俺に出来ること
このお話はフィクションですが、作者が見聞きした事を参考にしている所があります。
冬夜が息を引き取った日、どうやって家に戻ってきたかを覚えていなかった。
亜樹ちゃんが家まで送り届けたくれたと、母さんが教えてくれたけれど、まったく覚えていなかった。
学校に行く気力がなく気づくと2日も経っていた。
あの時、海に誘わなかったら……
あの時、無理をさせなかったら……
あの時、遅くまで話し込まなかったら……
今となっては、どうする事も出来ないのに、あのときこうしていたらと後悔だけが胸に残り、冬夜の死に向き合うことが出来なかった……。
「ハル入るわよ。」
そう言って返事を待たずに入ってきた母さんの手にはオニギリが2つ用意されていた。
「食欲が無くても無理してでも、お腹に入れておきなさいね。」
そう言うと、オニギリを俺に手渡すの他には何も言わずに母さんは部屋を出ていった。
オニギリの温かさに胸がキリキリと締め付けられたようだった。
あの時、冬夜の手はちゃんと温かかったんだ……俺の手を握った力だって、いつも通りで……俺、どこで選択を間違えたのかな……
オニギリを口に含んでも味はしなかった……まるで砂を噛んでいるような感覚だけが口の中に広がった。
あの時、冬夜と一緒に食べたオニギリは、あんなにも美味しかったのにな……
現実を受け止めることが出来ないからか……それとも、あまりに悲しみが強すぎるからか冬夜が息を引き取った日以降、俺は涙を流す事すら出来なかった。
✽✽✽✽
母さんは妊娠中なので、冬夜の葬儀には参加しない……。
喪服に身を筒屋をだ父さんと着古した制服を着た俺は、葬儀に参加のために冬夜の家へと向かった。
父さんと肩を並べて歩くのは久しぶりで、なんとなく気恥ずかしかった。
「ハル、いつのまにかこんなに大きくなったんだな……」
父さんの言葉に振り向くと、そこには大人なのに目を赤く晴らした父さんの顔があった。
「こう言う時は、父さんは無力だなと感じるよ。」
なんだか苦しそうな笑顔を見せる父さんを見ていると前に、父さんから聞いた医者は神様ではないって言葉を思い出した鼻の奥がツンっと傷んだ。
冬夜の家が見えてくると、家の周りには白と黒のリボンが付いた提灯や大きな花輪が所狭しと飾られていた。
現実……なんだな……
家へと入らせてもらうと、お線香の香りが鼻を刺激して、何度も来たことがある冬夜の家なのに、まるで別の家に来たみたいだった。
そして、棺が目に入って来た時に、今まで以上に胸が苦しく喉に何かが詰まっているような感覚に陥った。
棺の中と外……あきらかに線引きされている事で、足が震えてしまい先に進むことが出来なかった。
その時、背中を叩かれ振り返ると風と雷、亜樹ちゃんとこなっちゃやをが立っていた。
雷は涙で溶けそうな顔をしていて、亜樹ちゃんの目にも涙の跡が残っていて辛いそうなのが感じ取れたけれど、フラフラとしている、こなっちゃを優しく支えていた。
風は顔には出ていなかったけれど、目尻が赤くなっていた。
「ハル……少し痩せたんじゃないか?」
風が心配してかけてくれた言葉が心に滲みた。
俺達は、冬夜のおばあちゃんに挨拶に行くことにした、そう言えば昔も同じ様に、おばあちゃんに会いに行った事があったな……そんな事を思い出していた。
おばあちゃんを見つけた時、見たことのない女性が寄り添っていた。
あっ……目元のあたりが冬夜とそっくりだ……冬夜のお母さんなんだろうなと思っていると目が合った。
皆で挨拶をすると冬夜のお母さんが話しかけてきた。
「あなたがハル君?冬夜から聞いていた通りヒマワリみたいね。」
そう言って笑う姿が冬夜にそっくりで、なんとも言えない気分になった。
冬夜のお母さんは、そんな顔をしないでと微笑むと、おばあちゃんと風達に少しハル君とお話してきても良いかしらと、断りを入れていた。
ハル君、冬夜の部屋でお話しても良いかしら?
俺は頷くと、冬夜のお母さんの後について行った。
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