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初ミッション

受付の女性へ声をかける。


「すいません、入っていきなりなんですが、戦術知識試験って受けられますか?」


「はい、可能ですよ。試験は毎日やっておりますので、必要事項を受験申込書に記載して下さい。」


「戦術知識試験っと。」


結局、自分も受けてみる事にした。


受ける事でどれくらいのレベルなのか把握できれば次回から対策が打てると思ったからだ。


トウヤ、ニムリスと合流する。


ニムリスが口をひらく。


「私も魔法技術試験受けてみようかな。合格したらラッキーだしね。」


トウヤが口をひらく。


「おう、等級上がったらラッキーだしな。」


受付からアナウンスが流れる。


「トウヤ様、魔法技術試験の準備が出来ましたので受付までお越しください。」


トウヤが右手を上げ、受付へ向かいながら口をひらく。


「ちょっくら行ってくるわ。」


それにしても試験の準備が早い。


試験官が常駐しているのだろうか。


自分の受ける戦術知識試験まではだいぶ時間があるので、ひとまず街を見て歩く事にした。


「ニムリスも街見に行くか?」


「いや、私も試験受けるからここに残るわ。」


自分は一人で街に繰り出した。


そうは言ったものの何処へ行こうか。


特に目的なく街を歩いているとある建物が目に写る。


家貸家(いえかしや)


