第71話 『女王の甘い時間』
黒髪の美男子と銀髪の美女が優雅な音楽に合わせて華麗に踊る。
大統領の息子であるイライアスとダニアの女王クローディアの舞踏が始まると、周囲の視線が2人に集まった。
数日前に見せたような激しく勇ましい舞いではなく、花弁が風に乗って宙を舞うような艶やかな舞踏に会場中の目が釘付けになる。
しかし当の2人は他人の目など気付きもしなかった。
お互いしか見ていない。
2人だけの甘い時間と、2人だけの熱い世界がそこにある。
「イライアス。誘いに来るのが遅いわよ」
「すまなかった。クローディア。おかげで君が他の男と踊るのを幾度も見せつけられたよ」
クローディアとイライアスは華麗に舞いながら、すぐ近くで互いの目を見つめ合って言葉を交わす。
鳴り響く楽器の音の中で、他の誰にも聞こえない2人だけの会話だ。
「あなただって他の女性と踊っていたんだから、おあいこでしょ」
「それは嫉妬と捉えていいのかな?」
「あら。随分と自惚れ屋さんなのね。ワタシが他の人と踊るのを面白くなさそう見ていたくせに」
「うっ……み、認めるよ。けど俺だって本当は君とだけ踊っていたいんだ。でも、お互いそうもいかないな」
クローディアの美しい銀色の髪が宙を舞い、その香りがイライアスの鼻腔をくすぐる。
すぐ近くで感じられる彼女の美しさにイライアスは思わず頭がクラクラとしてきた。
わずかに怯みそうになるイライアスだが、先ほどエミリーとエミリアに押された背中の温かみを思い出し、意を決して口を開く。
「君にきちんと言わなくてはならないことがある」
「ええ。ワタシもあなたからきちんと聞いていないことがあるわ」
イライアスの瞳がまっすぐにクローディアの瞳を見つめた。
思わずクローディアの瞳が揺れる。
しかしイライアスは彼女の手を握ったまま目を逸らさずに言った。
「俺は……君のことが好きだ。クローディア」
そう言うイライアスの言葉は予想していたとはいえ、彼の口からきちんと聞くとクローディアは思わず息も出来ないほど胸が高鳴った。
「多分、初めて会った時から少しずつ君に惹かれていたんだと思う。でもこの数日間でそれが大きく強くなっていったんだ。短い間だけど君と一緒にいられて楽しく幸せだった。これからもずっとこんな時間が続いて欲しいと思っている」
「イライアス……」
「あれだけミアのことを引きずっていた俺の言葉をすぐに信じてもらえるか分からない。でも、この気持ちはこれから時間をかけて君に証明していく。だからクローディア。俺の……恋人になってほしい。どうしても君がいいんだ。君じゃなきゃ嫌なんだ」
繋いだイライアスの手がわずかに震えている。
それを感じ取った途端、クローディアはたまらなく彼のことが愛おしくなった。
普段は威風堂々と大統領の息子を演じているイライアスも、本当は1人の弱い人間なのだ。
その彼が勇気を出して自分に気持ちを伝えてくれた。
そのことがクローディアには何より嬉しかったのだ。
「ありがとう。イライアス。ワタシもあなたが好き。ずっとあなたと一緒にいたいと思う。だからあなたの……恋人になるわ」
クローディアは自分の口から素直にその言葉が出て来たことに自分でも驚いた。
その瞬間、かつて愛した男の顔はもう思い出さなかった。
今は目の前にいる彼のことだけを見つめているから。




