長期ミッション
闘技大会から1ヵ月ほどが経過し、ナツキとの日常が戻っていた。
ナツキが口をひらく。
「お腹すいたー!キッド!ご飯作って!」
「わかったよ、今日はキノコパスタでいいか?」
「キノコマシマシ、麺カタメでお願いね。」
「お前、その言い方どこで覚えたんだよ。」
いつも通り料理をナツキに振る舞い、離れ離れの布団で眠りにつく。
次の日、ギルドハウスに向かうと気になるミッションを見つける。
自分とナツキはミッションの内容を覗き込む。
小隊長、中隊長、隊長に要請。
赤ノ国統治下、ヤムラ村への長期ミッション。
要請人数50人。
自分は受付の屈強な男性へ質問する。
「このミッションは何ですか?」
「最近、オークの軍隊がヤムラ村を攻めて来てるみたいでね。それを沈静化させるミッションらしいぞ。」
それにしても50人とは大がかりだ。
自分はナツキに声をかける。
「ナツキはこのミッションどうだ?」
ナツキは何か考えている表情を浮かべながら口をひらく。
「うーん、まあ、受けても言いかなって感じね。」
自分はナツキ確認をする。
「報酬もそこそこだし、受注してみるか?」
ナツキが返事をする。
「まあ、やってみますか!」
長期ミッションを受注する。
長期ミッションのメンバーが揃うまで日にちがかかるようで、数日は単発で終わるミッションを受けながら過ごしていた。
ついに長期ミッションの出発日になる。
赤ノ国、デルウェア市のとある集会場に集まる。
作戦内容が大まかに説明される。
45歳くらいの見た目で、髪色は黒に近い赤色。髪型はサイドが刈り上げられ、ソフトモヒカンに見える。身長が175センチほどで、騎士の格好をしている男性が口をひらく。
「私が今回の作戦の指揮を取らせてもらう赤ノ国魔法・騎士軍本部のハルミットだ。今回は現在、オークの群れにより脅威にさらされているヤムラ村の防衛が目的だ。」
ハルミット指揮官は大きな黒板に位置関係をチョークで書き、説明する。
「途中、我が軍はナコブ町、バンタ町で必要物資の調達をしながらヤムラ村へ向かう。」
質問が飛ぶ。
「隊長のニールと言います。質問があります。ワープストーンがあれば直接ヤムラ村へ移動が可能ではないでしょうか?」
ハルミット指揮官が答える。
「確かに移動は可能だが、それだと数人ずつしか移動出来ない。それにあまり多様すると魔力を持つ者はワープ酔いをして数日魔法が使用できなくなる。それだと作戦に支障が出る。」
ワープ酔いとは初めて聞いた。
自分は魔力を持たないのでワープを使っても気にならなかったが、魔力を持つ者はワープ酔いをするのか。
ニールが続けて話し始める。
「魔力を持たない者が何回も往復すれば良いのではないでしょうか?」
ハルミット指揮官が答える。
「同じ所への短時間の往復はワープストーンの残留魔素の影響で出来ない。不可能という事だ。」
残留魔素とは聞きなれない言葉だ。
つまりはワープストーンにも制約が有ると言う事だろう。
自分はあることに気付き質問を投げかける。
「小隊長のキッドです。仮にワープストーンが10個あれば、それでグループごとにワープすれば一度に移動が可能ではないでしょうか。」
ハルミット指揮官が少し考えながら答える。
「確かにそれなら移動出来る。しかし、ワープストーンは限られた者しか持っていない貴重品だ。一つの作戦にそれほどのワープストーンを用意すること。また、都合よくすべてのワープストーンにヤムラ村が登録されているとは限らない。」
確かにそうだ。
ワープストーンには地点の登録が必要だ。
また、持っている身としては気にならなかったが、入手するのが難しい貴重品で持っている人が限られるなら分からなくもない。
ハルミット指揮官が口をひらく。
「ちなみに聞くが、この中にヤムラ村が登録されたワープストーンを持っている者は居るか。」
たくさんの人が居るが反応がない。
