↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族女王の情夫《ジゴロ》 番外編【金色の愛と銀色の恋】  作者: 枕崎 純之助
第一幕 『金色の愛』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/74

第6話 『女王の逢引《デート》』

 すっかり日の暮れた後の平原を1頭の馬が駆け抜けていく。

 ブリジットとボルドをその背に乗せた馬は、新都の東門を出て1キロほど先にある小高い丘を目指していた。

 満天の星空を頭上に見上げるボルドは、ブリジットの腰につかまりながら、思わず感嘆《かんたん》の声を上げる。


「すごいですね……」

「ああ。見事な星空だ」


 日中はまだ夏の暑さの名残りを感じさせる秋の初めだが、夜のこの時間になるとさすがに肌寒い。

 そんな夜に2人は連れ立って出かけたのだ。

 小姓《こしょう》らは護衛を付けるように進言したが、ブリジットはそれを拒否した。

 ボルドと2人きりで星空の下へ駆け出したかったからだ。

 ブリジットは馬に揺られながら再び頭上を見上げる。


「晴れて良かったな。ボルドの言った通りだ」


 ボルドには黒髪術者《ダークネス》としての能力があり、数日後の天気くらいならば言い当てることが出来る。

 そして……。


「はい。せっかくの流星群の日ですからね」


 この日は秋の流星群が降り注ぐ夜だった。

 暦《こよみ》の上でもこの日がそうなのだが、ボルドは今年の流星群が例年以上に大規模になることを黒髪術者《ダークネス》としての力で感じ取っていた。

 それを聞いたブリジットは彼と2人きりで流星群を見たいと思い、夜の外出を決めたのだった。


「もうすぐ着くぞ」


 馬が丘を登り始め、ほどなくして頂上にたどり着く。

 ボルドはすぐに馬から降りると、背負っていた袋《ふくろ》の中身を取り出し、それを手早く広げていく。

 芝生《しばふ》の上に上等な厚手の布地を敷《し》いていき、その上に膝《ひざ》にかける毛布などを置いた。

 その間、ブリジットは馬を近くの木に繋《つな》ぐと、鞍《くら》に取り付けていた袋《ふくろ》から少々の菓子《かし》類と、温かなお茶の入った竹筒を取り出した。


 そうして準備が整うと、2人は身を寄せ合って敷物《しきもの》の上に腰を下ろす。

 そして灯《あ》かりのために持ってきた角灯の火を吹き消した。

 すると途端《とたん》に周囲が暗闇《くらやみ》に包まれ、目が慣れないために視界が悪くなる。

 だがすぐに暗順応で目が慣れて来ると、雄大な星空が今にも頭上からのしかかって来るかのように思えてボルドは圧倒された。

 そしてその口から自然と呟《つぶや》きが漏《も》れる。


「私が奴隷《どれい》だった頃……夜に見上げる星空は綺麗《きれい》でしたが、それを綺麗《きれい》だと感じられる心が私にはありませんでした。でも今は違います。ブリジットがこうして隣《となり》にいて下さるから、この星空を綺麗《きれい》だと思える心を持てるのです」

「ボルド……そうだな。アタシも同じだ。今まで星空なんていくらでも見てきたはずだが、今日こうしておまえと見る星空に勝る美しさは今まで感じたことが無い」


 2人は静かに見つめ合うと軽い口づけを交わした。

 すぐ間近からブリジットに艶《つや》っぽい目を向けられ、ボルドは思わず照れながら視線を落として菓子《かし》の袋《ふくろ》をそそくさと開いた。

 中からは夕方に小姓《こしょう》たちと一緒に焼いたばかりの焼き菓子《がし》の良い香りが漂《だたよ》って来る。

 だがブリジットはボルドの顎《あご》を指で掴《つか》むと、自分の方を向かせた。


「菓子《かし》よりも甘いものがあるだろう?」


 そう言うとブリジットは先ほどと同様に短い接吻《キス》をボルドと交わす。

 ボルドは困ったように頬《ほほ》を赤らめた。

 

「……ブリジット。せっかく焼いたのですから食べて下さい」

「もう一度接吻(キス)してくれたら食べるぞ。ボルド」

「……約束ですよ?」


 ブリジットとボルドは再び軽い口づけを交わす。

 だがブリジットは意地悪そうに目を細めて笑いながら言う。


「今のではダメだな。もっと深くて濃いものじゃないと」

「約束しましたのに……」

「しないなら菓子《かし》は食べないぞ」

「い、いたしますよ」


 ボルドは頬《ほほ》を真っ赤に染めて再びブリジットの唇《くちびる》に自らの唇《くちびる》を重ねた。

 軽い接吻《キス》が徐々に深く濃いものへと変わっていく。

 次第に2人は菓子《かし》のことも星空のことも忘れて夢中に互《たが》いの唇を貪《むさぼ》った。

 その時……2人の視界の端《はし》に眩《まばゆ》い瞬《またた》きが閃《ひらめ》く。


「あっ……」


 2人は唇《くちびる》を離して同時に空を見上げた。

 するとそこには無数の流れ星が空から舞い落ち来ていた。

 2人は息をするのも忘れてその光景に目を見開く。



「始まったな」

「す、すごい……」

「ああ……ここまでとは」


 空から降り注ぐ無数の流星群は、この世界に舞い落ちる人々の夢の欠片《かけら》のようだった。

 古《いにしえ》の時代からこの光景を見て来た人々は、同じように感動を覚えたのだろうか?

 ボルドとブリジットは2人で見たこの光景を生涯《しょうがい》忘れることはないだろうと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。