シェアハウス
「それで、あなたは一体誰ですか?」
今の時刻は7時。朝はまだ始まったばかりなのにリビングの空気は重い。
流石この時間には全員が集合し、各々がソファに座っている。
「それは僕から説明するよ。彼は今日からこのシェアハウスで暮らすことになったんだ」
「新しい入居者だったんだ…」
「あの、さきほどはすいませんでした」
「まぁこれについては学校側が悪いからね。あなたが謝ることではないわ」
お互いが少し和解したことで空気が軽くなった。
ちなみに朝食はまだ食べていない。さすがにあの空気の中で食べれる気はしなかった。
「まあ空気も軽くなったことだし、自己紹介でもしたらどうだ?」
「それもそうですね」
「んじゃまあ俺から。俺は天津凪、3年で演劇部だ。よろしくな」
「なら次はうちが。うちは遠江葵衣。茶道部で凪と同じく3年生だよ。次はもうないと思ってね」
「は、はい……!」
先輩たちが少し圧を含めた自己紹介をしたせいで彼が萎縮してしまった。
なにやってくれてんだよこの先輩たち……!
「まったく、先輩たちは……。わたしは早乙女乃亜。2年生だよ!部活は入ってないけどね……」
「じゃあ次は僕か」
「え?充まだ自己紹介してなかったの?」
遠江先輩が何も知らぬ顔をして僕に言ってきた。
あなたたちのせいで今こうなってるんですけどね!
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか」
「学校のせい」
「………否定できない」
「腹へったから早くしてくれ」
「アッハイ。僕は篠崎充。乃亜と同じく2年で部活入ってないよ」
僕の自己紹介も終わったところで、もう一人紹介しようと思ったけど、乃亜の後ろに隠れていてどうにも発言できそうにない。
やっぱり、まだ無理なようだ……
「乃亜、お願いだけど」
「わかってるよ。彼女は出雲弥音。わたしたちと同じ2年生で軽音楽部なの。弥音とも仲良くしてくれると嬉しいな」
「それはもちろんです!」
「なら良かった!」
「その…よろしく………おねがい、します。」
「はい!よろしくお願いします!」
彼が大きな声で返すと、弥音は体をビクッとさせてより一層縮こまってしまった。
僕らのときもそうだったから、これから彼にはがんばってもらおう。
「そういえば、あなたの名前は?」
「あ、そうでした。俺は空木陽斗って言います。1年でバスケの特待で来ました」
バスケの……特、待?
僕の頭の中が思考を停止しようとしたら天津先輩と遠江先輩が聞き返していた。
「ちょっと待て、陽斗。君、バスケの特待と言ったか?」
「はい、そう言いましたが……」
「空木君、あなたが今凄いことを言ってるのわかってる?」
「………え?」
なぜ聞き返したのか、その理由を僕たちはわかっている。
むしろ、陽斗君の表情からしてこれがどんなに凄いことかわかってない方が珍しいほどに。
僕たちが通っている学校、私立天賀谷高校。
特に勉強が優れているとか、文化部が優秀な成績を収めたとかそういうのはないが、なぜかバスケ部だけは全国大会常連の強豪だ。
そんなうちの高校でバスケの特待がどれだけ凄いことか……
陽斗君以外の皆の顔は呆気にとられていた。かく言う僕もそうだ。
「あの、皆さんどうしたんですか?」
「あ、いやーな……」
天津先輩が困ったような表情で言葉を濁した。その気持ちもわかってしまい、僕は下を向いてしまった。
「気軽に空木くんなんて言えないね…」
乃亜が発したその一言に皆そう思っていたのか、僕らは同意した。
ただ一人を除いて。
「え、いや早乙女先輩!?それに皆さんも頷いて、なんでですか!?」
「陽斗、いいか?この学校はバスケが全国大会常連と、とにかく凄いんだ。そんなうちの学校でバスケの特待だなんて……お前、このやばさがわかるか?」
天津先輩が乃亜の発言に同意したのに陽斗と普通に呼んでいることはさておき、今の説明でどれだけ凄いことか彼も理解したようだ。
「そんなに凄かったんだ……。あ、でも気にしないでください。俺も今日からここにお世話になるので、なんかこう距離ができるのは寂しいですから。なのでいつも通りの感じでお願いします。その方が俺も気が楽ですから」
そう陽斗君が表情が少し曇った感じでいうとこっちがかえって申し訳なく感じてしまう。
陽斗君からしたら高校、ましてやシェアハウスなんて見知らぬ世界なんだ。
僕らがこうなのは逆にダメだな。
「ごめんね陽斗君。ただ、そういうつもりじゃなかったというのはわかってほしい」
「大丈夫ですよ。多分俺も先輩たち側なら、同じ行動を取っていたと思うので」
皆の表情が戻ったことだし、さっさと朝食を作ってしまうか。
「ひとまず落ち着いたので朝食作っちゃいますね」
「よろしくね〜」
「今日乃亜は洗濯当番だぞ」
「うげ、ダルい〜」
そうして皆で談笑を楽しみながら朝食を食べた。