黄ノ国
今日はマニタル町を後にして黄ノ国へ向かう。
時間は早朝、天気は快晴。
朝一番の馬車で黄ノ国へ向かう。
トウヤが口をひらく。
「いやー、なんか色々あったけど長かったな。」
「まだ黄ノ国に着いてないぞ。ちょっと気が早くないか?」
ニムリスが口をひらく。
「魔法軍に入れるかなー、正直魔法軍についてそこまで詳しく調べて無いのよね。あ、お金はきっちり返してね。あんた達のためにいくら使ったか。」
自分とトウヤがお互いに小突き合う。
そしてしばらくして馬車のアナウンスがされる。
「間もなく黄ノ国ヤンクルル市、ヤンクルル市に到着します。」
トウヤがわくわくした表情で話し出す。
「ついに来たな!俺の実力を見せつけてやる!待ってろよ黄ノ国!」
馬車がヤンクルル市に到着する。
そこで自分が口をひらく。
「ついたけどよ、先生に連絡してガンテって人に会わなきゃいけないんだろ?俺とトウヤはそうするけどニムリスはどうする?」
「私は魔法軍に入るために窓口を探しに行くわ。ここから別行動ね。お金の件もあるから、この馬車乗り場に毎週お昼13時に待ち合わせでどう?」
自分は少し考えてニムリスに返答する。
「毎週だと、ここを拠点にしなきゃいけなくなるだろ?まだどんな任務とかあるかわからんけど、一週間遠征とかあったら会えないだろ。月に一回ならどうだ?」
ニムリスが少し怒った表情で返事をする。
「そうやってお金返さないつもりでしょ?」
自分は手を左右に振りながら答える。
「いやいや、ちゃんと返すつもりだからこその提案だよ。」
ニムリスが少し考えながら返事をする。
「んー、確かに言ってる事もわかる気がするな。仕方ないから月に一回の集合にしようか。」
この世界ではわからないが、現実世界では月に1回給料日があり、月々の返済も月に1回の支払いが多かった。
ある意味経験から出た言葉だった。
そしてニムリスが視界からいなくなる。
先生にトークストーンで連絡をする。
「もしもし?先生?キッドです。黄ノ国のヤンクルル市に着いたんですが、これからどうしたらいいですか?」
「えーとねぇ、もっと具体的な場所はわかるかい?近くにどんな建物があるとか、どこの施設にいるとか。」
「馬車乗り場ですね。建物は、2階建ての道具屋が正面に見えます。」
「なるほどー、馬車乗り場って事がわかればガンテもたどり着けると思うからそこで待ってくれるかな?また連絡するよ。」
そして通話が切れる。
トウヤが話しかけてくる。
「お前って結構しっかり者だよな。なにかと初めての場面でもきっちり行動できるから頼りになるよ。」
「そうか?ありがとう。その代わり戦闘は全然ダメだけどな。」
「そうだな!魔法の練習しても全くダメだったしな。」
「出来ない事は出来ない。そんなもんだよ。」
トークストーンが鳴る。
「もしもし?キッドですけど。」
「あ、キッドくん?ガンテと連絡が取れてすぐ着くってさ。」
「わかりました。」
すると男性に声をかけられる。
「やあ、君たちがトウヤ君とキッド君かい?」
あまりにも早い到着だ。
その男性は茶髪のツンツンヘアー。目は開いてるかわからないくらい細く、身長は170センチ程。服装は茶色のベストを羽織っており、中は白のTシャツだろうか。年齢は30代に見える。
おそらくガンテという人だろう。
男性が続けざまに話しかけてくる。
「君たちにこのストーンを渡したくてね。あ、僕の名前はガンテ、君たちの先生の友達ってところだね。」
ガンテはストーンを自分とトウヤに渡した。
大きさは手のひらに収まるサイズでトークストーンと大きな違いはない。
ガンテが話しかけてくる。
