言葉よりも伝わる事もある
冬夜が落ち着いてきた頃には既に太陽は姿を隠していた。
冬夜は、こんな一面を持ち合わせていたのかと思うと不思議な気持ちになりつつも、冬夜の涙がツライものでは無いことを願わずには居られなかった。
「ハルごめん……」
そう言いながら俺の手を引いて歩き出した冬夜の顔は、よくは見えなかったけれど目元が赤く染まっている様に見えた。
冬夜と初めて出会った時は、同じぐらいの身長だったのに、この1年程で何故ここまで差が出たんだろう?
少し前までは羨ましさが勝っていたけれど、今日あの時に冬夜の腕に包まれた時に今まで感じたことののない癒やしと包容力に骨抜きにされてしまったようだ。
俺はなにも嫌な思いをしていないのに、冬夜はどうして謝っているんだろう……
「ごめんよりも、ありがとうの方が嬉しいのにな……」
思ったことが、そのまま口に出てしまい冬夜と繋いでいる所に力が入ったと感じたと同時に冬夜は立ち止まり、顔を夜空へと向けた。
「ハルありがとう、同じ事を何度も言うようだけど、ハルに出会えて恋することを教えてくれて本当にありがとう僕は幸せものだよ。」
そう話す冬夜の目尻からキラリと光る一筋の何かが流れ落ちた。
「俺も冬夜に、こんなに好きになって貰えて嬉しい、俺も冬夜の事を好きになれて幸せだ、俺にここまで好きにさせたんだから責任もってくれるよな?」
そう問いかけると、冬夜は当たり前だよと言いながら上を向いて歩き出した。
細身では有るけれど、俺から見たら大きな背中に頼もしさを感じながら、冬夜は何に対してこんなにも泣いているのだろうか?
少し前までは上手く隠していたのに、今は鼻を鳴らしながらも気づかれないように装っている姿のアンバランスさに思わず自分の顔の筋肉が緩んでいる事に気づいた。
みんなは冬夜を格好いいだの王子様だと言うけれど、いま俺の前を歩いている姿は、なんとも言い難い程に可愛いく愛らしく見える。
俺だけが知ることが出来る姿だと思うと特別感を味わった。
✽✽✽✽
お互いに話すタイミングが合わなかったけれど、無言で歩いていても苦にならなかった。
繋いだ手にはお互いの汗が絡み合い油断すると解けてしまいそうになるのを必死に食い止めようとしている自分に気づいた。
もしかしたら、俺のほうが冬夜に対しての気持ちが大きくなったのかもしれないな……
「ハル、また明日も楽しもうね。」
冬夜の言葉で家の前まで着いていた事に気づいた。
もう日も落ちた、明日も学校があると言うのに離れがたい気持ちが沸々と湧き上がってきた。
この気持ちをどうすれば伝えられるのか……
俺が何かを伝えようとして居る事に気づいた冬夜は、俺と向かい合うと繋いでいない、もう片方の手を自分の手に絡めると、一瞬何かを考えた後に口を開いた。
「ハル、さっきの言葉を撤回しても良いかな?」
そう質問をしながらも冬夜の赤く腫れた目は拒む事は認めないと訴えていた。
俺は冬夜と繋いでいる両手に力を込めながら小さく頷いた。
「僕は今ハルに、くちづけしたいと思っているんだけど怖くない?」
そう問いかける冬夜の眼差しは優しく、怖さなんて微塵もかんじる事はなかった。
「冬夜を怖いなんて思わないよ……」
そう答えるだけで精一杯の俺に、ふにゃりとした笑顔を向けた後、真剣な面持ちの冬夜が徐々に近づいてきた。
「ハル目を閉じて」
唇が触れると思ったと同時に冬夜は俺の耳元に切なそうな声色で囁くと俺は、目を閉じることしか出来なかった。
ただ唇と唇が触れ合うだけの行為……
けれど、初めて冬夜と触れ合った場所から感じる温もりに、俺は全てを委ねてしまいたくなっていた。
この時、俺達の頭上には【ひしゃく星】がキラキラと煌めいていた事に俺は微塵も気付いては居なかった……。
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