湿度の憂鬱
あの日を最後に俺と冬夜は【くちずけ】はしていなかった。
今まで通り、特に進展もなく俺が1人でモヤモヤした日々を過ごしていた。
梅雨に入り気持ちも落ち込み気味なのに、あろう事か今日は冬夜が体調不良で欠席していて1日が物足りなく感じていた。
そんな事を考えていると、後ろから肩を叩かれ振り返るとそこには亜樹ちゃんが立っていた。
「ハル、帰りに会うのは久しぶりだね。」
亜樹ちゃんたちが卒業してから本当に会う時間が減ったと改めて感じた、卒業直後はなんだかんだ理由を付けて2人で学校に来ていたけれど、最近ではそれも無くなった。
「亜樹ちゃん、最近は忙しい?」
そう問いかけた俺に、亜樹ちゃんは授業の内容が難しくなって付いていくのが大変だよと小さく笑った。
やっぱり、亜樹ちゃんはしっかりしていると思いながら、そんな亜樹ちゃんなら俺の悩みを笑わずに聞いてくれるのではないかと、根拠のない考えが浮かんだ。
そういえば、こなっちゃんとはどうなったのだろう?
「ハルもしかして言いたいことがある?」
不意打ちの質問に驚きが隠せなかったけれど、単刀直入に亜樹ちゃんに質問する事にした。
「亜樹ちゃん、こなっちゃんと進展あった?」
そう尋ねると困ったような笑顔を浮かべていた。
「小夏はさ……俺のことなんて友だちとしてしか見ていないよ。」
亜樹ちゃんが、こなっちゃんの事を名前呼びしているのを聞いて2人の関係が中学の時とは違うものに変わったのが、鈍い俺にも分かった。
「いずれ皆の耳にも入ると思うから先に言っておくと、実は俺と小春は婚約したんだ。」
亜樹ちゃんの言葉に興奮を覚えた俺とは対照的に、亜樹ちゃんの眼鏡の奥の瞳は何故か憂いを帯びていた。
婚約しても一方的な気持ちは変わらないと思う……
そう誰に聞かせるでもなく呟いた亜樹ちゃんに考えるよりも先に口が開いてしまった。
「ずっと気持ちが一方通行かは分からないよ!その事を故なっちゃんに、聞いたの?亜樹ちゃんが話してくれたから俺も話すけど、俺は今付き合ってる人が居て、好きだと言われた時は自分の気持ちが分からなかったけど、今は俺のほうが好きなんじゃないかと思ってるよ。」
一気に言いたいことを言って、亜樹ちゃんの、顔に視線を向けるとポカンとした表情で俺のことを見ていた。
そんな状態のまま数秒間、微動だにしなかったのに堰を切ったように笑い出した。
ひとしきり笑った後に、お礼を言われた。
「まさか、ハルに諭されるとは思わなかったな……もしかして彼女の影響なのかな?」
亜樹ちゃんの言葉に、おもいきり後頭部を殴られたようだった。
付き合っている人が居ると言えば、疑うこと無く相手が異性だと思うのだろう……
風と雷の事は置いておいても、世間一般からみたら、異性と付き合う事は【普通】と認識されているに違いない。
俺と冬夜は普通ではないのか……?
俺が、そこを否定したら俺の気持ちも冬夜の気持ちも無碍にするみたいで嫌だ!
「彼女じゃないよ。」
亜樹ちゃんの顔が強ばったのが見て取れた。
「彼女じゃない、彼氏だ!」
そうハッキリとした口調で答えると、亜樹ちゃんからは、いつもの表情が消えると、みるみるうちに嫌悪感を浮かべた様な顔付になった。
あんなに仲が良かったのに一瞬にして崩れるのか……
それが悲しいと同時に悔しかった……
無意識に奥歯を噛み締めていたのだろう、ギリリと音が鳴り俺と亜樹ちゃんの、関係にヒビが入った音のようだった。
態度に出ていたのか、亜樹ちゃんは取り付くような顔を浮かべていた。
「俺達は、悪いことはしていないけれど、無理して理解してもらおうとは思ってないから……亜樹ちゃんとは少し距離を置いたほうがお互いに良いと思う。」
俺の言葉に、亜樹ちゃんは小さくゴメンと、言った気がした……
お腹の中がモヤモヤとして気持ちが悪くなり、俺は亜樹ちゃんに背を向け前を向いて歩き出した。
「ハルの相手は冬夜なの?」
その質問に答えること無く歩みを早めた。
この、じっとりとした湿度のせいなのか、それとも信頼していた人から拒まれた事への苛立ちなのか……。
物凄く憂鬱に感じて、お見舞いと託つけて冬夜に会いに行こう……。
今回も最後まで読んで頂きありがとうございます。
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