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ぼくらの暮らしは前途多難!?  作者: 波夜彩月
3/8

歓迎会

午後3時30分。俺と葵衣先輩はこの付近の案内と、ついでに買い出しをしに近くのスーパーまで来ていた。


「買い出しって、何を買えばいいんですか?」

「今日はあなたが新しく入居したんだからその歓迎会だよ」

「えぇ!?」


俺が驚いたような声を出すと、先輩は鋭い眼光で睨んできた。

俺また何か先輩に対してヤバいこと言っちゃったかなぁ。


「なに、なんか不服なの」

「そんなわけないですよ!」

「というか、あなたがどう思おうと関係ないけどね」

「なんでですか?」

「この歓迎会は毎年恒例なのよ。いつもやってることだから」


毎年、つまり先輩たちもこの歓迎会をしてきたんだ。

伝統だから、という理由だけだったら今も続けようなんて思わないだろう。

自分たちがしたい、してあげたいと思わなきゃ開かないはずだ。

充先輩を見て思ったけど、この人もなんやかんやで優しいし、温かい場所で良かった。


「そうなんですか」


客観的にも俺は元気が良いと思っている。

だけど、今は元気よりも温かさが勝り俺も優しい気持ちになった。

久々にこんな気持ちになったな……


「その、先程はごめんなさいね」


俺が感傷に浸っていると葵衣先輩が急に謝ってきた。

唐突だった為理解が追いつかなかったけど、何に対してかすぐにわかった。

買い出しに出る前に葵衣先輩がどこかに電話をしていた。

会話の内容から学校であり、俺が今日入居することについての連絡が来ていないことに対する問い詰め。

多分その事だろう。

先輩の顔を見ると少し申し訳なさが伺える。


「別に先輩のせいではないですよ。先輩が思い詰める必要はないです。それに、本当に謝んないといけないのは俺の方ですから」


俺がそう言うと、葵衣先輩は優しい表情になった。

と思ったら自己紹介のときのような感じに戻って一言。


「本当よ!うちの下着姿見たんだから!」

「わあーー!!!こんなところで堂々と言わないで下さい!」


流石に公衆の面前でヤバいことを言い出したので大声で止めに入った。

先輩も周りの目がある事を思い出したのか顔が、というか耳まで赤くなっている。


(なんだ、先輩にも可愛いとこあるじゃん…)


俺はふとそう思った。




陽斗君と遠江先輩が買い出しから帰ってきたので食材を受け取り、僕は台所へと向かった。

歓迎会で出す料理は毎回決まっていて、作るのも簡単だから楽ではある。

その反面、食材を煮込むから時間がかかってしまうけど。

とりあえず鍋に水を入れて、下処理を済まして鍋の中に放り込んで。

ひとまずこれでいいかな。

時刻は4時50分。いつも夜ご飯は7時だから6時半くらいになったら続きをすればいいだろう。

僕は料理をする手を止めて手を洗い、リビングの方に歩を進めた。

さっき買い出しから帰ってきた2人がまだ言い合いをしている。

出会って初日なのにここまでこうも息が合うとは凄いもんだ。


「2人とも仲がいいね」

「なんで陽斗なんかと仲良くなんなきゃいけないのよ!」

「俺は仲良くなりたいですよ?」

「あんたは黙ってて!!」

「あっはは!本当に仲良くなってるじゃん!」

「本当ですか!!」

「違うわよ!はぁ、なんか疲れたから部屋に戻るね」


そう言うと遠江先輩は自分の部屋の方に行ってしまった。

残された僕と陽斗君はリビングにあるソファに座って少し落ち着いた。


「充先輩、ありがとうございます」


陽斗君がおもむろに言葉を放った。

この静まり返った空間には十分に響き渡り、持て余した空間さえもが温かく包み込まれる感覚になった。


「今日の買い出し、わざと俺と葵衣先輩に行かせましたよね」

「……」


陽斗君の言葉に僕は無言で返した。

実際、2人を買い出しに行かせたのはわざとだ。

本人はあまり気にしていない様子だったけど、遠江先輩が学校に電話しているのを僕は聞いてしまった。

あの人もあの人なりにがんばって仲良くしようとしているから。

なら僕はちょっとしたキッカケを与えるだけでいい。


「無言は肯定と受け取りますからね」

「否定したって、認めようとしないでしょ?」

「わかってるじゃないですか」


そのまま陽斗君と談笑し、6時半になったので料理を再開した。

陽斗君は手伝うと言ってくれたけど、荷解きもあるだろうから部屋に案内してあげた。

7時に近づくにつれ、皆リビングに集まってきた。


「わぁ!いい匂い!」

「一番乗りは乃亜か。手伝え」

「えー、お皿出すだけでいい?」

「それだけでいいよ」

「はーい」


乃亜も渋々ながら手伝ってくれたおかげで予定よりも早く準備が終わった。

皆ももう各自席に着いている。


「なんとなく買った食材でわかりましたけど、カレーなんですね」

「もしかしてカレー苦手だった?」

「いえ、そんなことはないです。むしろ好きな方です」

「なら良かった」


僕と陽斗君で話をしていると、その隣で天津先輩と乃亜が言い争いをしていた。


「歓迎会と言ったって、普通に夕飯食べるだけだけどな」

「そんなこと言わないでくださいよ天津先輩」

「事実だろ」

「いやまあそうですけど!」

「はいストップ」


遠江先輩が止めに入ると、2人とも黙った。乃亜は申し訳なさそうに、天津先輩は非を認めない表情で。

空気が少し悪くなってしまったから、それを気にしないかのように僕は進めよう。

このまま停滞でも時間の無駄だから。


「それじゃあ始めようか」

「そうだね」


遠江先輩も同意してくれたし、弥音も頷いている。

なら始めても大丈夫だね。


「というわけで、空木陽斗君これからよろしく〜!いただきます!」


僕がそう言うと皆も合掌した。

乃亜からはもっといい言葉あったでしょと言われたが…

ひとまず皆笑顔で食べているからOKかな

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