かみなり親父は本当は優しい
きでと雷にとっては源さんの家に向かう、この道は長く感じているのだろうな。
源さんの家の前で雷が声をかけると
「あらあら、わざわさ家まで来てくれてありがとう」
そう言いながらおばちゃんが出迎えてくれた、雷はどことなく気まずそうにしつつも、源さんに会いに来たことをしっかりと伝えていた。
おばちゃんに案内をされて居間で待たせて貰っていると源さんがやってきて開口1番に、片割れはどうしたと雷に告げた。
雷は萎縮してしまったらしく膝の上に握られた拳が小さく震えていた。
決して怒鳴ったわけではなく、いたって冷静な淡々とした言葉だったからこそ雷はどうしたら良いか分からなくなっていたのかもしれない。
俺も冬夜も現時点では何も出来ないのがもどかしいけれど、口を出すのは違うとそう思った時に冬夜と目が合い同じ気持ちだとそんな目をしていた。
「卯月の倅片割れはどうした?」
そう話す源さんは、さっきより柔らかい口調だった。
卯月さんとは雷と風のお父さんの名前だ、源さんはこの辺りの人たちの事を知っているんだなと思っていると、雷がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「源さん本当にすみませんでした、源さんが一所懸命に苗を植えた田んぼに入ってしまい、ごめんなさい」
源さんに頭を下げている雷の肩が見て分かるほどに震えていた。
源さんは大きくタメ息をつくと、雷としっかりと目を合わせながら口を開いた。
「別にその事に怒ってるんじゃねぇーよ、雷けがはしてないか?」
雷が大丈夫ですと答えると、源さんは大事にならなくて良かったと頷いた。
時計が時を刻むチクタクという音だけが聞こえている中、俺が沈黙に限界を感じ始めたその時。
「雷、風はどうして一緒に来なかったんだ?」
重厚なその声に雷は顔を強張らせつつも、風は用事があって帰りましたと答えると、源さんの眉がピクリと動いたように見えた。
なんで源さんは風が来ない事に拘っているんだろうか?そんな事を考えつつ冬夜の事を盗み見ると源さんの事を真っ直ぐに見ていた。
冬夜は何かを気付いたのだろうか………
「雷、俺はあの時に田んぼに居た奴らから話は聞いているんだよ2人でふざけていて誤って田んぼに入ってしまったんだろ?わざとじゃないなら怒らねぇよ、雷から学校が終わったら家に来ると、かみさんから伝言も受けていたから、俺は雷と風とで来ると思っていたからこそ、今の状況は納得いかねぇな」
雷は源さんの言葉を聞いて目に溜めていた涙が溢れながら、本当にすみませんと頭を下げていた。
「雷に対しては、約束通りに家に来てちゃんと謝ってくれたから怒ってない、風が居ないここで雷にだけを怒っても筋が通らないだろ?そもそも田んぼの近くで2人でふざけてさえ居なければ落ちることも無かったんじゃないか?卯月が帰ってきたら時間が有る時に風を連れて俺の所に来るように伝えてくれ、雷に怪我がなくて本当に良かった」
そう話す源さんの目は、とても優しい目をしていた。
おばちゃんが麦茶を持って入ってくるやいなや、雷くん泣かして何やってるんですか!雷くんもそんなに泣いてたら目が溶けるわよと笑いながら割烹着のポケットからハンカチを取り出して雷に渡していた。
「使ってないから綺麗よ」
そう笑うおばちゃんの、おかげで張り詰めていた空気が和らいだ気がした。
間違いない、この家で1番つよいのはおばちゃんだ。
そんな中、源さんは気まずそうにしつつも暗くなるから早く帰れよと言うと部屋から出て行ってしまった。
「主人は勘違いされやすいけど優しい人なのよ」
そう笑うおばちゃんは、源さんの事を凄く信頼しているんだろうなと感じた。
雷は、今度は絶対に風も連れてきますと張り詰めた糸が切れたように声を上げて泣いていた。
「反省出来るって事は成長できるって事よ、間違いに気付いて反省するか、間違いに気付かないか、気付いても逃げてしまうか、向き合うかで自分に返ってくるものが別物だもの、誰だって間違いはあるんだから、今日は勇気を出して来てくれてありがとう」
そう雷を悟しながら背中をさすってるおばちゃんは、格好いいと思った。
雷が落ち着いた所で、俺たちはお暇することにした、おばちゃんは門の所で見えなくなるまで手を振ってくれていた。
雷は行きとは違い、何かが吹っ切れたようは清々しい面持ちで前を向いて歩いていた。
雷と別れた後に、隣を歩く冬に目を向けると………
「凄い人だね………」
そう話す冬夜に顔を向け言葉の続きを待っていると
「優しくて、強い………本当にすごい人だ………」
冬夜が話す人がおばちゃんの事だと思った俺は、頷いていると。
「源さんは強くて、優しくて、すごい人だ………」
冬夜は目をキラキラさせながらそう呟いた。
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