表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/52

初夏の風

 何で源さんが居たのか、冬夜に何を言ったのかが物凄く気になる……

 聞いたら変に思われるかな?そう思ったと同時に冬夜と目が合った。


 素直になろう。


「さっき源さんは冬夜になんていったの?」

 俺の発言に、目尻を下げながら笑う冬夜の表情に目を奪われた。


「ハル、もしかしてヤキモチを焼いてくれたの?」

 恥ずかしいから違うと誤魔化す事はできるかもしれないけど、もう自分の気持ちに嘘は付きたくないと思い、素直に頷いた。

 冬夜は、そうなんだと言いながら繋いだ手とは反対の手で口元を押さえていた。


 初めて見る冬夜の表情や、あまり聞いたことがないトーンの声色に何故だか鼓動が早くなるのを感じた。

 自分に素直になった事で、冬夜の新たな一面が見れて、これからも素直な気持ちを伝えようと心に決めた。


「源さんは失敗したり間違ったりしても良い、むしろドンドン失敗したり間違ったりして自分で気付く事が大事だと思うぞ、けれど後悔だけはしては駄目だ、俺ならばやらずに後悔するよりも、やって後悔する方を選ぶが、決めるのは自分自身だぞ、そうアドバイスして貰っていたんだ、ハルが見たのはガンバレと言われた時だと思うよ。」


 そう話す冬夜の顔は、本当に同じ年なのかと疑いたくなるぐらいに大人っぽかった。

 そんな冬夜をただただ見つめていると。


「そんなに見つめられると、さすがに恥ずかしいよ」

 そう言いながら笑顔を向ける冬夜の視線に、いたたまれずに視線を繋いだ手に落とした。


「別に嫌なわけではないよ、やっぱり好きな人に見つめられると僕でも恥ずかしい」


 2人の間に少し心地よい沈黙が訪れた後に少し湿り気のある風が吹いた。


 「夏が来る前の風みたいだね。」

 そう、冬夜に声をかけると冬夜は嬉しそうに口を開いた。

「ハルと出会ってから、もうすぐ1年が経つんだね、あの頃はこんなに幸せな時間が過ごせるだなんて思っても居なかったよ。」

 

そう話す冬夜は本当に嬉しそうだった。


「俺はかなり驚いているよ、あの頃の俺は誰かと付き合うとか想像すら出来なかった、今は俺と付き合ってくれる冬夜に感謝してる。」


 少し前まで、にこにこしていた冬夜が何故か顔を伏せた。

 何か変な事を言ってしまったかと思い、冬夜の顔を覗き込むと眉間にシワを寄せていた、冬夜の漆黒色をした睫毛がなんだか濡れているように見えたのは気の所為だろうか?

 冬夜と名前を呼び繋いだ手に力を込めると、顔を上げた冬夜はいつものように笑顔を向けていた。

 ただ、いつもと違うのは睫毛だけではなく目尻にも光る物が見えた。


 敢えて言う必要性が浮かばなかったから、笑顔だけ冬夜に返した。


 手を繋いでベンチに座っているだけなのに、こんなにも心が満たされるのは初めてだった。

 このまま、ずっと穏やかに過ごして行きたいけれど時には喧嘩をする事もあるかもしれないと思うと、少しだけ楽しみになってきた。

 冬夜は怒っても、そんなに怖くなさそうだと思うと笑えてきた。


「ハル、何で笑ってるの?」

 心配そうに俺の顔を見ている冬夜は、さっきまでの大人びた感じとは違い年相応な表情で安心した。


「冬夜と喧嘩して怒らせても怖くなさそうだなって思ったら笑えてきた。」

 俺の言葉を聞いた冬夜はハルには怒らないよと言いながら又うつむいてしまった。

 その状況がなぜだか分からないけど楽しかった。


「冬夜は俺だけに怒らないの?でも俺は、これから冬夜の見たことがない姿や表情をたくさん見たい。」

 そう言うと、冬夜の顔がハッキリと分かる程に赤く染まっていった。


 それを悟られない様にしているのか、冬夜らしくない早口で、ハルのお父さん帰ってきたの?と質問された。

 こんな風に早口な姿を見るのは初めてだった、きっと皆も冬夜のこんな姿は想像すらできないだろうと思うと少しだけ優越感に浸ってしまった。

 そんな気持ちがバレない様に、冬夜の質問に答えることにした。


「そうなんだ、母さんのお腹に赤ちゃんがいて、これからは一緒に暮らせる事になったんだ。」

 俺の返事を聞いて、冬夜の目がキラキラと輝いた様に見えて、こんな表情もするんだと思った時、さっきよりも少し強めの風が吹いた。


 出会った頃よりも伸びた冬夜の髪が風に揺れてドキドキするような色気を感じて、本当はもう少し話をしたかったけれど、そろそろ帰ろうと伝えた。


 いつもは並びながら手を繋いで歩いても、恥ずかしくなる事は減ってきたのに今日は気恥ずかしくて冬夜の手を引きながら歩いた。


 きっと、いい雰囲気なんだろうけど田んぼの近くを通った事もあってカエルの鳴き声で全てが台無しだ。

 時折、吹く風は夏前の梅雨を誘うようだった。

今回も、最後まで読んで頂きありがとうございます。

次回も読んで頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