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おっさんが異世界転生してモブで頑張る物語  作者: 暇人
小さな村からの出発
4/25

旅立ち

村の広場には先生、自分、レイジ、ナツキ、トウヤ、イチノハ、村の老人数名が集まっていた。


先生がいつもと変わらない優しい口調で話し出す。


「ついに旅立ちの時が来たね。君たちの人生はこれからが本番だ。広い世界を自分の目で見て、回って、感じて、立派な人になれるように歩んで行くんだよ。ところでキッド君はどうする事にしたのかな?」


自分は俯き沈黙する。


するとトウヤが自分と肩を組み、みんなが聞こえる大きな声で話し出す。


「キッドは俺が旅に連れ出す。文句あるやつはいないか?文句無いなら連れてくぞ!」


急に肩を組まれ少しよろめくが何とか持ちこたえた。


トウヤに仲間と認識されたのだろうか、そう思うと嬉しくて自然と笑みがこぼれる。


先生が微笑みながら語りかけてくる。


「キッド君はそれでいいかい?」


自分は顔を上げ、先生の顔を真っ直ぐ見つめて返事をする。


「はい!」


自分はトウヤに声をかけられる直前まで不安でいっぱいだった。


何故なら旅に出る前の1週間の間にみんなの所へ行って、連れて行ってくれるか確認していたからだ。


それぞれの反応はこうだ。


レイジの家に居た1週間の間にレイジに一緒について行っても良いかと聞いてみてもレイジは首を縦に振らなかった。


ナツキの家にも行って、一緒について行っても良いか聞いたが、急に大きな声で「それって結婚ってこと!?さすがにそれはダメだよ!」と何か勘違いをしていたのか、よくわからない理由で断られていた。


一緒に旅に連れて行ってくれる可能性が低かったのは感じていたが、自分の中で一番の推しだ。一応イチノハの家にも行った。


しかし、一人で旅に出ると公言していたところに旅に連れて行ってほしいとはお願い出来ず、当然向こうからも一緒に行こうとは言われなかった。


最後にトウヤの家にも行ったが、旅に一緒に連れて行ってくれないかと頼んでも「そんなことより遊ぼうぜ。」と言われ、ずっとベーゴマのような物で一緒に遊んでいただけで、旅の話はまともにしなかった。


