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ぼくらの暮らしは前途多難!?  作者: 波夜彩月
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弥音と陽斗

4月7日。陽斗君が来てから5日も経過した。

あれから皆ともある程度打ち解けて話せているようだ。

ただ一人、出雲弥音を除いて……


さて、今日は入学式がある。

かく言う僕はのんびりとリビングにあるソファに座ってゆっくりしている。

確か弥音は朝から軽音の練習があると言っていたな。

まあ校歌斉唱の時に吹部と軽音が伴奏するから、それの練習だろう。

今の時間を確認しようと思い、時計の方を見ると針は5時40分を指していた。

リビングにいても暇だなーと思いながらテレビを着ける。

この時間はどこもニュースしかやっていなかった。

当番については3日から陽斗君も追加して6人で回しながらすることになった。

今日の当番は料理が陽斗君、洗濯は僕と弥音で掃除は乃亜、そして買い出しは天津先輩だ。

洗濯については、男女分けてすることになっている。

まあ弥音が無理そうだったら乃亜に無理やりでもさせるか。僕がやるのはダメだしね。

テレビを付けてすぐだが、僕は洗濯をしようと洗面所へ向かった。

中に入ると男女別の籠があり、その中には衣類が入っている。

男子の方の籠を取って洗濯機の中へ放り込み、回し始めた。

多分弥音が起きてくるのは6時半くらいだろう。

その頃にはまだ終わらないと思う。

これについては俺の時間配分のミスだ。乃亜にやらそう。

とりあえずやることを済ましたのでリビングへと戻った。

リビングに戻ろうとドアを開けたら、陽斗君がすでに起きていた。


「おはよう陽斗君」

「あ、おはようございます充先輩」


彼をよく見ると片手には包丁を持ち、もう片方の手はにんじんを抑えていた。

キッチンに乗っかっている材料を見ると、卵、豆腐、ベーコン、ブロッコリー、それと鮭。

多分作るのは味噌汁と目玉焼き、もしくはスクランブルエッグに鮭の塩焼きかな?


「作るの手伝おうか?」


パッと見一人でも作れるものだが、調味料がどこにあるとかわからないだろう。

だから教えるついでに作るの手伝いもしようとしたのだが


「大丈夫ですよ。葵衣先輩に調味料の場所とかすでに教えてもらってるんで」


断られてしまったか。

というか葵衣先輩がそこまで教えてくれるとは、本当に仲良くなったことで。


「わかった。楽しみにしてるよ」

「腕によりをかけて作るんで!」


一言彼がそう言うと僕はソファに再び座った。

それにしても、彼の理解力には予想外だ。

たった一言、ましてや日常的に使う言葉なのにすぐに意味を汲み取ってしまう。

とても目を見張るものがある。

テレビでも見ながら陽斗君と談笑していると、時間は6時半を回っていた。

階段の方からドタドタとうるさい音が聞こえてくる。

うるさい音を出した張本人はリビングのドアを思い切り開くなり


「朝食できてる!?」


と飛び込んできた。

制服を慌てて来ていたのか、少しグチャグチャになっている。


「今陽斗君が作っている最中だよ」

「え?」

「あ、もう少しで出来ますので待っててください!」

「……え、あ……うん。」

「それと、制服がグチャグチャになってるよ。弥音」

「あ、ホントだ」


僕が手を招くとこちらへやってきて、目の前で立ち止まった。

そして制服を整えてあげる。

それにしても……

あれから何回か陽斗君と弥音が話す機会は合ったが、どうもまだダメらしい。

弥音曰く、「輝きすぎて距離感がわからない!」とのこと。


「少しは陽斗君との会話を成立させたら?同じ家に住む者同士だろう」

「だ、だってぇぇぇぇ……」

「はぁ、仕方ない」


僕は肩を落とし、弥音の頭を撫でた。

一応言っとくが、僕と弥音は付き合っていない。

弥音とは中学からの友達というだけで、特になにかある訳ではない。

弥音の表情を見てみると、本当に気を楽にしているのがわかるくらい顔が緩んでいる。


「やっぱり充に頭撫でられるのは最高だよ」

「僕は辞めたいけどね」

「なんでよぉ、これからも撫で続けて」

「お前、好きな人が出来た時苦労するぞ」

「私には充がいるからいいもん♪」

「僕が良くないんだよ」


僕らがそうやって会話していると、テーブルの方からコトッとお皿を置く音が聞こえた。

どうやら作り終わったようだ。


「弥音、朝食できたようだよ」

「本当!?やったー!!」


弥音は目を輝かせてテーブルの方へ行き、自分の席に座った。

僕も肩をすくめながら席に着いた。


「いただきます」

「いただきまーす!」


出されている品は大体予想通りで白米、味噌汁に目玉焼き、それから鮭の塩焼きだった。

最初に鮭を食べようと小さく切って口の中に放り込んだ。


「え、美味い……」

「とっても美味しい!」


弥音もおお喜びだ。

気持ちはわかる。とっても美味しい。

僕には作れないよこんなに美味しいの。

僕らは箸を止める手を知ることなく、次々に食べていった。

そろそろ食べ終わるだろうという頃に、陽斗君が他の人の分のお皿も持ってテーブルの方へ来た。


「気に入っていただけたようで何よりです!」

「どれも美味しかったよ!弥音もそうでしょ」

「………うん」


やっぱり、いざ対面でとなるとまだ難しい。

陽斗君も理解してくれているのか、苦笑していた。

ごめんと目で言うと、大丈夫ですよと返してくれた。

流石に弥音にはバレないようにアイコンタクトで。

彼の理解力は本当に凄い。

今一度そう思い知らされた気分だ。


「弥音、そろそろ行かないと間に合わないんじゃない?」


時計を見ると6時55分になっていた。

弥音は慌てた表情になったと思ったら、またさっきのようにスンとしたような顔になって


「…………行ってくる」


と一言だけ残し、学校へ行ってしまった。

残された僕らは顔を見合わせて笑い合った。


「出雲先輩って、普段はあんな感じなんですね」

「まぁ、そうだね」

「何か理由でもあるんですか?」

「それは……」


弥音がああなった理由。

それはもちろんある。

だが果たしてそれは話してもいいものだろうか。

ましてや、弥音の許可も無しに……


「別に言いたくないなら、それでもいいですよ。俺は仲良くなれればいいので」

「………ごめんね」

「気にしないでください」


彼はとことん優しい人だ。

理解力も高く、不用意に人の深いところに触れようとしない。

だからこそ彼にも疑問が生まれる。

どうしてそこまでわかってしまうのか。

今はまだ聞くような時期ではないけど、いずれ彼には越えなければいけない壁になってしまうのかもしれない。


「そろそろ皆さん起きてくる時間ですね。充先輩も洗濯物を干してきたらどうですか?もう終わってると思いますよ」

「それもそうだね」


僕はふと生まれた疑問を考えないようにし、洗濯物を回収し干し始めた。

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