表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/74

第58話 『女王の到着』

「うぅ……」


 バンフォールドは目を覚ますと自分がなわしばられて椅子いすに座らされていることに気が付いた。

 場所はどこだか分からないが、薄暗い倉庫のような屋内だ。

 そして数メートル先の暗がりに何者かがいる。

 目をらすと、それが黒い頭巾ずきんを被った女だということが分かった。


「お目覚めですね。バンフォールド氏」


 そう言った女の声で、彼女が自分を襲った人物だと悟ったバンフォールドは怒りの声を上げようとした。

 だが、何やら意識が茫洋ぼうようとしていて口がうまく回らない。 

 それどころか全身の力が抜けてしまっているかのように体が上手く動かせなかった。

 

「残念ですが抵抗できないよう一服盛らせていただきました。ただ命までは取りませんよ。今回はそういう仕事ではないので。あなたには色々と情報を教えてもらいたいんですよ。スノウ家のマージョリーとつながっていますよね?」


 その話にバンフォールドは思わず目をくが、ヤクザ者の矜持きょうじで必死に首を動かして横に振った。

 そこでバンフォールドは初めて気が付いた。

 自分の右隣みぎどなりに2人の男が座り込んでいるのを。

 そしてその2人は共にバンフォールドがよく知っている者たちだった。


「あなたの用心棒のウォーレス氏と小間使いのアーロン氏です」


 ここ数日、姿が見えなかった2人だ。

 おかしなことが起きていると思っていたが、まさかこんな場所にとらわれているとは思いもよらなかった。

 愕然がくぜんとするバンフォールドはその2人が自分とは違って一切拘束(こうそく)されていないことに気付き、目を白黒させる。

 そんな彼に黒頭巾(ずきん)の女は言った。


「彼らにはもうなわは必要ありません。こちらに協力的なので。色々なことをしゃべってくれましたよ。マージョリーとのつながり、平民の娘ミアに対する数々の嫌がらせの内容。すべてあなたが関わっていることもね」


 そう言うと黒頭巾(ずきん)の女は口の周りを厚手の布で二重におおった。

 それを見た途端とたん、ウォーレスとアーロンが目に見えておびえ出す。

 大の男がガタガタと全身を震わせるその様子に、バンフォールドは目をいた。


 没落貴族の不良息子でしかない若輩じゃくはいのアーロンはともかく、ウォーレスはバンフォールドが抱える最強の用心棒だ。

 高い給金を払っているのは、ウォーレスが確かな腕を持つ元軍人であり何人も人を殺してきた凄腕の戦士だからだ。

 その男が、あれだけおびえている。

 精悍せいかんだったはずの顔つきも以前とはまるで別人になっていた。


「な、何を……したんだ」


 そうおびえるバンフォールドの前で、女はいつの間にか両手に一つずつグラスを持っていた。

 グラスの中には共に透明な液体が3分の1ほど入っており、それを一つのグラスに混ぜ合わせると、途端とたんに泡立ち白い煙が立ち始める。


「始めましょうか。かなり苦しむので早めに降参したほうがいいですよ」


 そう言うと黒頭巾(ずきん)の女は無慈悲むじひに一歩また一歩とバンフォールドに近付いていくのだった。


 ☆☆☆☆☆☆


「イライアス様! 待ち切れなくてもう来てしまいましたわ。私のほうが早いと思ったのに、まさかイライアス様が先にいらしているなんて感激です」


 とびらを開いてひかえ室に入って来たマージョリーは、イライアスの姿を見るなりそう言って歓喜の表情を浮かべた。

 最終演説会の開かれる公会堂のひかえ室が、マージョリーから指定された待ち合わせ場所だ。

 イライアスは待ち合わせ時刻より1時間以上も早く、この場でひかえていた。

 早々に決めた覚悟が揺らがぬよう、自らを追い込んだのだ。

 イライアスはマージョリーに向けて最上級の笑みを浮かべる。


「マージョリー殿をお待たせするわけにはまいりませんから。しかし少々勇み足でしたかな」


 そう言う主の紳士的な態度を後方から見つめながら、エミリーとエミリアは表情ひとつ変えずにひかえている。

 彼女たちはただ見守るのみだ。

 これが主の選んだ道なのだから。


「嬉しい。ようやくこの日が来たのですね。私、良き妻になりますわ。イライアス様のお喜びになるような良き妻に」


 そう言うマージョリーに深々と頭を下げると、イライアスは彼女の手を取って豪華ごうか椅子いすの置かれた応接スペースにみちびいた。

 エミリーとエミリアが数々の茶菓子をテーブルの上に並べ、良い香りの高級な茶をれる。


「さあ、まだ発表まで時間がありますゆえ、ごゆるりとお話でもいたしましょう」


 そう言うイライアスにマージョリーは恍惚こうこつとした表情でうなづいた。

 そんな彼女の顔を笑顔で見つめながら、イライアスは心の底に冷たい憎しみの炎が揺れるのを感じるのだった。


☆☆☆☆☆☆


 最終演説会は会場である公会堂に入れる人数が限られるので、午前、午後、夜の3回に分けて行われる。

 そのうち夜の部だけは立食形式で行われ、候補者らの演説が終わった後もしばし歓談が続くことになっていた。

 すでに午前と午後の部は終わっており、現在は夜の演説会が始まろうしている。

 そんな中、夕闇ゆうやみを照らし出すように煌々(こうこう)篝火かがりびともる公会堂の前に、一台の馬車が到着した。


「クローディア。着きました」


 ウィレミナの声に目を開けると、クローディアは静かに馬車から降り立つのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