↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族女王の情夫《ジゴロ》 番外編【金色の愛と銀色の恋】  作者: 枕崎 純之助
第一幕 『金色の愛』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/74

第8話 『女王の茶会(前編)』

 新都を巡《めぐ》る攻防戦が終わって数ヶ月。

 新都ダニアの街は多少の混乱もありながら、それでも平穏《へいおん》な時間が流れていた。

 多忙を極める女王たちだが、オーレリアやウィレミナらで構成される評議会・紅刃血盟会が機能し始めていることにより、女王たちにかかる負担は確実に少なくなっている。


 この日、2人の女王は執務《しつむ》から解放され、身近な者たちだけを集めて懇親《こんしん》のための茶会を開くことになった。

 ブリジットはボルドを伴《ともな》い参加し、クローディアはアーシュラを連れて参加した。

 そしてこの茶会の発起人はクローディアの従姉妹《いとこ》であるベリンダであり、彼女の姉であるブライズも出席していた。


「ボールドウィン。ごきげんよう」


 茶会の席でブリジットを出迎えたクローディアは、その隣《となり》に立つボルドにもそう言って笑顔を向ける。

 ボルドも彼女に笑顔を返し、丁寧《ていねい》な挨拶《あいさつ》を述べた。

 だがブリジットもクローディアもボルドもわずかに笑顔が固い。

 3者間にどこか緊張感が漂《ただよ》っているのを感じ取ったアーシュラは席から立ち上がると、ブリジットに一礼して声をかけた。


「ブリジット。共和国からの珍《めずら》しい茶が入っております。ボールドウィンにその淹《い》れ方をお伝えしてもよろしいでしょうか」

「ああ。教えてやってくれ。アーシュラ」


 快《こころよ》くそう言うブリジットに再び一礼するとアーシュラはボルドに目を向け、彼を天幕の外に連れ出した。

 そのまま隣《となり》の天幕に入ると、そこでは小姓《こしょう》たちが茶菓子《ちゃがし》の用意をしている。

 アーシュラはボルドの袖《そで》を引っ張り、各種の茶葉の置かれたテーブルの前に並んで立った。

 そして彼にだけ聞こえるような小さな囁《ささや》き声で言う。


「もう少し自然にクローディアに接していただけませんか」


 彼女の言葉にボルドは思わずギクリとする。

 以前にクローディアからの愛の告白を受けて、それを断ったボルドはその後のクローディアとの接し方に苦労していた。

 クローディアは以前のように親しく声をかけてくれるものの、やはり彼女もボルドもまったく以前と同じようには振る舞えずにいた。

 表面上はにこやかに接してはいても、ボルドは彼女と話す時はどうしても緊張してしまうし、壁のようなものを感じる。

 仕方のないことだと頭では理解しつつ、ボルドにはどうすることも出来ずにいた。


「すみません。出来るだけ普通にと心掛けてはいるのですが……」

「あなたが悪いわけではありません。普通の男女ならばあのようなことがあればギクシャクするのは当然のことでしょう。ですが……」 


 そう言うとアーシュラは茶葉を手に取る。

 そしてボルドに目配《めくば》せをして手順を覚えるように促《うなが》しながら、適量の茶葉を急須に入れて、お湯を注いでいく。


「このままではクローディアもブリジットも互《たが》いにいたたまれません。ボールドウィン。無理難題を言うようですが、2人の女性から愛された男の責任として、あなたが何とかして下さい」


 それはまさしく無理難題だったが、ボルドは生真面目《きまじめ》な性格だ。

 アーシュラにこう言われて真剣に考えないわけにはいかない。


「ブリジットとクローディアは普段共同の仕事をする際にはごく自然に笑い合えるようになってきました。時が確実にわだかまりを解決してくれているのです。ですが、やはりあなたを交えて3人で同席すると、どうにも空気が固くなる」

「すみません……。クローディアは普段の御様子はいかがですか?」

「かなり元気になっていらっしゃいますよ。ですが……今も時折、人知れず泣いている時があるようです」


 それは主の名誉《めいよ》のためにも言うべきではないかとも思ったアーシュラだが、主を振った男に多少なりとも嫌味を言ってやりたいというある種の復讐《ふくしゅう》心のようなものが勝った。


「クローディアのことはお気に病まなくても結構。ただ、女王たちのより良き今後の関係性のために力を尽くせるのはボールドウィン。あなたを置いて他にいません。何かあのお2人の心を和《なご》ませることを日々お考え下さい」


 アーシュラにそう念押しされ、ボルドは思わず頭の中で必死に思考をこねくり回した。

 そんなボルドの目の前で、アーシュラは別の容器に白い粉末を入れ、そこに牛の乳を注いでいく。

 そしてそれを熱湯の入った桶《おけ》に浸《ひた》して温めながら、泡立て器でかき混ぜ始めた。

 するとほどなくして乳が白く泡立ち始める。

 その様子にボルドは思考を止め、ふと目を見開いた。


「それは?」

「共和国原産の脂肪分の高い牛の乳を泡立てたものです。共和国では茶の上にこうしたものを浮かべ、飲むのが流行《はや》りだとか」


 そう言ってアーシュラが泡立てた乳を茶の上に垂《た》らすと、不思議《ふしぎ》な波紋を描きながら白く泡立った乳が茶の表面を覆《おお》っていく。

 それはまるで水面に浮かぶ白い雲のようであり、思わずボルドはその様子に見入った。

 そこで彼はあることを思い付いて、テーブルの上に何本が置かれている撹拌《かくはん》用の木串《きぐし》を手に取るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。