部活の始まり
「そういえばそろそろじゃない?」
朝食も食べ終え、登校するまで時間があるからリビングでソファに座りながら紅茶をのんびりと飲んでいると、隣に座っていた乃亜がふと思ったかのように言葉を放った。
「そろそろって。なにが?」
「部活だよ。だってもう4月が終わりそうだから」
「あー、言われてみればそうだね」
今は4月22日。確かに4月の終盤である。
学校にも少しづつ慣れてきて友達も何人かできている頃だ。
前にも言ったと思うが弥音は軽音、遠江先輩は茶道、凪先輩は演劇で陽斗君はバスケ部。
そして僕と乃亜は部活に入っていない。
別に部活に入りたくないというわけではなく単に興味のある部活が無かったってだけ。
各々熱中できるものがあって羨ましく思ってしまう。
「っと、そろそろ行くか」
「そうだね」
そうして僕らは学校へと歩を進めた。
昼休み。廊下を歩いていたら職員室から出てくる遠江先輩を見かけた。
僕が突っ立っているとあちらも気づいたのか僕の方に向かってきた。
「学校で会うなんて珍しいですね先輩」
「そうね。学年が違うと会わないもんね」
そう先輩が言うと微笑を浮かべていた。
今までで見たことないような綺麗な表情をしていた。
「なにかあったんですか」
そう、言わずにはいられなかった。
いつも感情を表に出している人が、嘘を付いて隠し事をしているとイヤな気持ちになってしまう。
先輩は「そんなことないよ」と言うけれどそんな事がないのは明白で、僕は彼女の目を見据えている。
正直、自信ない。
もし先輩が話してくれなかったら、信頼されてなかったとか、そこまでの関係性だったとか、悪い方にしか考えられなくなる。
僕に知る権利はなくとも、一緒に過ごしている人の事を知りたいと思うのは普通の事だと思うから。
「実はね……」
僕は目を泳がしもせずに見ていると、観念したのか先輩は話始めようとした時だった。
「おい篠崎、早く来い」
目の前の扉が開き担任の先生が催促するように言ってきた。普段は大人しく、優しい先生なのだが、今はめんどくさいことが起き疲弊しきっているように見える。
今にも話し出そうとしていた遠江先輩は言葉を呑み込んでしまい、わざとらしく「先生に呼ばれてたんだ」と話題を変えようとしていた。
僕にそんなことしたって意味が無いと知りながらも。
気が付けば周りの喧騒は聞こえなくなり、予鈴の音だけが聞こえてきた。
職員室に居た先生の数人が担当の授業場所へと移動しようと準備をしている。
「先輩、予鈴鳴ったんで行った方がいいんじゃないですか」
「あっ……そ、そうね」
僕の目を背けて返事をする先輩。
多分、今の僕の表情は仮面を被っているだろう。
どうすればいいかわからず、気まずくなったからか先輩は「また、あとでね」とだけ言って去ってしまった。
はぁ、よりにもよって今日なのか。
陽斗君が今日から部活始まるって時に。
先輩の事も気になるが、一先ず僕の方の用事を聞いてからじゃないと。
先輩の事は先生に聞いてみるか。
僕は気だるそうに目の前の会議室のドアを重く開いた。
既に授業は終わっており、少し陽が傾いている頃。
僕らはカバンを持たずに体育館の前に来ていた。
「空木君大丈夫かな」
「大丈夫だと思うよ。彼しっかりしてるから」
「そ、そうだよねおにぃ………あ、充!」
僕をお兄ちゃんと呼びそうになり、ハッとして訂正する。
僕は「気にしてないよ」とだけ言って冷たく重い扉を少しだけ開ける。
開けた隙間から僕と乃亜は覗き込むように見て陽斗君を探し始めた。
「あ、いたよ空木君!」
「どこにいた」
「左奥のバスケゴールの下の………」
「あ、見つけた!」
二人とも見つけられ、陽斗君を見ながら和気あいあいと喋っていた。
スゴイなぁ陽斗君。あんなにも輝いていて。
そういえば今日の料理当番は乃亜だったっけ。
帰ったら手伝って飛び切り美味しいのを作ってあげようと思うのだった。
2週間投稿してなくて申し訳ないです。
中々納得いくのが書けず、あれでもないこれでもないと何度も書き直していたら2週間投稿出来てませんでした。