稽古
次の日からナツキに稽古をつけてもらう事になった。
お互いにミッションをこなしつつ、時間の合間で稽古をつけてもらう。
早速パンチの打ち方を教えてもらう。
自分はナツキの前でパンチを見せる。
「全然ダメ。肩からパンチ打ってるじゃない。いい、パンチは全身の体重を乗せるように腰を入れて打つの。」
ナツキのアドバイスを聞き、もう一度パンチを打つ。
「こ、こうか?」
「全然体重乗ってないじゃない。腰を入れて打つって単に腰を回すだけじゃないの。それじゃあ上半身と下半身の動きバラバラじゃない!」
結構スパルタだ。
パンチの打ち方だけで1時間以上経っている。
パンチを打ち続けて、ナツキが声をかけてくる。
「うーん。そんなに良くはないけど最初よりはマシかな。明日はキックの稽古するわよ。」
正直しんどい。
強くなりたい気持ちはあるが、毎日このペースで稽古するとなると身体が壊れそうだ。
そして次の日になり、キックの稽古だ。
ナツキが声をかけてくる。
「見てて、ハイキックを打つわよ。」
良いおみ足だ。健康的に筋肉がついており、細みの脚は美しい。
「キッド!キックを見てて!脚を見ろとは言ってないわ!」
視線でバレた。
そしてハイキックを打とうとするが脚が上がらない。
それを見てナツキが言う。
「もっと足上げて!股関節しっかり開くの!それじゃあへなちょこなミドルキックよ!」
「いやいや、上がらないんだよ。」
「そんなはず無いわ。軸足しっかり固定して上半身を落とすの。それで脚上がらない?」
「いや、身体が固くてこれが限界。」
キックの稽古も中々にスパルタだ。
自分はナツキに質問をする。
「この手の稽古は後何種類くらいあるの?」
「んー、細かく分けたら100個くらいかな。」
多すぎる。とてもじゃないが身体と精神面が持たない。
自分は半ば発狂しながら声を上げる。
「あぁあぁあ!もう無理!弱くていい!戦闘は任せるからー!」
ナツキが呆れた表情で話しかけてくる。
「稽古つけなくて良いなら私は楽だからいいけどキッドはこのままで良いの?」
良くは無いが、連日このペースなのが辛い。
「いや、もうちょいペースを落としてくれないか?いきなりエンジン全開は辛いよ?」
「そうかー、まあ考えとくわ。」
「考えるだけじゃなくてマジでお願いします。」
次の日はお願いして稽古を休みにしてもらった。
自分はCランクのミッションを受けに行く。
今回は市内の定点警備だ。
そこで一人の男性に出会う。
年齢は30歳ぐらいだろうか。スキンヘッドで体格が良い。身長は190センチくらいに見える。何故か警備をしながら体のサイズに似合わない小さな本を読んでいた。
自分は気になって声をかける。
「あのー、一応ミッション中なんで本は読まない方がよくないですか?」
男性がビクッとする。
男性は口をひらく。
「ええ、分かってますとも。でも本の続きが気になって…」
少し失礼かと思いつつ、本の内容を覗いてみる。
白紙だ。
何も書いていないようにしか見えない。
奇妙だ。深く関わるのは良くないと思い、自分は警備に集中する事にした。
定点警備はその場から動けないのが辛い。
足をあげながらそれとなく身体をうごかす。
今日もミッションが終わる。
そして、稽古のペースを落としてくれと言ったものの、聞き入れてくれているのだろうか。
今日もナツキによる稽古がある。
ナツキの家に帰り、また稽古が始まる。
「今日はバックステップの練習をするわよ。ペース落としてって言われたから軽くやるわよ。」
「ああ、それならありがたい。んで、どういう稽古だ?」
「私の動きをマネするだけよ。見てて。」
ナツキがバックステップをする。
マネすると言っても後ろに3メートルくらい飛んでるだろうか。
走って飛んでやっと飛べそうな距離を軽々と助走なしで、しかも後ろ向きで飛んでいる。
「はい、じゃあやってみて。」
「ちょっとまて。そんなに飛べないけどいいか?」
「まあ、形が大事だからね。いいわよ。」
バックステップに挑戦する。
後ろに飛べてせいぜい50センチくらいだろうか。
ナツキが声をかけてくる。
「軸をぶらさないで!バックステップの後にすぐに動けるように意識して!」
相変わらずの指導だ。
軸をぶらさないように後ろに飛ぶとかなり不格好な飛び方になる。
ナツキが声をかけてくる。
「違う!もっと体勢を低くして!」
「すまん。難しいんだ。気持ちはわかるけどもうちょい優しくしてくれないか?」
ナツキが眉間にシワを寄せながら話しかけてくる。
「優しく稽古つけるって分からないのよね。でも怒ってる訳じゃないのよ。」
素がこれなら仕方ない。
諦めて言われた通りに稽古するしかないのだろうか。
そして次の日も稽古が始まる。