そんな状況であったから誰からも声をかけられず路頭に迷う事を覚悟していた。


そのため、一緒に旅に行こうと誘われて安堵したと同時に嬉しかった。


そして自分を含めた旅立つ5人の準備が整った。


周りを見渡してみると村の老人の一人が「オーン、オーン」と声をあげながら泣いている。


それにつられてか、他の老人たちも涙ぐんでいる様子だった。


そこに先生が石のような物を持って、旅立つ5人の前に現れた。


「みんな、行く前にこれを持って行くといいよ。」


手のひらに納まる程の大きさの石のような物がみんなに手渡された。


その石は若干透き通っており、宝石のような輝きを放っている。


先生がその石を自分たちに見せるように右手に持ち、口をひらく。


「これはトークストーン。話したい人の承認符号を石の上でなぞると、その人と離れていても会話ができる代物だよ。」


説明を聞くとまるで携帯電話のようだった。


先生は続けてトークストーンの説明を行う。


「これには登録機能があってね、今はここにいるみんなと一応先生の符号を登録しておいたから話ししたい時に使ってね。いまレイジくんの符号に発信してみるね。」


そう言うと先生はトークストーンをなぞった。そしてレイジの持っていた石が輝き出した。


音が鳴る。


プルルルル、プルルルル。


いや、これもう携帯電話だろ。と心の中でツッコミをいれた。


「レイジくん。トークストーンをタッチして。」


先生がそのように声をかけた後、レイジは言われた通りトークストーンをタッチする。


「レイジくん。トークストーンから声が出てるのが分かるかな?」


レイジは戸惑いながらもトークストーンに話しかける。


「はい。聞こえます。」


「はは、これがトークストーン。みんな分かったかな?」


そして先生がトークストーンをタッチすると通話が途切れた。


「スゲー!」「すごーい!」


トウヤとナツキが嬉しそうな表情をして声をあげた。


そして自分もトークストーンをタッチしてみる。


するとトークストーンの上部に現実世界で見覚えのある電話マーク。下部に手帳のようなマークが浮かび上がる。


「これ、携帯電話じゃんw」


先ほど携帯電話と思った時には声を出すのを我慢出来たが、その見覚えのあるマークに思わず声が出る。


「「ケイタイデンワ?」」


先生を含めた全員が同時に反応する。


自分は誤魔化すように話し出す。


「あ、いや、昔そんなふうに呼んでたなーって、それだけ。」


先生が笑いながら話しかける。


「はは、聞き覚えの無い呼び方だけどキッド君は見たことあるんだね。」


自分は視線を斜め上に上げながら口をひらく。


「まあー、そうですね。」


誤魔化せたかどうかは分からないが、ひとまずそれ以上突っ込まれる事は無かった。


トークストーンの手帳マークを押して確認する。


そこに表示された名前はレイジ、ナツキ、トウヤ、イチノハ、ゲンと表記されている。


おそらくゲンとは先生の名前だろう。


そして先生が口をひらく。


「さて、とりあえず僕が出来る事はこれまでかな。みんな元気で行ってくるんだよ。」


みんなは携帯電話のような石、トークストーンを渡され、それぞれの旅へと向かった。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




トウヤと徒歩で黄の国を目指し、村を出て3分程が経過した。


出る前に確認すれば良かったのだが、ここで持ち物を確認する。


旅をするにあたって持ち物は重要だ。


忘れ物があっても今ならまだ戻って取りに行く事が出来ると思い、二人の荷物を確認する。


まずは自分の持ち物だ。レイジの家で麻袋を貰い、その中に荷物を詰めてきた。


荷物はレイジの家で余っている物などを分けてもらった。


大きさは一般的なリュックサック程。


そんなにたくさんの物は入れられなかったが、約3日分の食料、錆びた小型ナイフ、火起こし器、ネジ巻き式のボロボロになった時計、地図、木製の食器、蝋燭、薄い生地の毛布、薬草が入っている。


次にトウヤの持ち物を確認する。


トウヤはリュックサックを持っていたようで、その中を確認すると、ところ狭しと詰め込められたガラクタ。見たところおもちゃばかりだ。食料は無い。


それを見て自分は思わず声を荒げる。


「おま、食料くらい入れてこいよ!遊びに行くんじゃないんだからさ!」


トウヤは悪びれる様子もなく答える。


「しゃーねーだろ、全部必要だったんだよ。」


自分は呆れた声で話しかける。


「今ならまだ戻れるから食料を取りに帰ろう。さすがに心配すぎる。」


「食料なら勿体ないから全部食ってきた。おかげで腹いっぱいだぜ!」


「んー、食料以外にも必要な物あるだろ?とにかく戻ろう。」


「もう家に帰って来ること無いと思って、家の物は全部近所のじーさんばーさんにあげちまったよ。」


「なーーんでそういう事するかな!計画性ってものがあるだろ?」


トウヤに呆れながらも仕方なく旅路を進んで行く。


そして村を出て30分程度経過しただろうか。


初めて野生動物に遭遇する。


「グゥオオオオオオ!!!」


けたたましい雄叫びだ。冒険の始めはスライムとかゴブリンとか低級モンスターが現れるって相場は決まってるものじゃないのか?


