花冷え
「それって小夏ちゃんに言わないとダメなの?」
顔を上げた冬夜の顔は笑っているように見えるけど凄く違和感を感じる………そうか目が全然わらっていないんだ。
俺は背中にゾクリと冷たさを感じ同時に言いようのない怖さで冬夜から目が離せなかった。
冬夜の目が俺を捉えたと同時に目尻が下がり、いつもの笑顔に戻ったように感じた。
俺の思い過ごしかな………そう思わないと背中に感じた寒さの原因が分からずに気持ちの整理ができそうになかった。
小夏ちゃんは、その場で固まりつつも煩くしてゴメンねと冬夜に声をかけていた、それを聞いて冬夜が何か口を動かしたが、俺には何を言ったのかは分からなかったけれど、小夏ちゃんの顔があからさまに強張ったのが見て取れた。
この状態に気づいているのは俺だけだ、今だに天を仰いでいる亜樹ちゃんに、小夏ちゃんの様子が変だと伝えると直ぐに小夏ちゃんの元へと向かい何かを話していた。
あとは亜樹ちゃんに任せておけば大丈夫、そう思っていたら背後から刺さるような視線を感じて振り返ると冬夜が微笑みを浮かべていた。
「ハルはやっぱり優しいね………」
そうはなく声がどこか寂しそうに聞こえて俺は思わず冬夜の両手を握った、この時に初めて冬夜の手が小刻みに震えている事に気付いた。
「冬夜、もしかして冷えてしまった?」
そう問いかけると、俯いたまま小さく頷いた。
もしかしたら普通に見えていただけで登校初日、知った顔ぶれが居るにしても少なからず緊張をしていたのかもしれない、もっと早く気付いていたらと自分の不甲斐なさを感じた。
冬夜は小さく息を吐くと、ハルの手が暖かくて気持ちが落ち着いてきたとニコリと笑顔を向けてくれた。
そんな他愛もないやり取りをしていると、視界の端で、亜樹ちゃんが真面目な顔で小夏ちゃんに話しているのが見て取れた。
風と雷はと言うと、マイベースに帰り支度をしていてさっきまでの、やり取りに気付いてないのか………
むしろ気付かない振りをしてくれている様にも感じ取れた。
ハル!
そう呼ばれて声のする方に顔を向けると、亜樹ちゃんが今日は先に買えるよと少し困った顔を浮かべていた。
風と雷も、お先に帰るねと教室を出て行った。
「ハルごめん………」
冬夜は俺と目を合わせずにそう呟いた。
冬夜のせいじゃないよ、無意識の内にお互いの考えがすれ違っただけだよと伝えたけれど、空気を悪くしてごめんなさいと消えそうな声で話す冬夜を見て、俺は冬夜の前にしゃがみこみ、顔を覗きこんだ。
冬夜の黒々とした瞳が濡れ揺らいでるように見えた瞬間上手くは言えないけれど、庇護欲のようなものが俺の中に溢れ思わず、冬夜を引き寄せ大丈夫だよと抱きしめてしまった。
「身体が冷えると頭が働かないし、これから少し温かい飲み物でも飲みに行かない?っていっても俺の家だけど」
そう問いかけると、俺の腕の中に収まっている冬夜は頷いた。
冬夜の震えが治まったのを確認して俺たちは俺の家へと向かった。
「ただいま」
いつもは直ぐに、かあさんが返事をしてくれるのにと不思議に思い居間へと向かうと
『今日は会合が有るので少し遅くなるね、おやつは戸棚にあるから食べてね』
と言うメモが残されていた。
冬夜に座って待っててと伝え、台所へとホットココアを用意するべくヤカンに火をかけると、あの時の冬夜の表情が今でも脳裏から離れず、普段の冬夜とはかけ離れていて自分の中で理解できない気持ち悪さがあった。
そんな事を考えていると、ヤカンのピィーって音がココアの完成を促すように鳴り響いた。
お盆に乗せたココアを冬夜の前にこぼさないように置くと隣に座り、これから一緒に学校に帰るのが嬉しいと伝えると【僕も】と持っていたマグカップを俺のマグカップにコツンと合わせた。
「これから、よろしくね」
そう話す冬夜の顔には学校で見たあの表情とはかけ離れすぎていて、だからこそあの時の冬夜の表情が妙に気になってしまった。
冬夜………
そう声をかけると、ゆっくりと視線が交わった。
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