冷静になれる場所
冬夜に会いたい……そんな気持ちだけで速まる歩みを感じながらも、視界の先に冬夜のおばあちゃんの家が目に入った時、スーッと頭が冷えた気がした。
冬夜は体調を崩して休んでいるのに俺は、自分の欲望のまま突き進んでしまった……
家へと行けば間違いなく外へと出て来てはくれるだろう。
その事によって冬夜が悪化する事になったら自分自身を許すことが、出来そうにない。
冬夜の部屋が見える場所まで移動すると、風鈴の音色が聞こえてきて、おっちゃんから貰った風鈴かと思うと口元が緩んだのに気付いた。
本当に、俺達の関係は人に迷惑をかける行為なのだろうか?
お互いに好きになり、付き合うことになって誰かに迷惑をかけただろうか?
異性なら、誰も何も言わないのに……
周りの目が気にならないと言ったら語弊があるけれど隠しながら付き合う事が良しとも思えない。
考えても考えても答えが見つからない……
ただ、今は冬夜の近くに居ると思うと胸の奥のモヤモヤとしたものが少し晴れたような気がした。
やっぱり帰ろう……
自分の家へと帰ろうと冬夜の家に背を向けたと同時に後ろから名前を呼ばれた気がした……
「ハル!」
もう1度名前を呼ばれ、振り返ると俺の目は冬夜を捉えたと同時に涙が止め処なく零れ落ちた……
今まで見たことのない表情で近づいたきた冬夜が俺を抱きしめた。
冬夜に抱きしめられると、この上ない安心感に言葉が落ちた……
「俺達の関係は人を不快な気持ちにさせるのかな……」
そんな事はないと無いという気持ちと、もしかしたらと思う気持ちが葛藤して上手く息をする事ができなくなってきた……
その時、俺を抱きしめている腕に力が入ったのと同時に優しい声が耳に飛び込んできた。
「ハル……落ち着いてゆっくり息できる?」
その優しさに嬉しくなり、更に涙が止まらなくなってしまったけれど、冬夜が大丈夫だよと言いながら、ずっと俺を抱きしめてくれた。
どれくらいの時間が過ぎたのかは分からないけれど、曇り空の隙間から濃いオレンジ色の光がのぞいていた。
「ハル少し寒くなってきたし、まずは家に入りなよ」
そう促されて手を引かれながら冬夜の家へと足を進めたけれど恥ずかしくなってしまい冬夜の事を見ることが出来なかった。
冬夜の部屋へと通された俺は、おばあちゃんに話をしてくると部屋から出ていった方向を、ただ見つめることしか出来なかった。
✽✽✽✽
「ハルなにかあった?」
そう尋ねながら、あまり見たことのない真剣な面持ちで俺の目の前に腰を下ろした。
どう言えば良いのかと悩んでいると、冬夜は俺の両手を包みこんだ。
「いい辛い?」
そう尋ねると、俺の気持ちを汲んで話出せるまで待っていてくれるようだった。
「俺達の関係は周りの迷惑になっているんじゃないかと思って……」
一瞬、大きく見開かれた冬夜の両目は悲しみを滲ませている様にも見えたその時、冬夜に両手を引かれると今度は座った状態のまま、冬夜の腕の中にスッポリと収まった。
「ハルは僕と一緒に居るのは迷惑?」
頭の上から注がれた言葉に、そんな事はないと答えるとハァ〜と長い溜息を付いて俺の肩にあごを乗せた。
「僕はハルが迷惑ではないなら、それでいいよ、僕とハル2人が大丈夫なら他の人が何を言っても僕には何も響かないから……」
そうか……そんな簡単な事だったんだ。
亜樹ちゃんの言葉に、ムキになり俺と冬夜のきもちを蔑ろにしていたのかも、しれない。
お互いに思い合っている人たちを、たとえ友達でも認める認めないは、御門違いな事なのかもしれない。
ひとつの意見として受け取れば良かったんだ。
そう頭が理解して安堵からかまた涙が零れた……
「ハルは僕と付き合ってから泣き虫になった?」
唐突な質問に顔が火照るのが分かったけれど、そうかもしれないと笑顔を見せると冬夜の表情が変わった。
「ハル……口付けても?」
嫌ではないけど、冬夜は体調を崩しているから無理はしないほうが良いのでは?と伝えるも、この時期は少し体調を崩しやすいから大事を取っただけと言いながら、冬夜の手は既に俺のあごを捕らえていた。
覚悟を決め目を閉じると冬夜の気配を感じ、初めて唇を重ねた時とは違う、口づけに頭が真っ白になっていった、俺が分かったのは窓際につるされた風鈴の音色と冬夜の息遣いだけだった。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
また続きを読んでもらえると嬉しいです。
❇更新が遅くなりすみません。