「ナツキさん。今日はなんですか。」
「今日は腕相撲よ。私の腕をへし折る勢いで来なさい。」
言われた通りにまずは腕を組む。
ナツキの腕は普通の女の子と変わりがない。
細みの腕と、絡み合う指先は女の子そのもの。
密着感がとても良い。
ナツキが声をかけてくる。
「ねえ、変な顔してないで全力で来なさい。」
絡み合う指の感触を堪能していたら表情に出てたようだ。
「じゃあ、おもいっきり行くぞ。」
自分は全身の力を込めて腕を倒そうとする。
「ぐっ、う?」
びくともしない。
細い女の子の腕が全く傾かない。
ナツキが声をかけてくる。
「これで本気?じゃあ倒すわよ?」
ナツキが力をいれてくる。
一瞬で腕が倒される。
自分は思わず小声で呟く。
「ゴリラかよ。力の差がありすぎる。」
「なんか言った?」
「いや、力の差がありすぎて稽古にならないなぁーって。」
ナツキが考えながら口をひらく。
「確かにそうねー。じゃあ握力鍛えるのにリンゴ潰しでもする?」
「リンゴ?潰せる訳ないよ。先に指がやられるよ。」
もう次元が違うのだ。
次の日はナツキにお願いして稽古を休みにしてもらった。
休みついでにミッションも休み、街をブラブラすることにした。
街の風景を見ると意外とお店が多い。
高い建物も存在するが、ビルという感じではなくてお城だろう。
そんな中、気になる店を見つける。
癒し屋。
その名前に引かれて店に入ってみる。
「いらっしゃいませー。」
綺麗なエルフが出迎えてくれる。
もしやいかがわしい店ではないか。
おっさん的に期待が高まるが、そのような店に少年の姿で入れるわけがない。
受付のエルフが声をかけてくる。
「このお店は初めてですか?」
自分はキョドりながら口をひらく。
「はい、初めてです。」
受付のエルフが説明をしてくれる。
「コースが何種類かあり、2,000Gですとホビットプラン。3,000Gですとフェアリープラン。5,000Gですとエルフプランになります。」
「えーと、それぞれ何をしてくれるんですか?」
「どのコースも癒しを行います。」
ここは自分のご褒美にエルフプランにしようか。
もしかしたら良い思いが出来るかもしれない。
「じゃあエルフプランで。」
「かしこまりました。ではこちらへ。」
個室に案内される。
そこには二人の美しいエルフがいた。
これはマジでいかがわしい店なのではないか。
おっさんの期待が高まる。
エルフの一人が声をかけてくる。
「癒されにきたんですね。じゃあまずはこちらにお座り下さい。」
言われるがまま椅子に腰をかける。
「では、目を閉じて下さい。疲労を確認しますね。」
エルフがそう言うとエルフの指先から丸い光が現れて、その光が自分の額に当てられる。
「あら、若いのに肉体疲労と精神疲労が溜まってますね。最近激しい運動したり、辛い事がありましたか?」
身に覚えがありすぎる。
稽古で肉体はボロボロ。ナツキの指導で精神もやられている。
「それじゃあ癒して行きますね。」
エルフが二人がかりで自分に魔法をかけてくる。
とても心地よい。
感覚としては温泉に入っている感覚に近い。
さらに眠る前のふわふわした感覚にもなる。
とにかく気持ち良いのだ。
眠ってしまった感覚になった直後エルフに声をかけられる。
「はい、終わりましたよー。」
とても気持ち良かった。
そして店の外へ案内される。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
癒し屋。良いかもしれない。
心なしか身体が軽くなり気持ちも上を向いている。
おっさんの期待する展開は無かったが、これは良いものだった。
ナツキの家に帰宅する。
ナツキに癒し屋の話をする。
「いやー、今日初めて癒し屋って行ってきたんだけど、中々良かったわ。」
「あら、それは良かったわね。私、ホビットプラン好きなの。いっぱいモフモフ出来て良いわよ。」
「へー、俺は奮発してエルフプランにしたけどめっちゃ良かったわ。」
「私、エルフプランは体験したこと無いの。どんな感じだったの?」
「魔法でめっちゃ気持ちよくなるし、疲れも取れるんだよ。」
「それは良いわね。でも高いのよね。」
そんな話をしながら今日は眠りにつく。
次の日、今日は通常運行でミッションをこなしてナツキによる稽古を受ける。
ナツキが稽古内容を伝えてくる。
「今日は試しに模擬戦するわよ。今の実力を把握するためにね。」
早速、模擬戦が始まる。
ナツキが声をかけてくる。
「好きに攻撃してきて良いわよ。」
「じゃあ遠慮なく行くぞ。」
自分はナツキに前蹴りを繰り出す。
しかし簡単に足を取られてしまう。
そのままバランスを崩して転ぶ。
ナツキが声をかけてくる。
「早く起き上がって!すぐに攻撃するの!」