「これはワープストーン。このストーンの使い方はね、大きく分けて2種類あってね、せっかくだから使いながら覚えようか?どこか行きたいところはあるかい?」
トウヤが質問に答える。
「そしたら魔法軍入るところ。」
「ギルドハウスだね。そしたらこのストーンの頭を押して、っと言っても君たちのストーンはまだ何も表示されないけどね。僕のワープストーンを見てて。」
するとガンテのストーンに文字が表示される。
ガンテが説明を続ける。
「この文字をスライドして、ギ、ル、ド…」
スマホを操作するように、表示された文字を押していく。
「ハ、ウ、スっと。…そしたらほら。一番上に登録された地点の内、近くのギルドハウスが表示されるんだ。」
ワープストーンを見るとヤンクルル市ギルドハウスと表示されている。
ガンテが説明を続ける。
「これをタッチして、二人とも近づいて。」
言われたままガンテに近づく。
すると身体が紫色に光りだした。
ガンテとトウヤも同様に紫色に光っている。
「じゃあいくよ、っとその前に、光っている人が全員ワープしちゃうからもし関係無い人が光ってたら、ワープストーンの頭を押してキャンセルするんだよ。」
ガンテがワープストーンをタッチする。
一瞬目の前が真っ白になる。
そして、視界が戻るとそこには今までいた馬車乗り場の風景ではなく、ギルドハウスと書かれた建物が目の前に現れた。
ガンテが口をひらく。
「はい到着。これでワープ完了。次にワープ箇所の登録なんだけど君たちのストーンの後ろの平らな部分2回タッチして。」
言われたままに2回タッチすると、ワープストーンに文字が表示された。
ヤンクルル市ギルドハウスと表示されている。
ガンテが口をひらく。
「地点の登録をする場合は文字のところを2回タッチ。しない場合は何もしなくて大丈夫。まあ、ここはギルドハウスだからこれからも頻繁に通うと思うから登録すると良いよ。」
言われるがままに2回タッチする。
ガンテが口をひらく。
「これで地点の登録は完了だよ。ちなみに地点登録は無限じゃないから容量いっぱいになったら古い順に消されていくから注意ね。ちなみにいっぱいになる前に整理もできるよ。登録できる件数はワープストーンの魔法量によるから注意してね。」
つまり今の一瞬で、ワープしたと言うことだ。
どういう原理か分からないがゲームで良くある便利機能だろう。
ワープストーンに関しては現実世界では存在しないので携帯電話じゃないか!と言うような事を口走る心配はなかったが、ワープした反動で身体に異常をきたしていないか心配だ。
トウヤが驚いた表情で口をひらく。
「ワープ出来るのすごいな!移動めちゃくちゃ楽じゃん!」
ガンテがトウヤに話しかける。
「今回のように誰かのワープストーンで移動するなら初めての場所に行けるけど、自分のワープストーンでは、行った事の無い場所にはワープ出来ないからね。新しいところに行くのは今まで通り馬車とかの移動になるかな。」
自分はガンテに質問をする。
「登録できる件数は魔法量によるって言ってたけど確認する方法はありますか?」
「ワープストーンのここを押すと見られるよ。」
ガンテが指を指すところを押した。
すると、残りメモリ9,998と表示される。
その数に驚いて口をひらく。
「めちゃくちゃあるな。一生困らないんじゃないか。」
ガンテが笑いながら声をかけてくる。
「一生かは分からないけど、当分は持つね。魔法軍に入れば色々なところに赴く機会が多いから結構メモリ消費するよ。」
トウヤがウズウズした表情で声をかけてくる。
「とにかく、ここに入れば魔法軍になれるかもしれないんだろ。早く行こうぜ。」
自分はガンテに目配せをする。
「そういうわけなので早速ギルドハウスに行きますね。ありがとうございました。」
