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無くならないもの

このお話はフィクションですが、作者が見聞きした事を参考にしている所があります。

 冬夜の部屋へ入ると冬夜の香りが残っていて、そこに冬夜が存在していたことを証明してくれている、ようだった。

 でも、もうここには冬夜は居ない……その違和感が俺の心を乱した……

 冬夜の、お母さんに座ってと座布団を出してもらい腰を下ろすと、冬夜のお母さんは俺に頭を下げた。


「短い間だったけれど、冬夜と仲良くしてくれて本当にありがとう……冬夜を愛してくれてありがとう……」


 自分の子供を失う悲しみが、どれほど辛いことなのか俺には想像すらできないけれど、言葉では言い表せない程に悲しく辛いと言うことは俺にも分かる……

 けれど冬夜のお母さんは俺に頭を下げてくれている、その気持ちを考えると出てくる言葉は決まり切った言葉しか出て来なかった。


「俺も冬夜と出会えて感謝しています……」


 冬夜のお母さんが涙を堪えている姿を見るのは胸が痛んだ。


「ハル君に、こんなお願いをするのはどうなのかなと思ってはいるのだけど……」


 そこまで言って言葉が止まってしまった……


「先生には、お話させて頂いたのだけどハル君の気持ちを尊重するとの事だから、断ったもらっても構わないのだけど、最後に冬夜を家まで連れて行く役目をお願い出来ないかしら?」


 冬夜のお母さんの話を聞いて、明日が本当に冬夜と最後のお別れになると思うと何かが喉に詰まった感覚に陥った……

 俺は考えること無く、是非そのやらせてくださいと頭を下げた。


 冬夜のお母さんは、こちらこそよろしくお願いしますと頭を下げると、その体制のまま、冬夜も喜ぶと思いますと言うと肩を震わせていた。


 冬夜のお母さんが何かを思い出した様に、立ち上がると冬夜の引き出しから一通の手紙を取り出した。


「これをハル君に……」


 手に取った手紙には【僕の愛する川端ハル様】とそう記されていた。

 冬夜の書いた文字を見て、居なくなってしまった事を今だに認めることが出来ていないけれど、冬夜の残していった物などから、ここに冬夜は居たんだ……そう実感できた。

 当たり前に、少し前までは話もしていたんだ……

こんなにも悲しくて苦しいのに、冬夜の最後に立ち会った時以降、俺は涙を流すことが出来ていなかった。


 きっと俺自身が冬夜の死を受け入れられないからかもしれない。

 まだまだ伝えたいことが沢山あったのに……過去には戻る事は出来ない……。

 あの時に、ああすれば良かったと考えると虚しさだけが残った。


 それでも、冬夜と一緒に過ごしてきた時間は俺の中でちゃんと残っている。

 冬夜の温もりだって体が覚えている……

全てを失ったわけではないと、思わないと自分を慰める事ができなかった。


「ハル君、手紙を今読むなら、ここには誰も寄越さないようにするわよ」


 俺は冬夜のお母さんに、ありがとうございますと伝え、そうして頂けると嬉しいですと頭を下げた、

 冬夜のお母さんは小さく頷くと部屋を出ていった。


 一通の手紙を前に、開封するのも勇気がいる事に気付かされた。

 この手紙を書いた時、冬夜はどんな気持ちだったんだろう……

身体の痛みは無かったんだろうか……

そんな答えの見つからない事を考えていた……


 この手紙を開封したら、なぜだか冬夜の事を受け入れなければならない気がした……震える手で開封しようとした時……

 窓の所で揺れている風鈴に気付いた……


 この部屋の中だけにも、こんなに沢山の思い出が残っている……

 全てが無くなったのではなく、ちゃんと残っている物も有るんだと自分に言い聞かせたら、少しだけ気持ちが楽になった気がした。


 今だ震えの止まらない手で、冬夜からの手紙を開封したら。

 


今回も読んで頂きありがとうございます。

次回も読んで頂けると嬉しいです。

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