自分は起き上がりラリアットを繰り出す。
しかし、ナツキが身を屈めて回避する。
ナツキの拳が目の前に迫り、寸止めされる。
「はい、一発入ったわよ。振りが大きいし遅いわ。」
自分は一旦バックステップで距離を取る。
しかし、ナツキが懐に飛び込んでくる。
「はい、二発目。やっぱりバックステップの距離が足りないわ。」
自分は闇雲に連続パンチを繰り出す。
すべてかわされる。
気を取り直して、ストレートを繰り出す。
しかし、これもかわされ、ナツキの拳がまた目の前で寸止めされる。
「はい、三発目。速度が足りないわ。こんなところにしておきましょうか。」
ナツキとの戦力差を生で感じる。
やっぱり次元が違う。
稽古してどうにかなるレベルでは無い気がしてならない。
今日の稽古が終わる。
それから1週間ほど経過した。
相変わらず稽古は続いており、心なしか逞しくなってきた気がする。
ミッションを受注する。
Cランクの小型モンスター狩猟を受ける。
毎日稽古を続けていたのだ。
小型モンスターくらいは倒せるようになっているだろう。
自分を含むメンバー4人と馬車に乗り街の郊外へ繰り出す。
早速プギーのお出ましだ。
自分はプギーと対峙する。
先に動き出したのはプギーだ。
自分に向かって突進してくる。
吹き飛ばされた経験があるから知っているが予想以上に速い。
だが、その速さは理解している。
自分は真横に回避する。
無事に回避出来た。
次は攻撃だ。
自分はプギーに小型ナイフを突き刺す。
肉をえぐる感触を感じた。
するとプギーは逃げ出した。
逃げられたが稽古の効果はあったのではないだろうか。
小型モンスターくらいなら戦えるようになっている気がする。
感傷に浸っていると声が聞こえる。
「危ない!」
その直後、後ろから何かに突き飛ばされた。
別のプギーがいたのだ。
自分はそれに気づかず吹き飛ばされる。
油断大敵というやつだ。
そしてミッションから帰宅してナツキに話す。
「今日、ミッションいってさ、モンスターの狩猟行ってみたんだよ。そしたら初めて小型モンスターと戦える感じになったよ。」
「戦える感じって倒せなかったの?」
「攻撃は当てたんだけど逃げられてな。」
「それじゃあもうちょっとね。倒さなきゃだめよ。」
「厳しいなぁ。俺にしたら進歩なんだよ。」
「そういえばさ、話変わるけど3ヵ月後くらいに闘技大会あるみたいなの。私、出ようと思っててね。」
「そうなのか、ナツキなら良いところまで行けそうだな。」
「キッドも出る?」
「いや、俺は出ないよ。」
闘技大会か。
そういえば前に闘技場掃除しにいったな。
ナツキに話しかける。
「闘技大会って賞金出るのか。」
「そうね。赤ノ国大会の優勝で500万Gだったはずよ。」
「結構貰えるな。」
「それに3位以上で無条件に全国大会への参加資格が得られるわ。」
「全国大会?」
「そう、赤ノ国、青ノ国、黄ノ国、緑ノ国の代表者が集まるのよ。」
「そりゃーすげえな。まあ頑張って。」
かなり大がかりな大会だ。
その日から1ヵ月は相変わらず自分の稽古が続いたが、大会の2ヵ月前から、大会に集中するとの事で稽古はなくなった。
自分は稽古つけてもらい1ヵ月が経過し、Cランクだが、小型モンスター狩猟のミッションを積極的に受注するようになっていた。
今日も小型モンスター狩猟のミッションに向かう。
今回の相手はゴブリンだ。
ゴブリンは武器を持っておらず、噛みつき等で攻撃してくる。
早速ゴブリンと対峙する。
自分が先に仕掛ける。
ゴブリンに向かい真っ直ぐ走り出す。
そしてそのままの勢いでパンチを繰り出す。
ゴブリンにヒットし、後ろへ吹き飛ぶ。
ゴブリンが立ち上がる。
自分は小型ナイフを用意する。
ゴブリンが飛び上がり噛みついてこようとする。
それを見てゴブリンの頭部に小型ナイフを突き刺す。
緑色の血飛沫が上がる。
ゴブリンがそのまま倒れ込む。
自分は無慈悲に倒れ込むゴブリンに蹴りを入れる。
ゴブリンが動かなくなったのを確認して、小隊長に報告する。
「ヤトル小隊長。ゴブリンを討伐しました。」
「キッド君かい?よくやった。」
しかし、戦闘にもだいぶ慣れたものだ。
ナツキの稽古の成果が出ているようだ。
ナツキの家に帰宅する。
自分は口をひらく。
「いやー、ゴブリンはグロいな」
「倒したの?」
「倒したよ。」
「あんたにしては進歩ね。少し強くなったんじゃない?」
「まあ、気持ち強くなったんじゃないかな。ナツキはこれから大会に向けて頑張るんだろ?そっちの方が大変だよ。」
「とりあえず全国大会に出られるようにする事を目指すわ。」
それからは各々ミッションやトレーニングを行い過ごした。
そして2ヵ月が経過し、闘技大会の日になる。




