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覚悟Sideハル父

このお話はフィクションですが、作者が見聞きした事を一部参考にしている箇所があります。

 ハルに大切な人が出来たのだろうと思ったのは、つい先日の事だった。

この世の終わりのような顔をして帰宅してきた時に確信に変わった。

 あんなにも幼かったハルが気付かない間に、こんなにも大人びた顔をするように、なったとは感慨深いかった。


「父さん!」


 ハルの声で我に返ると、妻に往診用の鞄を用意して貰っている間に急いで着替えをした。

 不安気な表情を浮かべるハルに、母さんを頼むよと伝えると鞄を持って急いで自転車に飛び乗った。

 自転車を漕ぎながら、今日ばかりは悪い予感が当たらないでくれと願いながら目的地へとスピードを上げた。


 薫子さんの家へと着くと強張った表情を浮かべた薫子さんが出迎えてくれた。

 室内に入らせてもらうと、冬夜くんの部屋まで運ぶことが難しかったのか居間に座っていた。

 こういう時こそ、当たって欲しくない事が現実になる。

 俺は医者の仮面をかぶり、冬夜君と向き合って座った。


「先生……僕……」


 冬夜君が何を言いたいのか手に取るように分かるのが辛くなる……

 なるべく、穏やかな表情を浮かべながら冬夜君の言葉に被せて話しかけた。


「冬夜君、今の体制は辛くないかい?」


 冬夜君は少し……と答えたものの他に何か言いたそうだった。


「先生……僕、海でおもいきり遊んでしまったんだ、先生に無理をしては駄目だよと言われていたのに……」


 冬夜君の言葉を聞いて、俺はなんて酷な事を言ってしまったのだろうと胸が痛んだ。

医者としては間違った事は言ってはいない……

 けれど、子供を持つ親としては話は違ってくるだろうと思った。

 この年齢の子が友達と遊ぶのに制御する事ができるのだろうか?

 遊び過ぎてしまったと悲しそうな顔をしているのを咎める事ができるのだろうか……


「冬夜君、海は楽しかったかい?」


 そう尋ねれば、明らかに見て分かるほどに表情が変わった。


「凄く楽しかったよ、雷が生まれたままの姿で海を感じたいと言って風に怒られたり、ハルがワカメに絡まったりしてたよ。」


 凄く楽しそうに話す冬夜君の目にはまだ力があった。

 大丈夫だ、まだ彼は諦めていない。


「海へ行ったなら、海水で汚れているだろうし体を拭かせて貰っても大丈夫かな?」


 勤務中の感覚で声をかけただけだったが、冬夜君は恥ずかしいから自分で拭きますと答えた。

 そうか……年頃だもんな……とみょうに納得してしまった。


 冬夜君の清拭が終わると、布団の用意がしてある冬夜君の部屋へと運ばせて貰った。


「いまの先生がハルだったらな……」


 そう話す冬夜君は残念そうにしていた……

一瞬、どういう事が理解が出来なかったけれど、さっきのハルの態度を考えれば答えは1つしか浮かばなかった。


 そうか……相手は冬夜君なんだな……


「先生、僕は先生に謝らなければならない事があります。」


 そう話す冬夜君は真剣な面持ちをしていて、俺は冬夜君と向き合う形で腰をおろした。

 冬夜君は、深く深呼吸をすると俺の目をみて話し始めた。


「ハルを、傷物にしてしまいました。」


 ハァ?

 

 思わず出た言葉に、先生のそんな顔は初めて見たと驚きの表情を浮かべていた。

 頭をフル回転で動かしても、言っている意味が分からない……と言うよりも脳が機能していないようだった。


「ハルの唇を何度も奪ってしまいました、本当はハルの全てを手に入れたい気持ちは有るんですけど、そこまで出来る勇気がまだ無いので安心して下さい。」


 そう話す冬夜君の顔があまりにも真剣で、その気持を否定する事は憚られた。


「ハルと仲良くしてくれてありがとう」


 それしか返す言葉が見つけることが出来なかった。

その後、問診と触診の後に少し話をした結果、冬夜君の希望も聞くことが出来た。

 現時点では様子見、頑張りすぎによる疲れから体調が崩れた都薫子さんには説明をした。


 今日は、しっかり休むことを伝えると俺はその場を失礼することにした。


 医者として、親として覚悟を決めないといけないと思いなから自転車のペダルを漕ぎ出した。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回も読んで頂けると嬉しいです。

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