自分たちの前には体長5メートルは有るだろうか。熊のような見た目で、毛並みは赤と黒が混ざり明らかに強いというオーラが出ている。


瞳は真っ赤に光り、そのモンスターは獲物を見定めるようにこちらを見ている。


「任せろ!」


トウヤがそう叫ぶと真っ直ぐ熊のようなモンスターに向かって行った。


そのままモンスターへ電撃を纏いながらタックルをする。


モンスターは少し後ろにたじろぐが、すぐに体勢を持ち直し、トウヤに左腕で薙ぎ払いを繰り出す。


モンスターの薙ぎ払いはトウヤの右胴体に食い込み、血飛沫が上がる。


トウヤは攻撃をまともに受けたが倒れることはなく、歯をくいしばりながらモンスターに電撃を纏ったパンチをおみまいする。


しかし、そのモンスターはその巨体で持ちこたえた、まるでダメージが無いように見えた。


そして、モンスターはトウヤにキックを放つ。


そのキックもトウヤの胴体にまともにヒットし、トウヤは地面に足をつけたまま後方に弾き飛ばされ、その跡として地面を足で踏ん張り、3メートルほど後方に削られた跡が残っていた。


その様子を見た自分は荷物の中から咄嗟に食料を手に取り、その食料をモンスターの大きく後方に投げた。


モンスターは投げた食料に気を取られ、自分たちに背を向け、食料の方向に向かって行く。


そしてトウヤに向かって叫ぶ。


「逃げろ!」


トウヤと自分はモンスターと反対方向に向かって逃げ出した。


モンスターが視界から見えなくなった事を確認し、木の小陰に身を隠した。


トウヤが息をあげながら話しかけてくる。


「わりぃな。思った以上に敵が強くてよ。」


「そんなことより傷は大丈夫なのか。かなり深いぞ。」


トウヤの傷を確認する。


右脇腹の肉は完全に裂け、激しく流血している。下手したら骨まで到達しているほどの深さだ。


胴体の正面にはモンスターから蹴られた跡が赤黒く、くっきりと残されていた。


自分は酷く動揺しながらトウヤに声をかける。


「すぐに治療するからな!ややや薬草がある!少し我慢しろよ!」


トウヤは歯をくいしばりながら話しかける。


「薬草なんかじゃ、うぅ、、、効果ねぇよ、、、俺のカバンよこせ。」


言われたままトウヤのリュックサックを渡した。


トウヤがリュックのガラクタの中から透き通った薄い緑色の液体が入った小瓶を手に取り、傷口にその液体をかけ始めた。


すると、みるみるうちに完治とまではいかないが傷口が塞がり始め、普通の切り傷くらいになった。


胴体のアザも若干色が薄くなった。


それを見た自分がトウヤに声をかける。


「お前、それまだあるか?あるならもっと使おう!」


「ああ、まだある。でもポーションは短時間に何個使っても回復する効果は変わらない。」


自分はその言葉を聞き、今の薄い緑色の液体がポーションだという事を初めて知る。


ひとまず傷は浅くなったが、まだ処置の必要がありそうだ。


そこで自分は麻袋の中から生地の薄い毛布を取り出し、それを切り裂いてトウヤの傷ついた箇所を覆う。


トウヤが先ほどより穏やかな表情になり自分に声をかける。


「いきなりわりぃな。助かったよ。」


「本当に大丈夫か?まだ村に引き返せる。一旦帰ろう。」


「それは良くないな。実は村の近くの方が狂暴なモンスターが多いんだ。おまけに一回戦闘をしちまったら、あいつらは次に群れでやって来る。進んだ方が安全だ。」


トウヤは村にずっと暮らしていただけあって、村周辺の事情には詳しいようだ。


おバカキャラだと思っていたが、切羽詰まった状況ではしっかりと物事を判断出来るようだ。


ひとまず言われた通りに先へ進む。


「ガサガサ」


早速草むらから次のモンスターのお出ましだ。


トウヤが傷を負っている状態での戦闘は出来れば避けたい。


先ほどのような化け物が出てきたら速攻で逃げようと決めていた。


