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蜜柑の花

 あの日、冬夜の背中を見送った時に言いようのない不安を感じた日から気づけば2ヶ月ほどの月日が過ぎていた。


 この2ヶ月間で、冬夜は前よりも皆と仲良くなったように感じた。

 変わった事と言えば小夏ちゃんが冬夜に告白をして玉砕したらしいと聞いたぐらいだ。

小夏ちゃんからの、気まずくなりたくない友達では居たいと冬夜に話したことから、多少はギクシャクしつつも変わらずに過ごしていた。


 とは言っても小夏ちゃんと亜樹ちゃんは高校が忙しいらしく、今まで通りとは行かなかった。


ハル!!


 名前をよばれ腕を掴まれた事に驚き振り返ると、冬夜が腕を掴んだ手とは反対の手で信号を指さしていた。

冬夜に言われて初めて、目の前の信号が赤い光を放っていた事に気づき、ありがとうとだけ冬夜に伝えた。


 冬夜に、ため息混じりに車はあまり通らないけど前は見て歩いた方が良いと思うと至極当然な事を言われて恥恥ずかしさのあまりに、思わず走り出したい衝動に駆られた。


 ものすごく気まずい………


 冬夜が空気を読んでくれて唐突に、なんだか甘い匂いがしない?と声を掛けてくれた。

俺は少し先にある木を指さして、あの白い花の匂いだよ何の木だか分かる?と冬夜に質問を投げかけた。


 冬夜は何だろうと考えていたが、降参全然分からないから教えてと言いながら今だに掴んでいた俺の腕をぶんぶんと揺さぶった。


「あの木の花は蜜柑みかんの花」


 そう話すと、冬夜はあれが蜜柑の花なんだと呟いていた。

その後は学校に着くまで他愛もない話をしつつ気づけば教室の近くと、教室から風と雷の声が段々と聞こえてきて、教室の前に着く頃には話の内容がしっかりと聞き取れて思わず冬夜と顔を合わせて笑ってしまった。


 教室へと足を踏み入れると、雷か机に伏せっていていつもの雷らしくなかった。

そんな事を思っていると、距離感を感じさせない声量で風が挨拶をしてきた。

 風はいつもと変わらないと思いながら席に着いて、雷に視線を向けると、やっぱりいつもより元気が無いように感じる反面なぜかニヤニヤしている風。


「なんで雷は靴下を履いてないの履いてないの?ズボンもジャージだよね?」


冬夜が話しかけると雷は、小さな声で聞かないでと呟いた、それを聞いていた風が窓際を指さして、雷のズボンと靴下はあそこだよと笑いを堪えていた。


「えっ?どういう事?」

思わず声が出た冬夜は、なぜこの状態になっているのか不思議で仕方ないといった表情を浮かべていた。

雷は頭を抱えながら、げんさんの田んぼに落ちたと俺と冬夜に話す横で、風は笑いが止まらない様だった。


 源さんは、このあたりで有名なおじいちゃんだ。

良いことをすれば凄く褒めてくれる反面、悪いことをすれば凄く怒られる、それは自分の親族とかは関係なく目に付いたら子供から大人まで例外なく、きっとこな辺りの人なら必ず1回は源さんに怒られてるのではないだろうか。


「雷、源さんにちゃんと謝った?」

雷が心配になり尋ねると源さんはその場にいなくて、おばちゃんに学校が終わったら改めて伺いますと伝えたけれど………行くのが怖いと言っていた。

 見ていられない程に落ち込む雷に、俺も付いていこうか?と尋ねると、ありがとうと本当に嬉しそうな返事が返ってきた。


「僕も一緒に行きたいけど迷惑かな?」

冬夜にそう尋ねられた雷は、人数が多い方が心強いよと笑顔を向けてくれた。


 帰りの会か進むに連れてどんどん顔色が悪くなる雷、全ての授業が終わったことを知らせるチャイムが鳴る頃には無表情で淡々と帰り支度を勧めていた。

俺は先に帰るねと、我関せずな風は颯爽と帰って行った。

雷は干してあった靴下とズボンをカバンに押し込みながら、本当にありがとうと呟いた。


源さんの家に向かう途中、朝よりも強甘く香る蜜柑の花が鼻を刺激した。


「ハル朝より今の方が甘い匂いがするね僕、蜜柑の木は知らなかったけど蜜柑の花言葉は好きなんだ」

 そう話す冬夜は続きを言いたそうにして居たけれど、前を歩く雷の元へと小走りで行ってしまった。


花言葉とは何なんだろう?そう考えながら冬夜の背中を目で追いかけていると、冬夜は振り返り機会があったら調べてみてと笑顔を投げかけてきた。


 花言葉、母さんに聞けば教えてくれるかな………

そんな事を考えながら2人を追いかけた。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

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