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21話 パオリへの道中

――それから数日が経過し、パオリまで残り数時間のとある場所


寄合馬車は順調に行程を消化していった。

だが、森に入る手前で事は起こった。


「前が騒がしいな。馬車隊は止まれ! 何があった?」

と隊長が言った。


先行の4人が馬車に戻ってきて言った。

「隊長! 魔物の群れです!」


「なんだと! そんな情報なかったぞ!」


すると森から魔物の大群が押し寄せてきた。


「不味い! 応戦しろ! ゴールデンベアとシルバーウルフにも出撃を要請するんだ!」


すると騎馬の護衛の1人が各馬車を回って状況を簡単に説明した。

そして戦える者は、前に出て応戦するようにと指示を出した。

戦えない者は、真ん中の馬車に集まれとの指示だ。

巧達が乗っている馬車にも護衛が来て、魔物と戦うようにと依頼してきた。


「分かった」

と一言フィートが言うとシルバーウルフの面々は馬車から出撃した。


巧が外を見ると馬車隊の前方でゴールデンベアと思われるPTがすでに戦っていた。

シルバーウルフもゴールデンベアと共闘すべく前方に向かっていく。

巧とリオは、一番前にいる馬車へと向かった。


巧とリオが一番前の馬車に行ったのは、前方を抜けてくる魔物への対処をするためだ。

巧は、カオンを出る前に自分の攻撃能力を補完するため10mmオートの拳銃コルトを購入しておいた。

野生動物を倒すことのできる銃でなければ、魔物を倒すことはできないと判断して強力でかつ携帯しやすい銃を選択した。

リオは、魔術師ギルドで購入した短めのワンドを手に持った。

このワンドは魔術を強化してくれる品だ。

安くて使いやすいことから購入したが、それほど強い効果はない。


前方を見ると、4本足の魔物がワラワラと出てきている。

ボアやベア、ウルフ系の魔物だ。

ゴールデンベア達はそれらを軽々と蹴散らしていく。

シルバーウルフもそれに参戦していった。


だが、徐々に魔物の駆逐が遅くなっていく。

それは、後ろから来る魔物が徐々に強力になっていっているからであった。


「くそっ。ヒュージベアが2匹来るぞ」

ゴールデンベアの面々は疲労が見え始めていた。


シルバーウルフも応戦しているが、全てを処理しきれない。

「不味い。1匹突破された」

フィートが焦りながら言った。


グラスウルフがB級PTと護衛らの脇をくぐり抜けて馬車へと迫る。


すると

パン、パン

と破裂音がしてグラスウルフが地面に倒れた。


「ふ~。意外にキツイなこの銃」

巧は銃の反動に文句を言った。

だが、体を鍛えてきたこともあり、なんとか耐えられそうだった。


「タクミ、魔術なんていつの間にできるようになったの?」

とリオが聞いてきた。


「これは魔術じゃないんだけどね」


「魔術じゃないの?」

とリオが追加で質問しようとした。

だが、B級PTの隙間を抜けてきた魔物がこちらに走って来る。


「それよりも、敵が来たぞ」


それから、巧とリオは前方にあるB級PTの防壁をすり抜けてくる敵を倒し続けた。

前を見るとすっかり雑魚は居なくなって、1匹の巨大な赤い熊が居るだけだった。


「レッドベア。赤い死神をこんな所で見るとはな」

ゴールデンベアのリーダー、ゴッテスが言った。

その脅威をよく理解しているのか絶望感を漂わせていた。


ヒュージベアもその強靭な毛皮であらゆる攻撃を跳ね返していたが、レッドベアは更にその上を行く。

「全然効いてねぇ」

B級PTのゴールデンベアがいくら攻撃しても、レッドベアに傷すら負わせることができない。

それは、シルバーウルフも同じだ。


レッドベアの脅威度はBである。

小さな町ならば壊滅させることのできる正真正銘の怪物なのだ。


だが、そのレッドベアもうまく連携を取るB級PT達を捕まえることができずにいる。

どちらも決定打に欠けているため膠着状態となっていた。

ゴールデンベアとシルバーウルフは交互に戦い、休みを入れながら戦う戦法に切り替えるようだ。


するとレッドベアが突然馬車の方に動き出した。


すばしっこいB級PTを捕まえることを諦め、動かない物へ狙いを変えたのだ。

「不味い! レッドベアから離れろ!」


すると騎馬に乗った1人の護衛が向かってくるレッドベアから馬車を守ろうと、戦いを挑んだ。

だが、その渾身の一撃を全く意に介せず体で受け止めたレッドベアは、その巨大な右腕をその護衛に振り下ろした。

グシャッ

という音がしてその護衛の上半身は吹き飛んだ。


「レッドベアを止めるぞ!」

フィートがシルバーウルフ全員に声を掛けた。


しかし、どれだけ攻撃してもレッドベアは歩みを止めない。


レッドベアが巧達の居る馬車に近寄っていくにつれ、その魔物がどれほど巨大かが明らかになった。

ヒュージベアも巨大だったが、赤い熊はそれを上回る大きさだ。

立ち上がるとその身長は6mに達する。


巧は、近づいてくるレッドベアにコルトを撃ちまくった。

パン、パン、パン。

だが、全く効いてない。


「くそっ、ダメだ」

リオも同じようで、魔術も全く効いていないようだった。

シルバーウルフの攻撃を受けながらも近づいてくるレッドベア。


「タクミ! リオ! 逃げろ!」

フィートの声がする。


巧とリオは1番前の馬車から離れ、2番目の馬車に向かった。

そして、その馬車の中にいる人達に逃げろと指示をした。


急いで、逃げ始める客たち。

だが、急いでいたため、数人がつんのめって転んでしまった。

レッドベアは1番前の馬車に近づき、繋がれているカウホース1匹を一振りで屠った。

更に、レッドベアはもう1匹のカウホースに狙いを定める。

カウホースはその恐怖で拘束を引きちぎらんばかりに暴れていた。


巧はすぐさま”テラ”を開き、強力な武器を探した。

(これだ!)

と購入したのは、携帯型の対戦車用ロケットランチャーだ。

たった1発で小さなビルなら倒壊させる威力がある。

巧は、ロケットランチャーを手元に出現させ、すぐさまレッドベアに狙いを定めた。


レッドベアは、もう1匹のカウホースを屠り、先頭の馬車を破壊した。

もう遮る物は何もない。


巧は、急いで照準をレッドベアに合わせ発射スイッチを押した。

プシュ~~という音がし、発射された弾頭がレッドベアの肩に当たり爆発した。

ド~ンと物凄い音がした。

流石のレッドベアもこれならば、ひとたまりもないだろうと巧は思っていた。

だが……

爆発の煙が晴れた後、そこには無傷のレッドベアが立っていた。


「嘘だろ?! 足止めにもならないのかよ!」

巧は思わず呻いた。


レッドベアが巧を睨んだ。


(くっ。何とかしないと)

