小さな子
魔法軍に入り約1ヶ月が経過した。
この間、借りた部屋も生活感が出始め、トウヤのガラクタが増え始めた。
お金は毎日、地道にミッションをこなすことでそれなりに困らなくなっていた。
お金に関してはニムリスに返す必要があるため、あまり派手に使えないが。
今日はニムリスに旅で借りたお金を返す日である。
トウヤと二人で待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせ場所に到着し、先にいたニムリスに声をかける。
「やあ、久しぶり。早速お金返しに来たけどいくらだったかな?」
「一人45,000Gよ。払える?」
財布から45,000Gを取り出しニムリスへ渡す。
トウヤも財布からお金を取り出すが明らかに金額が足りない。
トウヤが口をひらく。
「に、20,000Gにまけてくれないかな?旅の仲間だったって事でさ。」
ニムリスが怒りながらトウヤに話しかける。
「1Gもまけないわよ!なに?お金持ってないの?」
「わ、わりい。返すことあんま気にしてなかった。」
「あんたねぇ、計画性ってものがあるでしょ?」
トウヤがニムリスにネチネチと怒られる。
思い出したというような表情でニムリスが口をひらく。
「そういえば、あんたたち連帯責任よね?キッドが払えるなら勘弁してあげるけど。」
自分は苦い表情をしながらニムリスに声をかける。
「また、1ヶ月後とかに返すとかどうかな?俺も家賃とかでお金取っておきたいしさ。」
「あんたらの都合なんて知らないわよ。残り払えるの?払えないの?」
正直払えないことはないが、本当に家賃を払うお金しか残らない。
また一文無しに逆戻りとなってしまうが、ここは仕方がない。
トウヤの払えなかった分をニムリスに支払った。
ニムリスが口をひらく。
「確かに。返して貰ったわ。ところであんたたち魔法軍入ってどうなの?私は2等兵にはなれたけど。」
トウヤが口をひらく。
「俺は1等兵スタートだぜ!戦術知識試験さえ受かればもう小隊長だ。」
「へえー、なかなかやるわね。あんた強かったしね。納得できるわ。キッドは?」
自分は少し笑いながら返事をする。
「俺は3等兵スタートだよ。まあ、実力通りって感じだな。」
「まあ、頑張りなさい。魔法使えなくても鍛えたら戦闘技術試験は合格できるんじゃない。」
「いやいや、まじで俺、戦闘と無縁な生活してるからきついって。」
ニムリスが少し寂しそうな表情をして口をひらく。
「これからはお互い別々になるのね。ミッションで一緒になることがあったらまたよろしくね。」
自分がニムリスに声をかける。
「いやいや、また一緒に行動したらいいじゃないか。ダメな理由あるの?」
ニムリスがまた寂しそうな表情で口をひらく。
「実はね、最近親が倒れちゃってね。急遽実家の手伝いもしなきゃいけなくなったの。魔法軍は続けるけど、実家の手伝いもあるから、また一緒に旅をするのが難しくなったのよ。」
自分は何か話したそうにしていたトウヤの口を塞いでからニムリスに声をかけた。
「それは大変だね。寂しいけど、実家のことも大事だしね。まあ、また会う事があったらよろしくね。」
そう声をかけてニムリスと別れる。
さっきトウヤが話したそうにしてたので、何を話そうとしていたか聞いてみる。
「お前さ、さっきニムリスになんて声かけようとしてた?」
「いや、まあ、それなら俺たちも協力するから一緒に連れてけって言おうとした。」
「バカお前、家族の問題ってそんな簡単じゃ無いって。赤の他人が踏み込んだら良くないこともあるんだぞ?」
「わりい。」
「お前が優しいのはわかってるけど、少し空気読む事も覚えような。」
「本当キッドは大人びてるよな。なんか大人の人に怒られてるみたいだ。」
そうして自分とトウヤはギルドハウスへ向かう。
二人とも戦術知識試験を受けてから1ヶ月が経過したので、また受験することができる。
今日は試験を受ける事が目的だ。
トウヤが不安そうに口をひらく。
「いやー、心配だ。受かるかな。」
「問題次第だな。地理は暗記したか?暗記問題は確実に取りたいところだな。」
実際のところ自分もだいぶ緊張している。
1ヶ月試験勉強をしてきたと言えど、本番の雰囲気は独特のものがある。
雰囲気にのまれないようにしなくては。
試験の受付を行い、試験開始を待つ。
トウヤと最後の追い込みをする。
「トウヤ、問題出していいか?」
「おう、良いぞ。」
「じゃあ、軍隊の編成で後衛の役割を答えよ。」
「えーと、確か前衛の補佐及び前衛が倒れた時の救護、または代理だったかな。」
「正解。良い感じだな。」
「次いくぞ」
しばらくお互いに問題を出し合い、受付からアナウンスされる。
「キッド様、トウヤ様、試験の準備が出来ました。」
二人で試験会場へ向かう。