ハルミット指揮官が口をひらく。
「それならワープストーンでの移動はそもそも不可能という事だ。ここまでで他に質問は無いか。」
誰も口をひらく者はいない。
「では次だ。軍隊の編成メンバーを発表する。前衛第1部隊、隊長イガルト、隊員ナツキ、隊員………」
次々に名前が読み上げられていく。
自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「後衛第3部隊、隊長サバト、隊員アミン、隊員クニミツ、隊員キッド、隊員マリス。次、後衛第4部隊………」
ナツキは前衛第1部隊、自分は後衛第3部隊として行動する。
1パーティー5人構成。10パーティーでのミッションだ。
その他に医療部隊も2パーティー随行する。
それぞれパーティーの顔合わせを行う。
自分は後衛第3部隊のメンバーと顔を合わせる。
隊長として指定されたサバトが口をひらく。
「僕が隊長として指名されたサバトだ。見たところアミンとキッドは面識があるね。後の人たちも僕の顔を覚えてこの部隊に慣れてくれるよう頼むね。」
サバトは推薦状を書いてくれたり、闘技大会でナツキと戦っていたので面識がある。
アミンは25歳くらいだろうか。髪色は濃いめの赤。髪型はポニーテールで落ち着いたお姉さんという感じだ。
クニミツは30歳くらいに見えるが、髪色は黒、髪型がちょんまげという江戸時代にいそうな顔立ちだ。
マリスは20歳くらい。髪色は明るい赤。髪型はウルフカットという感じのワイルドな見た目の女性だ。
しばらくして各部隊に馬車が到着する。
御者に挨拶をして馬車に乗り込む。
まずは数日をかけてナコブ町へ向かう。
道中の馬車でサバトが口をひらく。
「後衛部隊だけど、一応聞くね。みんな戦闘に自信はあるかい?」
自分が始めに口をひらく。
「全く自信無いです。」
次にクニミツが口をひらく。
「拙者は弓なら自信があるで候う。」
武士だ、武士がいる。
マリスが口をひらく。
「私は普通に戦闘できるわ、てか、このミッションで自信ないってどう言うこと?そこの少年。」
マリスは自分を指差している。
サバトが口をひらく。
「いやいや、キッド君は戦術の知識に長けているんだ。仲間なんだから仲良くしようよ。」
マリスが自分を見つめ声をかけてくる。
「そういや、少年。小隊長だっけ?ワープストーンの事で隊長に質問してたわね。頭が回るから小隊長になれたってこと?」
自分は返事をする。
「俺は推薦されて小隊長になったんだ。だから戦闘に関する試験は受けてなくて戦闘に自信がない。その代わり知識はそこそこ自信がある。」
マリスが口をひらく。
「ふーん、推薦勢か、まあ戦闘になって足を引っ張らないでね。」
自分はマリスにとってあまり印象が良くないようだ。
アミンは会話に参加せず、大人しくしていた。
道中はサバトが会話をうまく回してくれて、何事もなくナコブ町に到着した。
ここで少なくなった食料を補充して、また数日かけてバンタ町へ向かう。
この数日で色んな会話をしたせいか、初めはギクシャクしていたマリスとも打ち解けていた。
マリスが声をかけてくる。
「なあ、そのナツキって女の子との生活もっと教えてくれよ。エッチな事したんか?」
自分は腕を組ながら返事をする。
「まあ、エッチな事はしてないけど裸は見た。」
クニミツが口をひらく。
なんだかんだでこの武士とも仲良くなっていた。
「接吻はしておらんのか?」
アミンが口をひらく。
アミンも初めは大人しかったが、サバトが会話に入る事で普通に話すようになっていた。
「やめましょうよ、あまり根掘り葉掘り聞かないの。」
マリスが口をひらく。
「いいじゃんかー、どーせ道中暇なんだし。」
クニミツが口をひらく。
「破廉恥な話しは嫌いじゃないでござるよ。」
なんとなく学生時代の休み時間の会話を思い出す。
道中は本当に平和で、これからオークの群れと戦うなんて想像が出来ないくらいだ。