巧は頭を働かせた。


その時、ゴールデンベアのリーダー、ゴッテスがシルバーウルフの居る場所に到着した。

そして、ゴッテスはフィートに話し掛けた。


「フィート、ここは共同作戦だ。なんとか、あいつの動きを止めてくれ」


「どうするんだ?」


「こいつをブチかます」

ゴッテスが取り出したのは、小剣だった。

だが、その刀身には凍えるような寒気を感じる。

そう、小さいが魔法剣であった。


その魔法剣を見てフィートは作戦を理解した。


「ベル、ここにいる全員に補助魔法を」


ベルは黙って頷き、シルバーウルフ、ゴールデンベア全員に補助魔法を掛けた。


「レッドベアの足を狙え、足を止めるぞ!」

そうフィートは言い、全速力でレッドベアを追っていった。


巧は、迫って来るレッドベアに対峙する決意をした。

後ろには、まだ人がいる。

逃げる時間を稼がないといけない。


巧は、剣を抜き正眼に構えた。

「リオ、後ろの人達を頼む。場合によっては、そのまま逃げてくれ」


「タクミ!」


「大丈夫だ。行ってくれ!」


リオは、巧の無事を祈りながら後ろの人達の誘導に向かった。


レッドベアが巧の正面に立ち、咆哮を上げた。

ダメージが無かったとはいえ、あれだけの攻撃を放った巧を明確な敵と認識したのだろう。

レッドベアは顔に怒りを張り付かせていた。


巧は、攻撃の予兆を把握すべく全神経を集中させた。

そして、レッドベアは左腕を振り下ろした。

咄嗟に避ける巧。

更にレッドベアは右腕を振るう。

巧は大きく後退し、右腕を避けた。


「なんとか見える。訓練した甲斐があったな」

巧は、アルベルトとの訓練を思い出しながら、なんとかレッドベアの攻撃を避けていく。

そう、こちらの攻撃は効かず、向こうの攻撃を受けたら1発で終わる。

絶体絶命の状況だ。


レッドベアは何度も攻撃を躱されイライラが募っていた。

そして、業を煮やしたレッドベアは、四つ足となり突撃の構えを取った。


「マズッ。あの体で突撃されたら終わる」

体長4メルテを超える体である、その突撃はトラックにも勝る。


その時、レッドベアの背中に飛び上がる人影があった。

ゴッテスだ。


「ずおりゃ~~~」

ゴッテスは、掛け声と共に手に持った氷の魔法剣をレッドベアの背中に突き刺した。


ぐおあぁぁぁぁぁ

と辺りをつんざく振動が襲った。


氷の魔法剣の力がレッドベアの防御を貫いたのだ。

レッドベアは立ち上がり、ゴッテスを振りほどいた。

そして、ゴッテスに怒りの矛先を向けた。


そこにこっそりとレッドベアの背中に近づく人影があった。

フィートだ。

フィートは、身体強化で一気に飛び上がると、背中に刺さった魔法剣の柄に飛び蹴りを食らわせた。

背中に刺さっていた氷の魔法剣は、後ろから更なる力を加えられレッドベアの心の臓に到達する。


レッドベアの動きが止った。

心の臓に到達した氷の魔法剣は、致命傷を与えたのだ。

レッドベアが崩れ落ちる。

そして、レッドベアは地面に伏せ動かなくなった。


「倒した!」


「「レッドベアを、あの赤い死神を倒したぞ!!」」


シルバーウルフとゴールデンベアが勝利の雄叫びを上げた。


「シルバーウルフとゴールデンベアがレッドベアを倒したぞ」

歓声を上げる馬車の護衛達。


巧も、へなへなとへたり込んでしまった。

あれだけの強敵と渡り合って精神が疲れ切ってしまったのだ。


「タクミ、大丈夫?」

リオが駆け足でやってきて、巧に寄り添った。


「ああ、大丈夫」

巧は、疲れ切った声で答えた。


そこにフィートとゴッテスがやってきた。


「タクミ、いつの間にそんなに強くなったんだ?」

とフィート


「小僧、お前が引き付けてくれたお陰で助かったぞ」

とゴッテス


「アハハ。お二人が倒してくれなければ命はありませんでしたよ」

と九死に一生を得た巧はお礼を言った。