試験会場は相変わらず独特の雰囲気だ。
受験者は自分とトウヤだけのようだ。
試験が開始される。
自分は順調に問題を解き、合格出来るであろうという出来映えだろう。
問題はトウヤだ。
時々唸り声が聞こえ、だいぶ悩んでいるようだった。
そして試験が終わる。
試験が終わり、トウヤが口をひらく。
「いやー!緊張した!」
「なんだ、声が明るいな。自信あるのか?」
「いや、終わったー!と思って。」
「はは、その解放感わかるよ。」
その後自分とトウヤは簡単なミッションをこなしてから家に帰る。
家に着き電気ケトルでお湯を沸かし、コーヒーを入れる。
トウヤにコーヒーを出す。
トウヤがコーヒーをふーふーしながら話しかけてくる。
「キッドってやっぱり頭良いよな。レイジも頭良いと思ってるけど、勉強対決なら勝てるんじゃない?」
「どうかな?てかまだ試験結果出てないぞ。」
「あんだけ俺に説明してくれるぐらいだから受かってるだろ。」
雑談をしながら夜が更けていく。
翌日、自分とトウヤはギルドハウスへ向かい、試験の結果を確認する。
例のごとく封筒が渡される。
自分はトウヤに話しかける。
「俺から先に開けるか?どうする?」
「お、おう。頼む。」
自分は封筒を開ける。
満点 100 合格点 70 点数 96
96点で文句無しの合格だ。
トウヤが覗きこんでくる。
「やばっ、たっけーな。」
「人のはいいからお前開けてみろよ。」
「わかったよ。心決めるわ。」
トウヤは封筒を開ける。
満点 100 合格点 70 点数 72
72点でギリギリ合格だ。
自分はトウヤにハイタッチをする。
「やったな!合格おめでとう!」
「ありがとう!まじで緊張したよー!」
「これで小隊長誕生だな!」
早速結果を受付へ報告する。
「おめでとうございます。トウヤ様は小隊長。キッド様は2等兵のバッチが与えられます。」
自分はニコニコしながらトウヤに話しかける。
「やったな!これでBランクのミッションも受注できるな!」
「おうよ!骨があるミッションやりてえなあー。せっかくだから一緒にミッション受けないか?」
「でも俺、Cランクだけど良いのか?ってか、あれか。トウヤがBランクで隊長やって俺が普通に参加するってやつか。」
「そうだ。そう言うミッションあるだろ?」
そのような話をしながらミッションを探す。
トウヤが声をかけてくる。
「これなんてどうだ?」
Bランク ヤンクルル市外 小型モンスター討伐指揮官
それを見て自分もCランクミッションを探す。
「小型モンスターっと。お、あった。これだな。一緒に行くか。」
お互いにミッションを受注する。
自分はニヤニヤしながらトウヤに話しかける。
「これ、あれだろ。自己紹介するやつだろ。楽しみだなー、小隊長の挨拶。」
トウヤもニヤニヤしながら返事をする。
「よせやい、おもしろがってるだけやんか。」
どこか嬉しそうだ。
時間になったので自分達は受付へ向かう。
そこには自分とトウヤを含めて4人がいた。
早速出発の挨拶だ。
トウヤが口をひらく。
「お、俺が小隊長になりましたので、みんなを連れてミッションを行う。今日は怪我の無いように頑張って下さい!」
他のメンバーがクスリと笑う。
当然自分も笑った。
馬車で郊外へ移動する。
移動中の馬車の中でニヤニヤしながらトウヤに話しかける。
「小隊長、なかなか言葉がちぐはぐな挨拶だったじゃないですかー」
「うるせー、初めてだったし仕方ないだろ。」
メンバーの1人、40代ぐらいの男性がトウヤに声をかける。
「君、若いのに小隊長か。立派なもんだね。」
トウヤが自慢気に返事をする。
「まあーな、実力ってやつだな。」
男性もそれに返事をする。
「若いぶんやる気があるのかも知れないけど、生き急ぐんじゃないよ。上に上がるほど戦死するリスクも上がるってもんだからね。」
トウヤが大人しくなる。
その男性はそれ以上は何も言わなかったが、優しそうな眼差しでトウヤを見つめていた。
そんなやり取りがありながらもミッションは順調に進み、後は帰るだけという時間になった。
その時だった。
自分は遠くを指差しながらトウヤに話しかける。
「おい、あれ、幼女がモンスターに追いかけられてないか?」
トウヤが目を凝らす。
「確かに、小さい女の子が追っかけられてるな。ありゃデカイガルかな?」
トウヤに話しかける。
「見つけちゃったもんだから助けに行くしかないなこりゃ。」
「どうせ俺が行くんだろ。わかったよ。」
トウヤは颯爽と中型のモンスターに向かって行く。
遠くから電撃を食らわし、モンスターの視線がトウヤへ向かう。
突進してくるモンスターにパンチやキックで連撃を繰り出す。
モンスターは少し後ろに弾き飛ばされるが、すぐに体勢を立て直しトウヤへ向かってくる。