次の目的地バンタ町に到着する。
ここでも食料の補給だ。
そしてハルミット指揮官によるヤムラ村到着前のミーティングが行われる。
ハルミット指揮官が全部隊に説明をする。
「次の移動で、オークの群れが居るヤムラ村へ到着する。
これまでの移動で体調不良者が若干名出て、1パーティーが減った状態だが、ミッションを予定通り遂行する。まずは前衛部隊がオークの群れと立ち向かう。そして、前衛部隊の疲弊に応じて後衛部隊と入れ換えを行い、オークを殲滅する。」
説明はしばらく続く。
説明が終わり、前衛部隊の馬車についていく形で後衛部隊の馬車もヤムラ村へ向かう。
そして、ヤムラ村へ到着する。
そこには鎧を纏ったオークが各所に点在しているようだ。
遠距離攻撃をしようにも鎧のせいでダメージを与えられないだろう。
前衛部隊の一部が早速戦闘を仕掛ける。
始めの戦況はこちらが有利。
点在していたオークを撃破する。
どんどんオークをヤムラ村から追い出す。
順調過ぎて、後衛部隊の出番が無さそうだと思った時、後衛第3部隊の馬車に前衛部隊の人が現れる。
「前衛第4部隊だ!オークに押されている!戦闘に出てくれ!」
そう言われて前線に出る。
想像以上のオークの数だ。
100体は居るだろうか。
ヤムラ村の外でオークの群れが待機していたようだ。
前衛第4部隊の人達が戦っている。
サバトとマリスが前線に飛び出し戦闘に向かう。
クニミツは弓矢で鎧の着ていないオークを狙う。
アミンは遠距離魔法で前線をサポートする。
そして自分は腕を組みながら戦闘をただ眺めていた。
まあ、さすがに自分は太刀打ち出来ないだろう。
クニミツが声をかけてくる。
「お主も戦わぬか!」
ごもっともだ。
自分はクニミツに話しかける。
「予備の弓とかないか?貸してくれ!」
クニミツが話しかけてくる。
「お主、弓が使えるのか?これを使うでござる。」
クニミツから弓を借りる。
自分はオークに向かって弓を引く。
しかし、矢がまったく飛ばない。
弓矢が扱えないのだ。
クニミツが話しかけてくる。
「お主!使えぬではないか!」
「すまん!無理だった!」
自分は魔法を溜めてるフリをする。
アミンが声をかけてくる。
「あなた魔法使えないはずじゃなかったの?」
「まあ、見ててください。はあああ!」
手をオークに向かって突き出す。
すると突然オークが火に包まれる。
自分はアミンに声をかける。
「……ほら!燃えた!」
当然自分の魔法ではない。
その魔法はハルミット指揮官の技だった。
流石、全部隊を指揮するだけあり、オークをどんどんなぎ倒している。
それに負けないくらい、体術でオークをなぎ倒している者がいた。
ナツキだ。
前線に出て果敢に戦っている。
オークとの戦闘の様子を見ていると、マリスが倒れている。
サバトも気づいているようだ。
そこで自分はマリスの救出に向かう。
倒れているマリスをなんとか引きずって医療部隊の所へ向かおうとするが、正面からオークがやってくる。
殺られる。
そう思った瞬間オークが吹き飛ぶ。
ナツキだ。
ナツキが戦いながら声をかけてくる。
「早くその子を運びなさい!サポートするから!」
「おう!悪いな!」
なんとかマリスを医療部隊に引き渡す。
マリスが細々とした声で話しかけてくる。
「……迷惑かけちまったな…たすか…ったよ。」
「気にするな、俺もこれくらいしか出来ないんだ。」
そして前線に戻る。
戦況は悪化する。
キングオークが現れた。
体長は5メートルはあるだろうか、肌は紫でただ者ではないオーラを纏っている。
ハルミット指揮官がキングオークに炎の魔法を放つ。
しかし、まったく効いていないようだ。
ナツキも高くジャンプして炎を纏ったキックをキングオークの胴体に放つ。
ダメージは入ったのだろうかキングオークは雄叫びを上げる。
グオオオオオ!!!!!
