報酬の分配条件を確認し、
「どこへ行く?」
と聞いた。
「はい、パオリの東南に森があります。そこで、ゴブリンと薬草を探します」
とランドは言った。
「分かった」
と巧はライトニングアローの後に続くことにした。
4人で色々話していくうちに東門が見えてきた。
ランド、シンディ、ガリーは同じ地域の幼馴染とのことだった。
巧の素性も聞かれたが、本当のことを言う訳にはいかないため、ヤマトから出てきたとだけ言った。
巧のあまりに素っ気ない回答から、何か事情があるのではと思ったのか、3人からはそれ以上の追及は無かった。
東門を出て暫く進むと森が見えてきた。
森に入る前に、巧は戦い方の打ち合わせをした。
3人は既に顔見知りなので、フォーメーションが出来上がっているだろうが、巧は今日が始めてだ。
打ち合わせの結果、3人は普段通りの戦いを行ってもらい、そのサポートを巧が行うこととなった。
森に入って暫くすると、2匹のゴブリンが居るのをシンディが発見した。
「それじゃ、行くぞ」
とランドが言った。
3人がゴブリンに見つからないように、隠れながら移動する。
残り5mほどになった所で、3人は隠れている木から一斉に飛び出した。
「ギギィィ?!」
2匹のゴブリンは突然現れた3人に驚いた。
そこで、前衛の2人は剣を抜くと、さらに加速した。
巧は、その動きに見覚えがあった。
「身体強化!」
2人はあっという間にゴブリンに近づき、剣で切り伏せる。
ゴブリンは驚いた顔のまま、倒れた。
その時、シンディがこちらを向いて「後ろ!」という警告を発した。
3人の戦いに夢中になっていた巧は、ハッと後ろを見た。
すると、ゴブリンがこん棒を振りかぶっている所が見えた。
巧は、振り下ろされるこん棒を寸前の所で躱し、剣を抜きざまにゴブリンを横薙ぎに切り伏せた。
固唾を飲んで見守っていたライトニングアローの3人は、安心したようフーと息を吐いた。
3人が近寄ってきて、
「強いですね。安心しました」
とランドが言った。
「君らも、とてもFランクとは思えない強さだ」
と巧は言った。
「身体強化がありますから」
とガリーが言った。
巧が、3人共? と聞くと、全員が頷いた。
それなら納得と言うと、彼らは笑った。
それから暫くすると、薬草を見つけたという声がした。
ガリーだ。
巧もガリーの所に行くと、ガリーが草の周りを掘っているのが見えた。
巧は、始めて見る薬草を良く観察した。
その草は少し輝きを発しているように見えた。
「その草が、薬草?」
と巧は聞いた。
「いえ、何と言いますか。薬草は少し魔力を帯びている草で、決まった形は無いんです」
とランドが言った。
「それじゃあ、魔力草では?」
と巧が聞くと、
「魔力草は、もっと魔力の含有量が多いのを言います。そのため薬草よりも強く光ってます」
ランド達の説明はこうだ。
毒草以外の魔力の含有量の多い物を魔力草、少ない物を薬草と言っているらしい。
その理由だが、回復ポーションは、魔力含有量が少ない草でもそれなりの効果を出せる。
そのため、少しでも魔力が含まれている草を薬草と言って、回復ポーションに使う用として取引されている。
魔力ポーションは、魔力含有量が多い程効果を期待できるので、魔力含有量の多い草が要求される。
そのため、魔力が多い物を魔力草と言って、魔力ポーション用として取引されているそうだ。
当然報酬も魔力草の方が良い。
因みに、ハイポーション系は魔力草よりも桁違いに魔力の含有量の多い草が必要らしい。
たまにしか見つからないため、ハイポーション系は高額とのことだった。
それにしても、ガリーが良く見つける。
それこそ、どこにあるのか分かるように。
なんか、全然役に立ってないなと巧は言い、せめて荷物持ちをしようと草をかき集め背中のリュックに入れ始めた。
すると、ランドが
「そのバッグ、便利そうですね。どこで見つけたんですか?」
と聞いてきた。
そういえばと、改めてランドの恰好を見ると皮鎧に水筒と思われる皮袋と食事を入れる用の布の袋を肩から下げているだけだった。
そのランドの問に自分の店で売っている品だと言うと、ランドは驚いていた。
「鞄店の方だったのですね」
とランドが言ったが、雑貨屋だけどねと訂正しておいた。
「欲しいなら、店に来てくれれば売るよ」
と巧は宣伝しておき、店の場所を教えた。
そろそろ日が傾き始めたので、これでお開きにすることにした。
本日の成果は、ゴブリン10匹と薬草18個だった。
ギルドに戻り討伐と薬草のクエスト結果を報告した。
その総額(魔石を含めた)だが、銅貨換算で250枚ほどとなった。
これを均等に分配ということだが、巧は魔石が目的で金は要らないと要望し、魔石6個をもらうことにした。
この数日間、巧は色々なPTに入っては魔石を稼いでいた。
どうやら背負いのリュックが思いの外冒険者達に刺さるようで、何度もどこで買えるか聞かれた。
その都度、少しでもお店に来てくれることを願って、工房街の北にある自分の店で売っていると言っておいた。