何の気なしに入ってみる。


「こんにちはー。」


「らっしゃい!」


そこには屈強な老人、ドワーフと思われる老人が威勢の良い挨拶で出迎えてくれた。


「家探しかい?家賃はどれくらいとかあるかい?」


「えっと、ちょっとどんな所か見学しに来ました。」


「そうかい、そこにカタログあるから見ていきな!」


カタログを見てみる。


そこには1LDK、2LDKなど、現実世界でも見覚えのある見取り図が並んでいた。


価格帯は月35,000Gから80,000Gとバラツキはあるが、通貨の単位が現実世界と同じなら妥当な金額だ。


店員が声をかけてくる。


「べつにカタログ持って帰ってもいいんだからね!」


屈強な老人の野太い声でツンデレを出されたら微妙な気分になるからやめて欲しい。


部屋の間取りを見るのは嫌いじゃない。


しばらくここで時間を潰して、試験に備えることとした。


そして試験時間が近づき、ギルドハウスへ向かう。


「さてと、トウヤやニムリスはいるかな?」


ギルドハウスを見渡しても二人の姿は見えない。


そうしているうちに受付から声をかけられる。


「キッド様、戦術知識試験の準備ができました。」


会場へ案内される。


そこは少し小さめな教室のようだった。


受験者は自分の他に二人いるようだ。


試験時間は50分。合格点は70点以上との事だ。


試験官が合図をする。


「戦術知識試験 開始!」


第一問

ポーションは使えば使うほど効果がある。これは正しいか。


これはトウヤに使った時に経験済みだ。


答えは✕


第二問

弓の長所と短所を答えよ。


これは、長所が遠距離から攻撃ができる。短所が近接に弱いだろうか。


第三問

黄ノ国の総括が治めている都市の名前を答えよ。


これはまだ行ったことの無い都市だからわからない。


第十四問

5人でパーティーを組んだとき、基本型は前衛が何人か。


なんとなく2人だろうか。


第三十問


サリノ町は黄ノ国の統治下か。


わからない。地理の問題はさすがに無理だ。


解き進めていくが、やはり初受験で勉強もしていないからさすがに難しいというのが印象だ。


試験官が合図をする。


「終了!答案用紙を裏にして退席してください。」


試験が終わった。


まあ、良い経験になったのではないのだろうか。


自分は退出後、受付の女性へ質問する。


「あのー、戦術知識試験って勉強用のテキストとかあるんですか?」


「本屋さんに売ってますよ。」


なんと良心的なのだろうか。


試験対策の本が普通に売ってるなんて現実世界とあまり変わらない。


これなら合格も夢ではない。


試験も終わりトークストーンでトウヤと連絡先を取る。


「もしもし、トウヤか?」


「おう、そうだ。」


「今どこにいる?」


「んー、月が見えるな」


「いや、そりゃ俺も見えるわ。近くに何がある?」


「宿屋があるな。ギルドハウスから北に歩いたほうだ。」


「じゃあそっち向かうわ。」


宿屋のある方向へ移動しトウヤと合流する事とした。


時間は夜。宿屋が近くにあるのは都合が良い。


トウヤと合流したら宿屋に行こうと思う。


そしてトウヤと合流する。


「おーい、キッド!俺、試験合格したからもう2等兵だ!」


「おー、やるな!結果ってすぐ出るんだな!」


「明日は戦闘技術試験受けるぜ!」


「とりあえずがんばれ!宿屋に入らないか?」


ここでふと思う。今までニムリスからお金を借りていたからお金って持っていたかと。


「トウヤ、お前金持ってるか?」


「1Gも無いよ?」


「今日も野宿か。」


試験なんて受けている場合ではなかった。


ミッションをこなして資金確保が先だった。


後悔しつつも、野宿でその日は過ごすこととした。


翌日、トウヤと朝イチでギルドハウスに向かい、自分はミッションの受注。トウヤは今日も試験に挑戦するようだ。


自分は受付へ向かいミッションを受注しようとする。


「すいません、ミッションを受注したいのですが。」


「3等兵様ですね。今ならこちらがあります。」


ミッションを眺める。


ヤンクルル市内 清掃活動 4時間予定 報酬2,400G


ヤンクルル市外 小型モンスター討伐 7時間予定 報酬3,500G~7,000G


ウボワル町 治安維持警備 7時間予定 報酬5,600G


少しまとまったお金が欲しいから治安維持警備にしようと思う。


「すいません、この警備にしたいのですが。」


「承知致しました。それではパーティーが確定しましたら出発致しますので9:00にこちらへお越しくださいませ。」


9:00までは一時間ほどある外に出ても良いが何せお金が無い。


仕方なく待機することとした。


「キッドさんはいらっしゃいますか?」


まだミッションの時間ではないが受付に呼ばれる。


受付へ向かってみる。


「戦術知識試験の結果が出ましたのでお知らせ致します。」


試験の結果が出たようだ。


渡された封筒を開き結果を確認する。


満点 100 合格点 70 点数 36


36点で玉砕といったところだろう。


まあ、勉強無しでの初試験だから仕方がない。


しかし、資格勉強みたいなもので、テキストを購入し、予習・復習を繰り返せば合格できそうな難度に感じた。


現実世界では、簿記2級、漢検3級、危険物乙四、ITパスポートなど色々な資格を持っていたので、この手の試験は勉強すれば合格できるであろうという妙な自信がある。


こうしている間に再度受付から呼ばれる。


「キッド様、間もなくミッションが開始されます。」


案内を受け、受付へ向かう。


そこには自分を含め4人が集合した。


一人の男性が口をひらく。


「私は小隊長のアルバだ。これから君たち3人を引率して隣町のウボワル町に向かい、治安維持警備を行う。よろしく。」


その身なりは筋肉質で騎士という振る舞いだ。しかし迫力の割に年齢は若そうだ。20代前半だろうか。


それぞれ自己紹介を行う。


「私はサリス。よろしくお願いします。」


おっとりとした女性だ。こちらも若く20代前半だろう。


ここで自己紹介を行う。


「私はキッド。初のミッションなのでご迷惑おかけしたらすいません。」


次に最後の一人だ。


「僕はタナカ。戦術知識試験に先日合格して2等兵になりました。よろしくお願いします。」


田中!?