これは咆哮だ。
キングオークの近くにいた者が全員吹き飛ばされる。
10人ほど吹き飛ばされた。
その中には、ナツキ、ハルミット指揮官、サバトがいた。
問題はキングオークだけではない。オークもまだ50体はいる。
あまりにも不利な戦況に絶望すら見える。
自分は叫ぶ。
「ハルミット指揮官!逃げましょう!相手が悪すぎます!」
吹き飛ばされたハルミット指揮官が立ち上がり口をひらく。
「それはならん!我々が逃げたら村の者はどうなる!」
しかし、キングオークを倒せるのだろうか。
逃げ腰の発言をしたことは申し訳ない。
ただ、戦況が悪すぎる。
自分は叫ぶ。
「それなら私が村の人を避難させます!村よりも人々の命が大事です!」
ハルミット指揮官が叫ぶ。
「ならばお前を避難誘導の隊長に任命する!キングオークに立ち向かえる者は前線で、そうでない者を集めて村民を避難させろ!」
村民を逃がすために隊長に任命された。
自分は叫ぶ。
「村民を避難させる!協力してくれる者は村へ!」
まさに避難誘導に向かおうとしていたその時だった。
何者かが戦場に現れ、キングオーク以外のすべてのオークが急に倒れる。
どこかで見覚えのある特徴的な赤とオレンジの髪の毛、高級そうなローブ。バルギットだ。
バルギットが口をひらく。
「間に合ったか。」
どう言う仕組みかは分からないが普通のオークが全て倒れて、相手はキングオークのみになった。
バルギットはキングオークに向かって炎の魔法を放つ。
キングオークが燃え始める。
ハルミット指揮官が放った時は効かなかったはずの炎の魔法が、確実に効いている。
バルギットがハルミット指揮官に声をかける。
「父さん、手こずったのはこいつのせいだね。」
親子だったようだ。
どうりで名前が似ている。
いや、今はそんな事はどうでもいい。
バルギットがこれほどまでに強かったとは。
赤ノ国闘技大会の優勝者でありながら7番隊右翼という肩書きは伊達ではない。
しかし、キングオークはまだ倒れない。
キングオークは燃えながらもバルギットに向かって斧を振りかざす。
バルギットはキングオークの攻撃を華麗にかわし、剣で攻撃をする。
キングオークの右足から血飛沫が上がる。
その右足にナツキが追い討ちをかけるように炎を纏ったパンチを放つ。
キングオークの傷口にヒットし、右足がへこむ。
キングオークが燃えながら倒れ込む。
ハルミット指揮官がキングオークの頭部に剣を突き刺す。
キングオークの頭部から激しく血飛沫が上がる。
そしてしばらくしてキングオークが動かなくなる。
勝利したのだ。
自分は思わず声を漏らす。
「すげぇ…」
バルギットが口をひらく。
「気になってワープストーンで飛んできて正解だったよ。」
自分は気になった事をバルギットに質問する。
「大量のオークが倒れたんだが、何か魔法を使ったんですか。」
バルギットが笑いながら答える。
「はは、これは気の力だよ。相手を威嚇したときに明らかな実力の差があれば相手は倒れるのさ。」
まさにチートだ。
またレベルの違う化物が現れた。
今回ばかりは味方で良かった。
ハルミット指揮官が口をひらく。
「まあ、息子に借りを作ってしまったが、これで任務完了というやつだな。」
こうして初の長期ミッションは幕を閉じた。