フィートとゴッテスと巧は、お互いの健闘を称え合った。


「そういえば、あの爆発は何だったんだ?」

とふと思い出したようにフィートが巧に聞いた。


「それは、あれですよ」

と巧は、遠くに放り投げられているロケットランチャーを指さした。


「あれは?」

フィートとゴッテスは見たことがないといった様子だった。


「あれは、銃と言いますか……」


「銃だって? また、随分と古い骨董品を持ち出して来たな」


「骨董品……?」


「ああ、確か100年ほど前に発明されたが、低級ゴブリン程度にしか効かないからお蔵入りになったはずだ」

とフィートが衝撃的な話をした。


「なんだって~!」


そう、これがこの世界で銃が発展しなかった理由だった。

強力な魔物は、魔力を使い自身の防御力を強化している。

そのため、生半可な物理攻撃ではダメージを与えられないのだ。

銃の威力を上げるには、火薬の量か口径が大きくしなければならない。

しかし、その反面銃の反動が大きくなっていく。

その反動に普通の人間は耐えられないため発展しなかったのだ。


死闘を終えた馬車隊一行は、それから2時間の休憩を取った。

魔石の収集と出発の準備を整えるためだ。

そして、収集した魔石と素材は、討伐した2組のB級PTと護衛隊に分配された。

因みに、巧達にもレッドベア討伐の参加賞としていくつかの魔石が与えられた。


今回の戦いで馬車が1台破壊され、3台から2台になったことでギュウギュウ詰めになったが、何とか全員乗ることができた。

そして、最後に犠牲になった1人を全員で弔い馬車は出発した。


3時間程進むと、前から騎馬部隊が現れた。

その騎馬部隊は馬車隊の前で止まった。

リーダーと思わしき偉丈夫が、前に出てきて質問した。


「お主らこの先から来たのか? この先で魔物の大群が出たと聞いたが見たか?」


「ははっ。私はカオンの寄合馬車隊長を務めておりますギータと申します。この先で魔物の大群に襲われました」


「何と! それは本当か? どのくらいの数だ? 距離は?」


「ご安心ください。私ども全員で魔物を全て討伐致しました」

ギータはその詳細を騎馬隊のリーダーに説明した。


「何とレッドベアまで出現したか。B級PTが2組も居たことが幸いしたな」

と安堵した騎馬隊のリーダーが言った。


「はい。B級PTが居なければ全滅していたでしょう」

ギータはそう答えた。


騎馬隊のリーダーは討伐証明としてレッドベアの耳を見たことで、全てが本当の話だと納得した様子だった。


「魔物の討伐感謝する。我々は周辺の被害を確認しに行く。貴殿達も気を付けられよ」

そう言い残して騎馬隊は、魔物の出現した場所周辺の被害状況を確認しに行った。


そして、巧達を含む寄合馬車は遅くなったが王都パオリに到着した。




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偵察部隊の報告


「国王陛下、第2騎士団長がお見えです」

と衛兵が訪問者を伝えてきた。


「分かった。通せ」


現れたのは第2騎士団団長のランドルフだった。


「陛下。ご報告がございます」


「なんだ?」


ランドルフは、西の森でのレッドベア出現とその調査結果を国王に語った。


「レッドベアが出たか。近年では見たという報告すら無かったが。やはり魔王の復活が?」


「分かりませんが、その兆候かもしれません」


「そのレッドベアを倒したというのはB級冒険者PTだったか?」


「はっ。カオンでは既に知られているPTでございます」


「その者達が勇者という可能性は?」


「伝説に語られている状況からしますと違うかと」


「そうか……。ならば魔王への警戒と勇者の捜索を引き続き実施せよ」


「ははっ」



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