同居人
そして、リザードマンとの戦いから1週間ほどが経過した。
自分はミッションが終わり、家でコーヒーを飲んでいる時に訪問者が現れる。
自分は扉を開ける。
「はーい。」
そこには大男、エフがいたのだった。
戦場と変わらず口には黒いマスク。短髪黒髪で、220センチはある背丈だ。
玄関をくぐってくる。
自分はエフに話しかける。
「ちょっとまって、何用で?」
エフが口をひらく。
「あなたは美しい緑髪の女性と仲が良いようだ。そこでお願いがある。」
「お願いとは?」
「緑髪の女性と行動を共にできるよう、あなたと行動をともにしたい。」
突然の申し出だ。
しかし、イチノハと行動したいなら直接イチノハにお願いしたら良いのではないか。
それより気になる事がある。
エフに声をかける。
「何故俺の家がわかった?」
「名簿に書いてあった。」
この世界の個人情報管理はどうなっているのだろう。
そんな事を思いながら仕方なくエフを家に入れる。
自分はエフに話しかける。
「緑髪の女性と行動したいなら直接お願いしに行けば良かったんじゃないか?」
エフが困り顔で答える。
「確かにそれが一番確実だが、さすがに恥ずかしいので、周りの人の力を借りようとしてな。」
「それで俺のところに来たのか。」
「医療部隊は女性が多い。そんな中で男性である貴殿の力を借りようとした。」
「まあ、気持ちはわからなくないが正直協力するのは反対だな。」
「そこでだ、協力してほしいと言うよりも行動を共にさせてくれないか?あわよくばこの家に住まわしてほしい。」
さすがにほぼ初対面の相手を住まわせるのはごめんだ。
やんわりと断る。
「すまないが急に言われても困る。今日のところは帰ってくれないか?」
「そうか、急に押し掛けて悪かった。だが、君を含めて護衛したいと考えている。また後日話しをさせてくれ。」
その日は帰ってもらったが、翌日の朝。
ミッションへ向かおうと思い、家を出るとそこにはエフがいた。
自分は思わず声をかける。
「なんだ朝から。ずっとここで張ってたのか?」
「いや、ミッションへ行くであろう時間を逆算してやって来た。」
「どうせ帰れって言ってもついてくるんだろ?でも医療部隊のミッションと一緒になるかどうかは分からないぞ?」
エフは黙ってついてくる。
自分は無言でギルドハウスへ向かう。
ギルドハウスに到着してからもエフは離れようとしない。
そんな時、イチノハとはち合わせになる。
イチノハが声をかけてくる。
「その方は…キッド、なんで一緒にいるの?」
「勝手についてきたんだ。この際だから言うけどイチノハと一緒に行動したいがためについてきたんだ。」
エフが口をひらく。
「少しばかり戦闘に自信はある。あなたたちを護衛させていただきたい。」
イチノハが返事をする。
「私たちは戦闘部隊を治療する目的で動いているの。護衛されるほどの事はないわ。」
よく言ってくれた。
この言葉で諦めて帰ってくれはしないだろうか。
エフが口をひらく。
「戦闘部隊と言えど、敵と戦う事だけが目的じゃない。守る事もミッションを行う時に隊長へ伝えれば許可が下りないわけではない。」
イチノハが口をひらく。
「まあ、戦闘部隊にも色々な役割があるわよね。ついてくるのは勝手だけど、あなたに関わるのは怪我の治療だけ。それでいい?」
自分は少しびっくりしながらイチノハに声をかける。
「いいのか?もしついてきて悪いやつだったらとか考えないのか?」
「別にミッションの中で動くのでしょう?変な行動すれば隊長や部隊の人が黙ってないわ。」
「しかし、勝手についてこられても困らないか?」
「別に家まで押し掛けるわけじゃ無いでしょう?そこまでされたら私も考えるけど、ミッションの中で護衛してくれるなら安全性は向上するし、問題は無いわ。」
「イチノハがそう言うなら一緒に行動するのを拒否する必要はないか。」
結局、エフは自分たちの医療部隊が出撃するミッションについてくる事になった。
ミッションが始まり、自分はいつもの流れで戦場にアリムが作った料理を運ぶ。
そこにはエフがついてくる。
ミッションはモンスターの大量討伐だ。
料理を運ぶ間にも自分にモンスターが襲いかかってくる。
しかし、エフがそれを追い払ってくれた。
そんな中でエフが軽い傷を負う。
エフがイチノハのところへ向かう。
エフが口をひらく。
「イチノハ殿、傷を治療してくれないか。」
「軽傷ね、キッド、ポーションで治療してあげて。」
エフが悲しそうな顔をする。
自分はエフの治療をしながら話しかける。
「残念だな。まあ、イチノハは重傷者の手当て担当だからな。それにどうとも思われてなさそうだ。」
エフは戦場に戻る。
医療部隊の馬車がモンスターに襲われそうになる。
しかし、そこにエフが現れモンスターを撃退してくれた。
医療部隊を積極的に護衛してくれる人が居ると確かに安全性は向上した。
それからもミッションのたびにエフの護衛は続いた。
人とは不思議なもので数多く顔を合わせていると仲良くなるものだ。
しばらく経過したある日、ミッションが終わってからエフが声をかけてくる。
「キッド殿。そろそろ貴殿の家に住まわしてもらおうと思うのだが、いかがかな?」
自分もだいぶエフと仲良くなった。
しかし、家に住まわせなくても行動は共にできている。
今さら家に住まわせる必要はないのではないか。
自分はエフに話しかける。