やけに日本人に馴染みのある名前だ。


もしやと思い田中と名乗る細身の眼鏡男子に声をかける。


「タナカ君だっけ?君はもしかして日本人だったりしないかな?」


「日本人?いや、僕は人間だよ。種族とかは混じってないよ。」


やはりこの世界では日本人という言葉は聞き馴染みが無いようだ。


名前は思いっきり日本人なのだが。


自己紹介が終わり、馬車に乗り隣町へ向かう。


みんな世代が近いからか、それなりに雑談が盛り上がったようだ。


自分は若い見た目でおっさんじみた事を話したせいで少し距離を置かれてしまったが。


そんな中ウボワル町に到着した。


小隊長のアルバが口をひらく。


「さて、今日は町の外周と中心部を警備する。基本的にはチームで行動する。何か異常があれば私に声をかけてくれ。」


アルバの指揮の元に警備を開始する。


警備を開始して1時間ほど経過したが特に異常は無く、ただひたすら散歩をしているような状況だった。


川沿いを歩いている時だった。


「うわあ!」


タナカが悲鳴を上げる。


「田中ぁ!どうした!?」


思わず声が出る。


魚に襲われたようだ。


自分はアルバ小隊長に声をかける。


「小隊長!タナカが魚に襲われています!」


「なに?みんなタナカから離れろ!」


そう言うと小隊長は短剣をタナカの右腕に噛みついている魚に振り下ろした。


魚はあっという間に真っ二つになり、タナカも特に怪我が無かったようだ。


タナカが口をひらく。


「ビックリした。魚に襲われるなんて。」


それはビックリするだろう。


魚に襲われるなんてそうそう無い。


タナカが魚に襲われた以外は何事も無く治安維持警備が終わった。


アルバ小隊長が締めの挨拶をする。


「今日はみんなありがとう。町の平和のためにこれからもよろしく頼む。」


初のミッションが終わり、空は日が落ちかけていた。


感想としては派遣労働者になった気分だ。


このくらいのミッションでお金が貰えて生活できるなら魔法軍も悪くない。


自分はトウヤと連絡を取り、合流する。


トウヤに話しかける。


「試験どうだった?」


「もちろん戦闘技術試験も合格だ!もう1等兵だぞ!」


「そりゃすごいな。知識の試験受かれば小隊長か。出世が早いな。」


「キッドはミッションどうだった?」


「まあー、ぼちぼちだな。結構歩いたけど思ったより楽だった。」


そんな話をしながらトウヤに相談する。


「そういやさ、家貸家ってところがあったんだけどさ、この辺拠点にするなら部屋借りないか?野宿もそろそろ卒業したいし。」


「家貸家?部屋借りる?宿屋と違うのか?」


「まあー、ついてこいよ。なんぼか目星はつけてあるからさ。」


自分はトウヤを連れて家貸家へ向かう。


そこでは先日と同じく威勢の良いドワーフの老人が出迎える。


「らっしゃい!部屋探しかい?」


自分は店主に話しかける。


「あのー、今日から入れる物件ってありますか?」


「なんぼかあるよ!ほれ!こっから選びな!」


トウヤと出された物件の一覧を見る。


トウヤが口をひらく。


「一番安いところで良くね?」


「いや、ここはトイレと風呂場が一緒だからダメだ。何より狭い。」


「じゃあ2番目に安いところは?」


「ここもダメだ。収納が少ないし、キッチンが一口コンロしかない。おまけに脱衣場が狭いから洗濯機置くの困るぞ。」


「キッド、お前妙に詳しいな。」


「部屋選びは重要だぞ。なにせ毎日の快適さが変わってくるからな。」


現実世界で社会人成り立ての頃に安い物件に入って苦労した経験がある。


多少なりとも家賃が高くても良い部屋を選ぶという事の重要性は身に染みて分かっている。


ここで自分がトウヤに質問する。


「お前、自分の部屋欲しいか?」


「まあ、欲しいけど見た感じ部屋の数増えると高くなるだろ?めんどくさいからキッドに任せるよ。」


「それなら1LDKでそれなりの部屋選ぶぞ?」


「いいよそれで。」


「トウヤ、これはどうだ?1LDKだけど12畳で収納が広くてキッチンも広い。風呂場は少し狭いけど、脱衣場のスペースあるから洗濯機も十分置けるぞ。当然エアコンもある。」


「いいよそれで。」


「なんか、投げやりじゃないか?せっかく住むところだからちゃんと考えようぜ。」


「だから良いって!屋根あって雨しのげれば野宿よりだいぶましだから任せるって!」


そんなやり取りをしながら月60,000Gの1LDKの部屋にした。


黄ノ国の中心部から離れているせいか、思ったより家賃が安い。


部屋を借りる手続きはさほど苦労せず、早速新しい部屋へ向かう。


トウヤが口をひらく。


「おー!思ったより綺麗だな!いいじゃん!」 


「だろ?これで野宿生活からおさらばだな。俺はまだ家の手続きあるからここにいるけどトウヤはどうする?」


「俺もここにいるよ。どうせ金無いからな。」


今日から借りた部屋で生活できる事になり生活水準はだいぶ上がる。


そして次の日からは簡単なミッションをこなし、新しい部屋を借りて数日が経過した。


自分はトウヤに話しかける。


「そういえば、戦術知識試験はどうだった?」


「俺が真っ先に言わない辺りから気づいてるだろ?落ちたよ。」


「まあ、いきなりだと難しいよな。俺も落ちたし。何点だった?」


「バカにするなよ?…8点だった。」


「まじか。バカにはしないけどヤバイなそれ。一緒に勉強して1ヶ月後合格目指す気力あるか?」


「まあー、受からないと小隊長になれないからやるしかないだろ。」


「それなら一緒に勉強しようか。俺も頑張るからさ。」


「キッドってなんか優しいよな。ぶっちゃけ8点は心折れたけど頑張るよ。」


そしてそこからはトウヤと二人で毎晩勉強会を行うこととなった。


自分はテキストとにらめっこしながらトウヤに問題を出す。


「剣の長所と短所を答えよ。」


「えーと、長所がカッコいい。短所は特に無さそうだな。」


「いやいや、見た目の問題じゃなくて性能だよ。ちなみに長所は近接戦闘において殺傷力が高い。短所は比較的射程距離が短いだな。比較的ってのが大事で、さらに短い武器としてハンマーやナックルがあるな。」


「ハンマーとかナックルとか、別の事言われたらあたまに入らないって」


「詰め込むんだよ、次。主に回復魔法や治療を中心とする部隊をなんと呼ぶか。」


「えーと、エルフ?」


「違う、種族の話しじゃ無いんだよ。答えは救護班。」


「キュウゴハンね、ご飯?食い物か?」


「んー、まあ、自分の知ってる言葉に繋げて覚える方法もあるからな。好きに覚えてくれ、次、魔法の相性で不利な属性の魔法では相手の魔法を打ち破る事が出来ない。これは正しいか。」


「そりゃー、正しいんじゃないの?」


「違う。正解は相手の魔法よりも強力な魔法を使用することで凌駕することも可能。」


「もー、わけわかんね。」


「今日はこんなもんにしとくか。勉強のやり過ぎも良くないしな。」


しばらくは平穏な日々が続き、ひたすら戦術知識試験の合格を目指して勉強を続けていた。

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