イチゴ後日談
魔石をゲットした次の日。
巧は、イチゴをスキルで出してみた。
テーブルの上に突然パックに包まれた大粒のイチゴが出現した。
それを見たリオが勉強を止め近寄ってきた。
「それがタクミの国のイチゴ? 大きくて赤いのね」
すっかり巧のスキルに驚かなくなったリオが言った。
リオもアムの村に居た時、イチゴを食べたことがある。しかし、それは野イチゴだ。
野生の野イチゴは、小さく紫色で少し甘味があるが基本酸っぱい。
だが巧が出したイチゴは大きくて赤くみずみずしかった。
リンゴの経験もあり興味津々のリオ。
巧から食べてみる? との言葉をもらい、リオは早速手を伸ばした。
イチゴを一粒手に取って、ひょいと口に入れた。
「甘~い」
すっかり顔を綻ばせたリオが言った。
「これイチゴじゃないみたい。もう完全に別物ね」
そりゃあ、品種改良がバリバリに施された日本得意の魔改造品である。
美味しく無いわけがない。
「どうだろう? レイナさんを満足させれそうかな?」
巧はこの前、39個のリンゴを買って行ってくれた緑色の髪の女の人との事をリオに説明した。
そして、そのレイナに美味しいフルーツを持ってこいと依頼されたことを話した。
「大丈夫だと思う。これ美味しいもん」
とリオのお墨付きを貰った。
こうしてリオのお墨付きを貰った巧は、イチゴを2人で分けて食べた。
巧は、そういえばウィンドストームとどうやって連絡を取ればいいか聞いていないことに気付いた。
仕方がないので、冒険者ギルドの受付の人に渡してもらえば良いと思いたった。
ついでに、テントも出してシルバーウルフに渡してしまおうと考えた。
――数日後
2つの用件を済ませに冒険者ギルドに向かう。
数日開けたのは、イチゴを作るのに時間が掛からないことがバレないようにとのことからだ。
冒険者ギルドに入ると、以前とは違ってガランとした1階広間。
巧は、空いているカウンターに近寄り、
「すみません、シルバーウルフに渡したい物がありますが、どうすればよろしいですか?」
と受付の女性に話し掛けた。
その受付嬢はサンドラと言うらしい。
「はい。そうしましたら、こちらに伝言を書いてもらえますか?」
巧は、依頼のあったテントが完成したので渡しに来たと伝言を書いた。
「物はどれでしょうか?」
とサンドラは聞いてきた。
巧は、テントの袋を肩から降ろして受付嬢に手渡した。
「これはなんでしょう?」
「テントです」
「えっ? こんなに小さいのがテントなのですか?」
「はい、そうです」
サンドラはテントとは思えない程小さくなっている袋を訝しげに眺めていた。
しかし、どうやってもテントになるとは思えなかったようで。
「シルバーウルフさん達を怒らせると大変ですよ」
と忠告された。
どうやら、詐欺でもやろうとしているのではないかと思っているようだ。
巧は、シルバーウルフの面々もこれを見たことがありますので大丈夫ですよ。
この小さい袋がテントになるから、シルバーウルフの人達が欲しがったんです。
と回答し、なんとかサンドラを納得させた。
そして、次にイチゴの件を話し始めた。
「後、これをウィンドストームのレイナさんに渡したいのですが」
と巧は背負い袋からイチゴが入った袋を取り出してサンドラに手渡した。
「これはなんでしょう?」
とまたもやサンドラは聞いてきた。
「イチゴです」
それを聞いた瞬間、サンドラの顔はサッと引きつった。
この国ではイチゴは歓迎されていないらしい。
「タクミさんでしたか? イチゴをレイナさんに渡すのは止めておいた方が良いですよ。
いくらファンだと言っても、こんな物を手渡したらどんなことになるか……
想像するだけでも恐ろしい」
とサンドラはブルブルと体を震わせていた。
どうやらレイナは、結構やらかしているみたいだった。
「大丈夫です。この辺で採れるイチゴではありませんから」
と巧はサンドラにイチゴを手渡そうとした。
「無理です。これを手渡すなんてとてもできません。
こんなのを手渡したら私の生命が危険にさらされます」
と言い、サンドラはこれを拒絶した。
実は、サンドラはレイナのファンだという人物のプレゼントをレイナに手渡したことがあるのだ。
だが、そのプレゼントを食べたレイナは激怒し、悪鬼のように暴れまわった。
それ以来、レイナに渡す物を選別するようになったのだ。
「大丈夫ですから」
とサンドラに渡そうとする巧。
「無理です」
とそれを拒絶するサンドラ。
暫くプレゼントの押し付け合いをしていると。
「何をしてるの?」
と件のレイナが現れた。
「ひっ」
と顔を凍り付かせるサンドラ。
「レイナさん。これ、プレゼントです」
と巧は丁度良かったとでも言いたげにレイナにイチゴを手渡そうとした。
「ひぃぃ」
と悲鳴を上げるサンドラ。
「これ、もしかしてイチゴ?」
「そうです。イチゴです。食べてみて下さい」
と自信満々でイチゴを勧める巧。
「止めて~~」
と恐怖に駆られるサンドラ。
レイナは手渡された袋を開け、中に入っているイチゴを覗いた。
するとなんとも甘い良い香りが漂ってくる。
レイナは早速イチゴを一粒取り出した。
「大きくて赤いわ。こんなイチゴを見るのは初めてよ」
と期待に満ちた目をしていた。
「さあ、どうぞ」
と巧は言った。
レイナはイチゴを口に入れた。
「ぎぃや~~~」
ガタガタ震え、遂には失神してしまうサンドラ。
「美味しい。とっても美味しいわ。リンゴよりも好みの味」
満面の笑みでレイナは言った。
「ありがとうございます。定期的に持っていきますよ」
と巧は失神しているサンドラを横目に見ながら提案した。
「それなら、自宅に直接届けてくれる?」
とレイナは嬉しそうな顔をして、自宅の場所を伝えた。
巧はそれを承諾し、次回からは自宅に直接届けることを約束したのであった。
こうして、レイナは巧の出したイチゴに大変満足し、悪鬼の出現は回避されたのであった。
それをサンドラが知るのは、もう暫く後の事である。
後日、巧はレイナにも評判の良かったイチゴも店頭に並べることにした。