「別に毎朝会って一緒にミッションに行けるんだから、俺の家に住む必要は無いんじゃないか?」
「医療部隊の人の生活ぶりが見たい。それに貴殿はイチノハ殿と仲が良い。生活ぶりを見て、イチノハ殿と話すきっかけを増やしたいのだ。」
「お前ってストーカー気質だけど一途だよな。まあ、家賃半分払ってくれるなら俺も生活楽になるからいいよ。」
自分もこれまでの生活で誰かと生活を共にするのは慣れている。
それにエフともミッションだけの仲とはいえど仲良くなった。
別に目くじらを立てて拒否する事は無いと思い、同居を許可した。
そこから、大男、エフとの奇妙な生活が始まった。
ミッションが終わり、エフを家に招く。
とりあえずは客人だ。
自分のコーヒーを淹れつつエフにもコーヒーを出す。
エフが口をひらく。
「すまんな。コーヒーを淹れてもらって。」
「いいんだよ、医療部隊もなんだかんだ護衛してくれて助かってるし。」
コーヒーを飲み終わり食事の準備をする。
しかし、エフが口をひらく。
「食事は自分の分があるから用意してくれなくて結構だ。さすがにそこまでお世話になるのは申し訳ない。」
「そうか、じゃあ俺の分だけ用意するぞ。」
食事の準備ができた。
エフの食事はというと、鶏肉とプロテインのみらしい。
自分はエフに話しかける。
「ボディービルダーみたいだな。毎回それなのか?」
「そうだ。筋肉になる栄養素がとれれば充分だ。」
「ずいぶんとストイックなんだな。」
食事が終わりエフが筋トレを始める。
自分は声をかける。
「どうりで筋肉質だと思ってたんだけどそんな生活してたんだな。毎日やってるのか?」
「基本は毎日だ。しかし、負荷をかけた日の後は筋肉の超回復のため休む事はある。」
「そうか、俺の方が勉強になるよ。」
「キッド殿も筋トレはいかがかな?筋肉は何よりも信頼できるいいものだぞ。」
「いや、俺は戦闘専門じゃないから別にいいよ。」
「ところでイチノハ殿は好きな食べ物とかあるのか?」
「いや、俺に聞かれても困るな。」
「イチノハ殿は休みの日は何をしているんだ?」
「わからないよ。」
「イチノハ殿はコーヒーは飲むのか。」
「イチノハの事ばかりだな。それだけ好きなのはわかったけど、イチノハにその気は無いと思うぞ。」
「好きと言う感情で括られるとこちらこそ心外だ。イチノハ殿は私にとって天使であり崇高な存在だ。そばで遣える事で喜びを感じる物だ。」
その割にはイチノハの事を詮索してくる。
いずれにせよ重症だろう。
思いが強すぎてこちらも怖くなってくる。
自分はエフが間違った方向に行かないようにと思い話しかける。
「イチノハの事を色々知りたいのはわかったけど、度が行き過ぎる事の無いように注意しろよ。もしも事件とか起こされても困るからな。」
エフが腕を組ながら話しかけてくる。
「承知している。キッド氏もなかなかにイチノハ殿を擁護するのだな。キッド氏こそイチノハ殿に気があるのではないか。」
確かにイチノハは美しい。
気が全く無いと言えば嘘になる。
自分はコーヒーを淹れながらエフに話しかける。
「まあー、全く気が無いと言えば嘘になるかな。でもあくまでも仲間内の関係だよ。」
「仲間内か。仲間内と思えるほど仲が良いのだな。」
「いやー、仲が良いと言うか、成り行きでなったようなものだよ。」
「私も仲間内と呼ばれるようになりたいものだな。」
「そういえばエフは今まで仲間とかいなかったのか?」
エフはうつむきながら口をひらく。
「親友と呼べる者はいた。」
「いた。ってことは今は居ないのか?」
数秒ほど沈黙が続きエフが口をひらく。
「戦死したのだ。」
これは触れてはいけない話題だったかもしれない。
また数秒ほど沈黙が続きエフが口をひらく。
「何も出来なかった。せめて治療が出来ればと何度思った事か。」
自分はコーヒーをすすりながら口をひらく。
「イチノハに想いを馳せるのは、治療出来ればという事と関係があるのか?」
「まあ、関係無いと言えば嘘になる。」
「でもそれで言えばイチノハだけじゃなくて他の医療部隊の人も治療できるが。」
エフは照れたような表情を見せて口をひらく。
「これ以上言わせるな。」
これは完全に惚れている反応だ。
わかりきっている事だが、エフのイチノハに対する気持ちは相当強いようだ。
エフが過去に戦死した親友が居たと言う話し。そしてエフが重傷を負った時にイチノハから治療を受けた事も思い出すとイチノハへ好意を寄せるのも理解が出来る。
自分はエフに話しかける。
「なあ、俺の仲間たちに興味があるか?」
エフは少し驚いて口をひらく。
「それは、キッド殿の仲間に会わせてくれるということか?」
自分は少し斜め上を見ながら口をひらく。
「んー、まあ…」
自分はエフの目をじっと見て口をひらく。
「仲間だとか、そう言ったものが嫌じゃなければ、どうかな。」
エフは少し目を輝かせながら口をひらく。
「もちろんだ。私はキッド殿の事を信頼している。それはとても良い仲間達なのだろう。」
自分は少し笑みをこぼして口をひらく。
「じゃあ決定だな。まだ少し先だけど毎年会うことになってるからその時期に一緒に行こうか。」
エフも少し笑みを浮かべて口をひらく。
「もちろん。」
その後はミッションの話し、他愛のない話しをしてから眠りについた。
それから月日が経ち、ナチュラル村へ行く5日前になった。