トウヤはモンスターに向かって2メートル程上空にジャンプをして、そこからモンスターの頭部に電撃を纏ったかかと落としを食らわす。
中型のモンスターは動かなくなり、トウヤが戻ってくる。
そこでトウヤに声をかける。
「さすが俺の子だ。よくやった。」
「誰がお前の子だよ。まあ、こんなもんだろ。」
すると幼女がこちらに向かって走ってくる。
「あのっ、ありがとうございます。危ないところを助けて頂いて。」
見た目はホビットだろうか。耳は確認出来ないが身長は130センチぐらいだろう。髪色は濃い目の黄色。髪型はショートボブだろうか。ずいぶんと可愛らしい。
幼女が声をかけてくる。
「あのっ、もしよかったら帰りの馬車に乗せてもらえませんか?迷子になってしまって。」
トウヤに確認を取る。
「トウヤ、どうする?」
「まあー、良いんじゃない。」
幼女が馬車に乗り込む。
自分は幼女に質問する。
「こんなところで何してたの?危ないしょ?」
「素材を集めてまして。」
「素材かあ、売ったりしてお金にしてるのかい?」
「いえ、私の趣味です。」
「面白い趣味だね。君、名前は?」
「あ、ミューと申します。」
「ミューちゃんか。街には親御さんとかいるのかな?」
「いや、私一人暮らししてます。」
「一人暮らし。え、君いくつ?」
「18歳です。見えませんよね?自覚してます。」
8~10歳くらいの幼女かと思っていた。思ったよりお姉さんだった。
そのミューと名乗る女の子を連れて街へ戻る。
街へ戻り例のごとくトウヤが締めの挨拶をする。
「えー、今日は初めての小隊長としてのミッションでしたが、何とかなりました。えー、まあ、ありがとうございました。」
少々歯切れの悪い挨拶だったが無事にミッションを終える事が出来た。
あとはミューが無事に帰ってくれれば今日は無事に終了するところである。
締めの挨拶の時もそうだが、なぜかミューも一緒にミッションをしてきたかのような立ち振舞いで、ミッションが終わった後もそばから離れない。
そこでミューに声をかける。
「君は家に帰らないの?」
「私の心に電撃が走ったの。」
「は?」
そのセリフの意味が分からなくて思わず首をかしげる。
ミューはもじもじしながらトウヤに声をかける。
「あなたがモンスターを倒してくれた時、私の思考回路と心が化学反応を起こしたわ。そう、これはクローン力が働いた瞬間。カシミール効果と言ってもいいわ。」
トウヤが困り顔で返事をする。
「あのー、何いってるか分からないんですけど。」
ミューが勢い良く両手を広げて話し出す。
「分からなくてもいいわ。粉粒体のメカニズムを解明するくらい難しく、一桁の足し算を解くくらいに簡単な事よ。気付かれなくてもいいの。私にとってメラビアンの法則の55%に貴方が刺さり、38%も知ることが出来た。知らない事はあと7%だけ。スタージジョンの法則に従えば則ち貴方はその中の10%と言ってもいいわ。それに、」
自分は思わず会話を遮る。
「ちょっと待て!マジで何言ってるか分からないよ。」
ミューが不機嫌そうにこちらを見つめて話しかけてくる。
「別にあなたに言ってる訳じゃ無いんだからね。私はトウヤ君に言ってるの。」
自分は少し声が大きくなる。
「だから何言ってるか分からないんだって!こっちは家に帰らないのかって聞いてるだけだって!」
ミューはまた不機嫌そうにこちらを見つめて話しかけてくる。
「この上なく分かりやすく私の気持ちを表したつもりなのですよ。乙女心って物が分からないのですか。」
トウヤは困惑している。
そこで自分はミューに対して冷静に話しかける。
「申し訳ないんだけど、俺たちはミッションが終わって家に帰るの。だからあなたも家に帰りましょうってこと。分かるよね?」
「分かりますけど、この出会いを棒に振るのは癪です。トークストーン持ってるならトウヤ君の符号教えてくれませんか。」
自分はトウヤに視線を移すが、トウヤは全力で手を横に振り拒否している。
その様子をミューに示し、声をかける。
「ダメだってさ、悪いんだけどさ、そう言う事だからお家に帰ってくれないかな?」
ミューが上を見上げながら話しかけてくる。
「それなら仕方ないですが、お連れの方の符号でも良いから教えてくれませんか。そうすれば家に帰るのです。」
自分は正直嫌だと思いつつ、このままじゃ埒が明かないと思い、教える事にした。
「分かったよ。その代わりあんまり頻繁に連絡して来ないでくれよ。」
ミューがキリっとした表情で話しかけてくる。
「私が気持ちを伝えたいのはトウヤ君ですからね。あなたにも感謝はしていますが、そこのところ勘違いしないでほしいのです。」
自分は呆れながらミューに声をかける。
「分かってるよ。よく分からんけど分かった。そしたら俺らは家に帰るからね。」
そして、自分とトウヤはミューと別れ、無事に家に帰ることが出来た。