するとそこに現れたのはイノシシのようなモンスターで、大きさは子犬程だった。


こいつなら自分でも倒せる。


そう思い勢い良くモンスターに錆びた小型ナイフを手に立ち向かった。


「おらー!」


すると、モンスターは自分に勢い良く突進をしてくる。


「プギッ!」


その速度は予想以上に速く、突進をかわしきれず自分は無様に弾き飛ばされる。


「うわっ!」


そこで思い出した。


現実世界では小さい頃、犬に追いかけられて噛まれた事がある。


それがトラウマで4足歩行の生き物で素早く動くものは、たとえどんな小さな子犬でさえも大嫌いであるという事を。


やっぱり動物は嫌いだ。


あいつらは何を考えているか分からない。


無様に転がった自分を見てトウヤが声をかけてくる。


「おいおい、ダッセーな!」


自分でもそう思う。


そして、トウヤは10メートル程度離れた位置からモンスターに電撃を放つ。


「プギャャャヤ!」


モンスターは断末魔のような叫び声でその場に倒れる。


トウヤが話しかけてくる。


「今のうちに腹をかっ捌いて食べられそうな部位を切り取って食料にしようぜ!」


自分は錆びた小型ナイフをモンスターに突き立てた。


生き物に刃物を突き立てるのはいつぶりだろうか。


学生の頃に家庭科の授業で魚を捌いた時以来だろう。


突き立てたナイフの刃でモンスターを切り刻む。


中々にグロテスクだ。


生き物を捌くという慣れない作業を行い、生肉を入手した。


トウヤが話しかけてくる。


「やったな!肉ゲットだぜ!」


「とりあえずな。これ食べられるよね?」


「大丈夫だ!多分!」


そして時間が過ぎて夜になった。


ひとまず今夜は野宿となりそうだ。


麻袋から蝋燭を取り出し、灯りを灯した。


そして火起こし器で火を起こし肉を焼く。


トウヤがわんぱくに肉へ食らい付く。


「うめーな!やっぱ肉よ!」


「うーん、生臭いし結構固くない?」


お世辞にも美味しいとは言えなかったがお腹を満たすには充分だった。


村で食べていたレイジの料理が恋しくなる。


食事が終わり、一日中動き回って疲れていた自分たちはそのまま眠りについた。


次の日、天気は生憎の雨。


日中でもあまり日の届かない森の中では、雨が降るとだいぶ気温が低く寒い。


今日は先に進む事を諦め、雨宿り出来そうな所を探す。


トウヤが話しかけてくる。


「雨は冷たいし、さびーな。」


「そうだね。傘とか持って無いしなぁ。」


「キッドってどうして弱いんだ?」


「いきなり失礼だな。おっさんなんだから仕方ないだろ。」


「おっさん?」


会話の流れで自然とおっさんという言葉がでてしまった。


トウヤが質問をしてくる。


「おっさんってなんだ?」


自分は何とか誤魔化せないかと、頭を巡らせる。


「あー、何て言うかな。えーと、あれだ。」


全然言葉が出てこない。咄嗟に誤魔化そうとしても中々辻褄が合わない。


おっさんは中年の男性の呼び方だと説明しても今の自分の見た目は少年。辻褄が合わない。


自分はデタラメをいう事にした。


「あれよ、なんていうかなー、弱くてー、惨めでー、良いところが無いやつみたいな?」


「それがおっさんかぁー、ずいぶん可哀想な奴って事だな!キッド、ネガティブ過ぎない?」


「まあ、落ち込んだ時に出るんだ。おっさん。」


「うまくいかない時がおっさんなのか?」


「うーん、まあそんな感じ。」


「そしたら早く元気になっておっさんなくなるといいな!」


結果的に誤魔化せたのだろうか。


あまり掘り下げられない事を願う。


そうしているうちに雨宿りが出来そうな洞窟を見つけたので、今日はここで休む事とした。

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