自分とトウヤはガンテにお辞儀をしてガンテと別れる。
そしてギルドハウスの扉を開けた。
中は木造で酒場のような雰囲気で色んな匂いが混じる。ギルドハウスに居る人や人種も様々で、ホビットのような小さな人種。オークのように大柄な人種など、色々な人が居る。
早速受付へ向かう。
受付の女性はエルフだろうか。ストレートの金髪が美しく耳が尖っている。衣装はチャイナドレスを身に纏っており、顔立ちは西洋風。服装は中華風と独特の雰囲気を放っている。
「いらっしゃいませ。本日はミッションの受注ですか?」
トウヤが目をキラキラさせながら受付の女性へ声をかける。
「俺たちは魔法軍に入りにきたんだ。どうしたらなれますか?」
受付の女性が用紙を取り出す。
「この用紙に必要事項を記載していただければ、3等兵からですが、魔法軍に属する事ができます。」
その用紙には黄ノ国 魔法・騎士軍隊入隊申込書と書かれている。
用紙に記入するだけで魔法軍になれるという事だろうか。
魔法と騎士で分かれているように見えるが、記入する項目で所属が変わるのだろうか。
そのような疑問を持ちながら必要事項を用紙に記載して行く。
記載する内容は氏名、誕生日、バンク情報など特に特殊な項目は無い。
トウヤが口をひらく。
「できた!キッドは書いたか?」
自分は最後の項目で詰まっていた。
そこには、魔法・騎士軍隊に入隊した際、ミッション中に起きた事及び入隊する事での私生活における事柄について、何が起きても自己責任となるが、同意できるか。と書かれていた。
トウヤが話しかけてくる。
「チェック付けるだけなんだから早くしろよな。」
「いや、お前この文章の重みが分かるか?命を懸けられるか聞かれてるんだぞ。」
トウヤは少し考えてから口をひらく。
「魔法軍に入るってのはみんなで決めた目標だからな。俺は迷いは無いぞ。自分がどうなるかはその時考える。」
その時考えるとは一理あるが、自分は慎重に考えてしまう。別に軍に所属せず、商人などとしても生きる道があるのではないかと。
トウヤがさらに口をひらく。
「キッド、お前は俺がモンスターに襲われてピンチの時に食料を投げて助けてくれたよな。あの時は本当に死んでもおかしくなかった。そんな中お前も命懸けで俺を助けてくれただろ?自信持てよ。お前は人を助けられる。俺たちは旅を始めた時からとっくに命懸けてきてるんだよ。」
トウヤには悪いが、それが魔法軍に入っても大丈夫という保証にはならない。考えてみれば自信は元々ただのサラリーマン。命を懸けるような危険な冒険なんてするとは思わなかった。それに出来れば危険な道は選びたくない。
なにより魔法も使えないし、戦闘も全くダメだ。
自分は恐る恐る口をひらく。
「トウヤ、やっぱり俺無理かもしれない。」
トウヤが呆れた表情で声をかけてくる。
「それじゃあいいよ。みんなには話しておくな。逃げだしたって。」
自分はそれを聞き、少し怒ったようにトウヤへ話しかける。
「逃げ出すってなんだよ。路線の変更だよ。悪いかよ。」
トウヤも少し怒りながら声をかけてくる。
「悪い。すぐ逃げる腰抜けだ。おまけに負け犬だ。始まる前から諦めるなんて弱い奴のやることだ。」
男とは単純なもので、プライドを傷つけられるようなセリフには逆上するものだ。
実年齢はおっさんでも精神年齢は低いのかもしれない。
自分はペンを手に持ち、大きな声でトウヤに言う。
「わかったよ!これでいいんだろ!?」
自分は同意するにチェックを付けた。
チェックを付けた後、受付へ提出する。
「はい、ありがとうございます。こちらが魔法・騎士軍隊3等兵のバッチです。ミッションの受注や昇格などはこの資料をご覧下さい。」
