↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族女王の情夫《ジゴロ》 番外編【金色の愛と銀色の恋】  作者: 枕崎 純之助
第二幕 『銀色の恋』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/74

第61話 『女王の宣言』

「ちょっと! これはどういうことなの!」


 控《ひか》え室の入口を数人の男女に固められて室内に閉じ込められた状態のマージョリーは、怒りの声を上げながらエミリーとエミリアに詰め寄った。


「あななたち何か聞いていないの? イライアス様はどうして戻って来て下さらないの!」


 困惑の表情でそう言うマージョリーに対して双子は無視を決め込んでいた。

 業《ごう》を煮《に》やしたマージョリーはいよいよ激昂《げっこう》して、エミリーの頬《ほほ》を平手でバシッと張った。


「何とか言いなさい! いつもだんまりで表情も乏《とぼ》しいし、あなたたち薄気味悪いのよ!」


 エミリーはそれでも黙《だま》っているが、姉の頬《ほほ》を張られたエミリアが無表情のまま口を開いた。


「イライアス様が戻って来られないのは、マージョリー様のことがお嫌いだからでは?」

「なっ……何ですって?」

「マージョリー様よりクローディアの方がお好きなのですよ。多分」


 他人事のように目を逸《そ》らしてそう言うエミリアにマージョリーは顔を真っ赤にして怒り、今度はエミリアの頬《ほほ》をバシッと叩くのだった。


☆☆☆☆☆☆


「クローディア。君は一体何をするつもりなんだ?」


 クローディアに手を引かれるまま歩き続けるイライアスは、徐々に不安を覚え始めていた。

 それもそのはずで、クローディアは彼の手を引いたまま公会堂の大舞台の上に上がろうとしていたからだ。

 そこはつい先ほどまで大統領を初めとする候補者たちが最終演説を繰り広げていた場所だった。

 今もなお会場では紳士淑女《しんししゅくじょ》らが集まって立食を楽しみながら、政治談議や世間話に興じている。

 冷めやらぬ熱気を前に、こうして自分とクローディアが連れ立って舞台の上に上がれば、どのような好機の目に晒《さら》される分からない。

 しかし肝《きも》を冷やすイライアスとは対照的にクローディアは少しも臆した様子なく言った。


「あなたの手紙に書かれていた最近出会った女性って誰? あなたが惹《ひ》かれ始めているという……」

「そ、それは……秘密だ」

「……そう。まあいいわ。ねえイライアス。ワタシのこと、嫌ってはいないわよね?」


 突然そんなことを聞かれてイライアスは思わず目を丸くする。

 しかし彼は間髪入れずに答えた。


「嫌いなわけないだろう?」

「そう。良かった。正直、嫌われていたら今からすることは最悪の嫌がらせになってしまうから」

「何を……するつもりなんだ?」

 

 その問いには答えずクローディアは静かにイライアスを見つめ返す。


「今からワタシが何をしても驚《おどろ》かないで。笑顔でワタシに合わせて。持ち前の演技力と男前ぶりを今こそ発揮《はっき》しなさい。イライアス」


 そう言うとクローディアは何かを言いたげなイライアスの手を引いて、舞台袖(そで)からとうとう舞台に上がった。

 途端《とたん》に会場中の視線が2人に集まり、やがて皆が息を飲んだように会場はシンと静まり返る。


「ご歓談の最中に失礼いたしますわ。ダニアよりやってまいりましたクローディアでございます」


 そう言うとクローディアはドレスの裾《すそ》をつまんで優雅に一礼して見せる。

 真紅の色を基調としたドレスに美しい銀色の髪がよく映《は》えて、灯《あ》かりに照らされる彼女の姿はまるで炎の女神のようだった。

 その美しさと凛《りん》とした振る舞いから、すでに彼女はこの首都で絶大な人気を得ている。

 もう彼女を蛮族《ばんぞく》の女王などと蔑《さげす》む者は少ない。


 この公会堂もクローディアを讃《たた》える声で満ちていた。

 そして彼女の隣《となり》にイライアスがいることで、会場内からは好奇の視線が注がれる。

 この2人は首都きっての美男美女として噂《うわさ》の的なのだ。

 イライアスは観衆の視線を全身に浴びながら、引きつったような笑みを見せていた。


(いつも通りの演技力と言われても、俺には君ほどの胆力はないぞ。クローディア)


 内心でヒヤヒヤするイライアスの隣《となり》では、ざわめきが落ち着くのを待ってクローディアが話を切り出した。


「崇高《すうこう》なる大統領選挙の最終演説会の場をお借りして、甚《はなは》だ僭越《せんえつ》ではございますが、少々下世話な話をさせていただきますわ。世間ではワタシとイライアス殿の仲を噂《うわさ》される方々もいらっしゃるようですね。ですがそれは違います。ワタシとイライアス殿は男女の仲ではありません」


 その言葉に会場からは思わず落胆の声が聞こえてくる。

 しかしクローディアは間髪入れずに言い放った。


「ですが……心根が優しくまっすぐな愛情を持つイライアス殿のことをワタシは……好ましく思っております。イライアス殿はいかがですか? ワタシのことをどうお思いでしょうか?」


 その言葉に会場の雰囲気《ふんいき》は一変し、大きな歓声と囃《はや》し立てるような口笛が鳴り響いた。

 そんな中、クローディアは笑みを浮かべてイライアスを見やる。

 水を向けられたイライアスは思わず息がつまり、すぐには言葉が出て来ない。

 だが、彼は握り締めた拳で己《おのれ》の太ももをドンと叩いて自らを叱咤《しった》する。

 そして会場が再び静まり返るのを待って声を張り上げた。


「そのように思っていただき、1人の男として心より嬉しく思っています。クローディア殿は若くして堂々たる威厳《いげん》に満ち溢《あふ》れ、それでいて母のような慈愛《じあい》に満ちた素敵《すてき》な女性です。私もこれから……親しくさせていただきたいと思っています。友としてではなく、1人の男と女として」


 静まり返っていた会場は、イライアスの言葉に弾かれたような大歓声に包まれた。

 イライアスの言葉を聞いたクローディアはとても穏やかな表情をしていた。

 そんな彼女の顔を見たイライアスは、幼き頃の母の顔を思い出す。


 それはイライアスが正しいことをした時に、それでいいのだと褒《ほ》めてくれた母の、春の日差しのような暖かな笑顔だった。

 今のクローディアの笑顔は、そんな母の笑顔によく似ているのだ。

 イライアスの胸に……静かに新たな炎が宿る。


「お聞きの通りです。まだ何も確かなことは言えません。しかしこれからのワタシたちがどうなっていくのか、首都の皆様には温かくお見守りいただきたいのです。どうかよろしくお願いいたします」


 観衆に向けてそう言うと、クローディアはイライアスに手を差し出す。

 イライアスはその手を取ると、彼女と共に観衆に向けて優雅に一礼して見せた。

 会場は拍手喝采《はくしゅかっさい》の渦《うず》に包み込まれ、しばらくの間その歓声が鳴りやむことはなかった。

 この夜、首都には大統領選挙の行方《ゆくえ》と同じくらい熱を帯びた話題として、若き2人の熱愛の報が駆け巡《めぐ》るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。