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第20話 『女王の私室にて』

 ボルドの帰宅が遅くなったこの日、ブリジットは悲痛な表情で玄関まで彼を出迎えに出た。

 そんな彼女をなだめつつ、ボルトはブリジットを彼女の部屋まで連れて行く。

 だが、自室に入っても彼女は震える手をボルドから離そうとしなかった。


 平時は強い心を持つ毅然きぜんたる女王であるブリジットも、妊娠してからは情緒が不安定になることもあった。

 ボルドはそんなブリジットに寄り添ったまま、並んでソファーに腰をかける。

 そしてしばらくブリジットの背中をさすり続け、ようやく彼女が落ち着くとその手を握って言った。


「ブリジット。ゆうべのことは私も悪いのです。あなたのお気持ちを第一に考えることが出来なかった。それは私の失態です」

「違う。おまえはアタシと子供のことを一番に考えてくれたんだ。それなのにアタシは……おまえの相手として失格だ」


 そう言うブリジットにボルドは優しい笑みを浮かべたまま穏やかな口調で言った。


「私は……恐れていたのです。ブリジットと子のことを案じるあまり、とぎをすることを。ただ、それは無知から来る恐れでした。ですから多くのことを知るために助産師さんとシルビアさんの元を訪れたのです」

「シルビアのところにも行ったのか? だからこんなに遅く……」

「はい。特にシルビアさんは腰の具合も良くないのに、私のために熱弁を振るって下さって」

「そうだったのか……どのようなことを聞いたんだ?」


 そうたずねるブリジットにボルドはやや顔を赤らめ、だがすぐに意を決して口を開いた。


「妊娠中にとぎをすることについて……です」


 妊娠中はとぎをしてはいけない。

 女王であり世継ぎを産む立場のブリジットには代々そのことが求められてきた。

 妊娠と出産は女性にとって命懸けの尊い行為である。


 そして女王の血脈はダニアにとって絶対に守らなければならない最重要事項なのだ。

 万が一にも母子に何かがあってはならない。

 だが、ボルドが知りたいのは実際のところはどうなのか、という真実だった。

 それを聞くためにそうした情報に精通した2人の元を訪れたのだ。


「そもそも妊娠中のとぎ自体は節度を守れば問題はないそうです。けれど万が一の危険性を考えて代々のブリジットはそれを禁じられてきたとのことでした」

「ボルド……おまえはどう思うんだ?」


 ブリジットの問いにボルドは少しだけ恥ずかしそうに、だがしっかりと彼女の目を見て答えた。  


「ブリジット。私があなたととぎをしたくないと思う時はありません。いついかなる時でも私はあなたと肌を重ねたい。それは偽りのない気持ちです。ですが……」


 そう言うとボルドは彼女の手を握る。


「もしとぎのせいで何かあったら……そう思うと怖いのです。ブリジットとお腹の子に何かあれば私は一生悔やむでしょうし、自分を許せないでしょう。それはあなたが女王だからでも子供が世継ぎだからでもありません。私があなたとお腹の子をただ失いたくないからです」


 そう言うボルドの手に力がこもるのを感じ、ブリジットは彼の言葉が本心から出たものだと感じる。

 そしてボルドは切々とうったえかけるように言った。


「ただ……ブリジットの伴侶はんりょとして愛していただいているように、私もあなたを愛したい。その気持ちは強くあります。ですから……今宵こよい、寝室でもう一度私の話をお聞きいただけないでしょうか。2人きりで」


 そう言うボルドの静かだが熱のこもった視線に、ブリジットは思わず気圧けおされうなづく。

 そして彼はそう宣言した通り、夕食後に湯浴みを済ませると、ブリジットを寝室に誘ったのだった。

 小姓こしょうたちはあらかじめボルドから何かを聞かされていたのか、そのことをとがめるようなことはしなかった。

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