それは現実か幻か……
このお話はフィクションですが、作者が見聞きした事を参考にしている所があります。
また文中、看護婦さん標示がありますが、あえてそのような表現にしています。
亜樹ちゃんの言っている意味を理解することが出来なかった。
昨日まで、普通に話しながら笑っていたんだ……
急変……亜樹ちゃん……それは笑えない冗談だよ……
耳に響くキーーンと鳴り響く高音。
眼の前が砂嵐のように歪む……
無意識に乾いた笑いが口から漏れる……
手は震え膝には力が入らない……
どうしたら良い?何をすれば正解なの……
「ハル!しっかりなさい!あなたは冬夜君と向き合うと決めたのではないのですか?」
母さんの言葉に体が言うことを聞くようになった。
「亜樹ちゃん、悪いけど冬夜の所まで乗せてもらえる?」
そう尋ねると、早く後ろに乗ってと快く承諾してくれた。
「ハル!気をしっかり持つのですよ。」
母さんの言葉に頷いたのを確認すると、亜樹ちゃんは飛ばすからしっかり捕まっててと早口で言ったわ、
すっかり日は暮れて月明かりの中を必死で自転車を漕いでくれる亜樹ちゃんに感謝しても、しきれないと思った。
ツクツクボウシの鳴き声を聞きながら早く着いてくれと願うことしか出来なかった。
✽✽✽✽
病院に着くと、亜樹ちゃんは先にいってと乱れた呼吸を整える為に、その場に座り込んでしまった。
俺はありがとうと言うと、冬夜の病室へと急いだ。
走っちゃだめ……焦る気持ちを落ち着かせるために、何度も何度も口に出す……何かの間違いに違いない、昨日まであんなにも元気だったんだ……
冬夜の病室の前に着いたとき、俺が想像していたのとはまったく違う光景が飛び込んできた。
その状況があまりにも現実からかけ離れていたから……他人事のように感じた。
沢山の管に繋がれて規則的にリズムを刻む機械音……その中心に居るのは本当に冬夜なんだろうか?
冬夜が、そこに居るなら俺にすぐに気付いて名前を呼んでくれるはずだ……
今、部屋の中からは冬夜の声は聞こえない……笑い声も聞こえてこない……
病室に入り確認したくても俺の膝は入ることを拒絶しているみたいに動かない。
たとえ動いたとしても……父さんや看護婦さん達が忙しそうに動いている中に入っていく勇気は無かった。
「ハルくん?」
肩を叩かれ振り向くと、赤い目をしたおばあちゃんが立っていた、おばあちゃんは俺の顔を見て、ありがとうと言うと俺の背中を押したことで、俺の足は病死へと一歩を踏み出した。
俺の存在に気付いた父さんが、早く近くに行ってあげなさいと俺の両肩を支え、冬夜の顔の近くまで連れてきてくれた。
「冬夜?」
そう声をかけると声を聞くことは出来なかったけれど口の動きでハルと呼ばれたのが分かった。
目尻を下げて笑っている様に見える冬夜に今俺に出来ることは何なんだろう。
どうしたら、今までみたいに遊ぶことが出来る?
どうしたら、肩を並べて歩くことが出来る?
どうしたら、また2人でひまわりを見ることが出来る?
答えが見つからない……
冬夜の手を握れは、昨日と同じ様に温かい……昨日と同じなのに、これから起こり得る事が頭に浮かぶと否定したくて仕方ない。
握った手を、握り返されて冬夜へと顔を向けると、ゆっくりと口が動いた。
さいごまで……いっしょに……いてくれて……ありがとう
そう言うと冬夜の目が力なく閉じると、さっきまではピッピッピッと響いていた機械音は、ゆっくりとなったり又もとの速さに戻ったりを繰り返しながら、だんだんと音がゆっくりとしたリズムになっていった。
嫌だ!嫌だよ……神様が居るのなら、お願いだから冬夜を連れて行かないで……
そう思いながら冬夜の手を握っていたのに、冬夜の手から力が抜けたその時……耳に聞こえていた機械音ははリズムを刻むのを止めた……
その事を確認した父さんの目が時計を捕らえた時、自分でも止めることが出来ない程に涙が溢れ出て声にならない声で、父さん言わないでと懇願した……
父さんは、俺の近くに来ると耳元で口を開いた。
「ハル、諸説はあるけれど人は聴力が最後まで機能していると言われてる、ハルの気持ちをちゃんと冬夜くんに伝えてあげなさい。」
俺は冬夜の耳元で言葉を告げた……
そんな俺を見ていた父さんは、おばあちゃんに向け。
10時8分、御臨終です
そう告げた……
父さんの言葉で俺は足元から崩れる感覚に陥った後、頭が真っ白になった。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
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