書類を書くだけで魔法軍にはいる事ができた。
ふと思い、自分は受付の女性に質問をする。
「魔法軍ってよく言われてるみたいなのですが、魔法・騎士軍って呼ばれないのですか?」
「魔法軍は魔法・騎士軍隊の略称でよく呼ばれているので深い意味は無いかと思います。実際のところ魔法を使えない方もたくさん居ますので。」
魔法を使えない人もいるという情報はありがたい。
現に自分が魔法を使えないから所属出来ないのではと思ったがそういう事なら少し安心だ。
トウヤが口をひらく。
「よし、さっそくミッション受けるかな。」
「待て待て、今資料もらっただろ?読んでからの方がよくないか?」
そこに見覚えのある少女が現れる。
自分は思わず声をかける。
「ニムリスじゃないか。ここに来たんだね。」
ニムリスは驚いた表情で声をかけてくる。
「何であんたたちが先にいるの!私の方が先に出発したよね?」
トウヤがニムリスに話しかける。
「あぁ、ワープしてきた。」
「あんたたちそんな事出来るの!?」
自分はニムリスに説明をする。
「あの後、俺たちが合流した人からワープストーンってのを貰って、それでここまで来たんだ。それはそうと受付してきたらどうだ?」
ニムリスが話しかけてくる。
「ワープ?ズルくない?知ってたなら教えてよー、受付ってどこ?」
自分は受付に向かって指を指す。
ニムリスが受付に向かう。
その間に自分とトウヤは魔法軍に関する資料を読む。
トウヤが読みながら話しかけてくる。
「なあ、ここに書いてある試験ってすぐ受けられるのかな。」
自分はその文章に目を通す。
3等兵から2等兵への昇格条件。魔法技術試験・戦闘技術試験・戦術知識試験の内一科目の合格。
受験条件無し。不合格後の再試験は1ヶ月以上明けたのち受験可能。
文章を読み、トウヤに声をかける。
「受けられるんじゃないの。条件書いてないし。」
トウヤが受付へ向かいながら口をひらく。
「それならさっそく受けるわ。早くレベルの高いミッション受けたいし。」
自分はトウヤを引き留めようとする。
「おーい、気が早すぎないか?」
トウヤは引き留めようとする自分を無視して受付へ向かう。
自分は少し呆れながらも資料の続きを読む。
2等兵から1等兵への昇格条件。魔法技術試験・戦闘技術試験・戦術知識試験の内二科目の合格。
不合格後の再試験は1ヶ月以上明けたのち受験可能。
1等兵から小隊長への昇格条件。魔法技術試験・戦闘技術試験・戦術知識試験全ての科目の合格及び小隊長以上、2名以上からの明確な理由による推薦。なお、推薦による昇格は元の等級を問わず昇格可能。
不合格後の再試験は1ヶ月以上明けたのち受験可能。
推薦の結果、不合格後の再審査は1ヶ月以上明けたのち推薦可能。
ミッションのレベルについて。
3等兵から1等兵はCランクのミッションを受注可能。
小隊長はBランク以下のミッションを受注可能。
中隊長はAランク以下のミッションを受注可能。
隊長はSランク以下のミッションを受注可能。
資料を読んでいる間にトウヤとニムリスが帰ってくる。
トウヤが口をひらく。
「さっそく魔法技術試験の申込みをしてきたぜ。」
ニムリスも口をひらく。
「あっさり魔法軍になれたわ。私も早いうちに試験受けようかしら。」
自分が二人に声をかける。
「多分そんな簡単じゃないって。入って初日で試験受けて受かるかよ。」
トウヤが話しかけてくる。
「キッドも受けてきたらどうだ?受かったらラッキーってくらいでさ。」
技術の試験は無理だとしても戦術知識試験がどんな問題が出るか受けてみるのも良いかもしれない。
自分も戦術知識試験を受けてみることにした。
早速受付へ向かって試験の申込みをしに行った。